第四章 映画大学の映研カレー蕎麦 5
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昼の混雑時、やはり自分たちの作品しか上映されていないとういうのは居心地が悪いので、菜乃と芽里亜はレコンキスタの和風カレーそばの模擬店を積極的に手伝うことにした。
飲食店用のバンダナ、菜乃は黒、芽里亜は茶をつけている。
「あ!あのー、映画すごくよかったです!ひきこまれました!今も胸が苦しいです!」
これはさっきのリスっぽいコの方。
菜乃も芽里亜も「どうも」とか「ありがとうございます」とか云っていたが、星ヒカルが「ちょっとくらい外れてもいいんじゃない」と云ってくれたので、いそいそとバンダナを取った。
義理堅く、二人の高校生はカレーそばを買ってくれた。
その間に菜乃は「いいんじゃない?」、芽里亜は「ありだね」と会話。
「お二人さん、実はあの『二人の失楽園』を撮ったのは私たち二人だったんだ!」
これは菜乃の台詞。
「じゃないかと思ったんですよ!だからこのチラシに書かれた『お帰りの際にはレコンキスタ名物カレーそばをどうぞ!』で又会えるとかと思って来たんです!」
これは猫っぽいコ。
「私たち、映画やアニメ観るのは好きだけど、作ったことどころか、作ろうとしたことなくて、あ、小説は書いたりしているんですよ!でもなんとかしたくて、それでこのフェスティバル来たんですけど、率直にお伺いします!お二人は『二人の失楽園』、何作めで、やっぱり高校の頃から映画撮ったり・動画配信していたんですか!?」
こっちはリスっぽいコ。
芽里亜、ニヤリと笑う。
「いえ、これが第一作で、この子の出会ったその夜に創ることを決めたのが約四か月前だよ」
「すごーーーーーーーーーい!!!!!!!!」
これは猫っぽいコとリスっぽいコ、二人いっぺん。
そして菜乃と芽里亜が模擬店に戻るのは13時頃となるのであった。
15時には「二人の失楽園」の席は全て埋まった。
そんな時、彩だが、部室にある蕎麦を持ってくるところであった。
フェスタでも学祭でも模擬店でカレーを出すサークルが多い中、蕎麦というご飯に比べちょっとヘルシーな印象があるから、二杯目にレコンキスタのカレー蕎麦という客は多い、だから売れる。
そのために生そばが無くなりかけてきたから部室に来た。
その時にちょうど部室から出てくる巨漢がいた。
Tシャツに麻のジャケットというラフないでたちだが、そのシャツはヴェルサーチ。
「何しにきやがった」
彩、調子のいい男で、押しが強いが、こういう乱暴な口を利く男ではない。
「蕎麦か。おまえんちの実家の生そばとダシでうちのカレー蕎麦、美味いもんな」
男が云うように彩の実家は西荻窪で70年続く蕎麦屋であった。
「伊野、オレは何にしにきやがった、と聴いているんだ」
彩が呼びかけた男、伊野聡吾、24歳である。
「なんか、女子部員二人がフェスタ用に作った短篇ですごく話題になっているらしいじゃないか、観に来た」
「あいにくだったな、たった今、ソールドアウトだ。そのうち配信するだろうから、家でみてくれや」
「とっとと帰れということか」
「ああ、野笛に会う前に帰れって」
だが、野笛は蕎麦以外にも箸と容器も減ってきたので、簗木部長と虎丸という荷物運び二人を伴って今まさにこの場所に到着したところだった。
「久しぶり、伊野さん。ご活躍じゃない、ちゃんと観ているよ」
「ノブちゃん、久しぶり。就職祝いには何か贈るよ」
「いいよ、今考え中だし」
「あれ、お父さんの会社に関係するメーカー系にするんじゃなかったってけ」
「ううん、ちょっと四年生になってようやく映画制作に面白さに目覚めちゃっから。恥ずかしい限りだ」
「へー、そんな面白い現場だったのか、話題の映画は」
確かに伊野は少しバカにするような声色だったのかもしれない。
だからか、彩は右手で伊野のTシャツ首根っこを掴もうとした。
だが見事にかわされて上に、軽く背中を蹴っ飛ばされ、彩はこけた。
―うわ!!恥ずかしい!!
虎丸の感想。
野笛が移動して、伊野の前に立つ。
「伊野さん、ごめんなさい。今日は帰って」
「そっか、簗木ときみら二人しか会ってないし、カレー蕎麦も食ってないが、その方が良さそうだな。そいつにちゃんと説明しといてくれよ」
伊野が帰ろうとした時、模擬店で虎丸の居場所を聴いたあきらがちょうどやって来た。
「なんだ、おまえ?うちの学生におまえみたないヤツがか!?当ててやろう、話題の映画の主演の少年、コイツだろう」
伊野があきらを視て云った台詞に野笛は「正解」とだけ返した。
彩が立ち上がった時にはもう伊野はいなかった。
簗木部長は虎丸とあきらに指示を出し、蕎麦や使い捨て食器を手にした。
そして二人を連れて早々に立ち去る。
「部長、あの人」
「ああ、イロドリ先輩とノブさん二人にしてやろうじゃないか、伊野聡吾、映画監督、ノブさんの元カレだ」
虎丸は「ああ」とだけつぶやいたが、あきらはなんにも云わなかった。
帰り着くとアニ研スクラムの綾川がいて、簗木部長に話しかけた。
「伊野聡吾、来たんだって」
虎丸は綾川に説明を求めた。
これは虎丸が後にネットで調べたことも含む。
伊野聡吾、彩翔と同年入学し、年に短篇5本撮り続けて、映大創業以来の巨匠と云われる。
その活動を支えた一人が彩であった。
ただ1本1本グレードアップし、一年生の時点で、地下アイドルや子役事務所を直に回り、役者の質を徹底的に上げた。
二年生の時には学外の監督志望たちとシリアス・ユナイテッドを立ち上げ、そのメンバーと総合扶助で作品を作る際に助け合い、youtubeでチャンネルを作り人気コンテンツにする。
そこでもブレーンとして彩は付き合いがあったが、三年の時に入学した河都野笛をめぐる恋のトラブルともうセミプロになっていたから多忙となり大学に来なくなったのは、どの順番かは当事者しか知らない。
「でもさ、虎丸くん、河都さんが伊野さんが付き合ったから興味なくなったんではなくて、ノブちゃんが二十歳越えたから、興味なくなったんだよ」
「綾川さん、その情報いらないっス」
虎丸、自分の性癖で差し置く。
そして2年前、伊野はシリアス・ユナイテッドの力を借り、スポンサーも背後につけ、低予算映画「児戯なき闘い」を主要都市5か所のミニシアターでレイトショー公開。
これがヤクザの抗争を描きながら、ラスト30分で本格ミステリ的展開と変わり、今流行りの流血ヴァイオレンスと見せかけ、チェスタトン流〈気を隠すには森の中〉理論を極限まで高めた傑作と口コミで評判となり、一挙に全国のシネコンで公開される。
「カメラを止めるな!」くらいには動員され、評価も得た。
その後はシリアス・ユナイテッドの仲間に脚本を提供したり、深夜TVドラマやサブスクの1話監督をしつつ、次回作を思案中ということ。
「まぁ、結局卒業しなかったけど、一学年上にあれだけの剛腕で勝ちを得てきたひとだから、影響は受けたね。簗木くんの学年までしか知らないだろうけど、オレがアニメで天下取るとかほだされた理由の一人ではあるね。本年度絶対卒業しないとな」




