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魔法使いは鏡の中で笑う  作者: こま猫
第一章 人格転移で右往左往
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カウンセリング開始

 でも、考えてみれば、確かに気持ち悪いかもね。

 わたしは小さく唸りながら廊下を歩く。

 見た目は少年なのに、女言葉と女みたいな仕草。どこからどう見ても立派なオカマ。

 うん、ダメだわ。普通に危険人物だわ。

「やっぱり敬語かしら」

 ふと、わたしが呟くと、クレアが問いかける視線を投げてきた。「このままだとわたしは変人扱いでしょ。いっそのことレイチェルに弟子入りして、男役の演技を教えてもらったほうが良さそうじゃない?」

「確かに」

 クレアも頷く。

 よし、まずは敬語だ。

「あの、グレイとやらについて訊いてもいいですか?」

 わたしはエドガーの後ろ姿に声をかけた。「殺人者ということは解ったんですが、具体的にはどんなことを?」

 意識して平坦になるように発音する。少年っぽく、脱オカマを目指すのだ。

「ああ」

 エドガーはちらりと振り返り、すぐに前を向いた。「あいつの手段はシンプルだ。誘拐した女を台に括り付け、血抜きをして殺す。同時に血管に防腐剤を入れて、その後、最低限の切開をして腐りやすい内臓を除去」

「ちょっとエドガー」

 わたしの後ろからマチルダの鋭い声が飛んだ。「これから食事しようってのに、それはないでしょ」

「あ、すまん」

 血抜き……防腐剤……。それをこの少年が?

 わたしは唇を噛んで考える。

 わたしが怪我をしなかったら、今頃は。

「悪かったな」

 エドガーが少しだけ声のトーンを落とす。申し訳なさそうに、歯切れ悪く続けた。

「正直に言うと、お前の顔を見てると事件の内容を思い出して気分が悪くなるんだ。近寄って欲しくないのは、口調とかがだけが原因じゃない。まあ、あの鉄仮面クソ野郎が女言葉っていうのも確かにアレだが」

「鉄仮面クソ野郎……」

 わたしはクレアと一緒に微妙な顔をすることしかできない。

 捜査官である彼らは、今までグレイ・スターリングの犯罪を目にしてきたんだ。それは、少女たちの殺害であり、その遺体への冒涜というもの。

 わたしには理解できない感情があるのは間違いない。

 エドガーのわたしに対する最初の態度は最悪だったけれど、それも仕方ないことなのだろう。

 かといって背中を踏まれたことは忘れてやらないけど。

 局長代理がわたしに対して態度がアレだったのも、それが理由かな。

 ついそれを口に出すと、背後からマチルダのつまらなさそうな声が飛んできた。

「あれはただの人間嫌い。誰に対してもああだから、気にしないで」

 ああ、なるほど。何となく納得。

「それはさておいて、こんな凶悪犯が、世の中にはたくさんいるんですか?」

 わたしは続ける。「中央はたくさん仕事を抱えてるから、地方までは手が回らないって言ってましたけど、こんな事件はありふれたものなんですか?」

 するとエドガーが頭を掻いた。

「少なくはないな。ただ、グレイみたいに若いうちからここまでやるヤツは少ない。……育った環境が悪かったんだな」

「環境……」

「あんたはいいところのお嬢さんなんだろ。だから、解らないと思うよ」

 エドガーは苦笑した。それきり、彼は口を閉ざしてしまう。

 わたしたちは食堂に案内されて、テーブルについた。

 食堂は広い。飾り気のないテーブルと椅子が整然と並び、厨房が見えるカウンターが奥にあるのが見えた。

 この場にいる捜査官たちはそれぞれ食事をしながら談笑し、やがて使った食器をカウンターに返して食堂を出ていく。

 こんな場所で食事をするのは初めてだ。

 わたしは屋敷の中が生活の全てだった。そりゃ、抜け出して外の世界を見ることが趣味とはいえ、すぐに屋敷に戻って安全な部屋でのんびり生きてきたわけだ。

 甘やかされている。

 それは多分、間違いない。

 お父さまもお母さまも、わたしには優しい。あらゆるものを与えてくれる。それが当たり前だった。

 グレイ・スターリングはどんな風に育ったんだろう?

 どんな環境が殺人者を作ったんだろう?

 確かに、わたしには連続殺人犯の考えてることなんか理解できない。したくもない。

 でも多分、これから関わることになるんだから、少しでも理解しないといけない。

 絶対に捕まえてもらわなきゃいけないんだから。


 食事が終わって、拷問の時間がやってきた。

 エドガーは宿舎の風呂場に案内してくれた。良かった、個室だ。

 でも、わたしはお風呂やトイレにいくたびに思うだろう。

 ファッキン・グレイ!


 翌朝、わたしはクレアに起こされた。

 何だか嫌な夢を見たようで、よく眠ったはずなのに気分は最悪だった。

 眩暈すら覚えるので、ベッドから降りるまで十分。クレアが心配そうに肩に手を置くので、わたしは無理やり微笑んだ。

「食事取れます?」

「大丈夫。ありがとう」

「それならいいですけど……今日はカウンセリングとかで、午前中から呼ばれてるんです。体調が悪ければ言ってきますけど」

「大丈夫よ」

 わたしはそう口にしてから言い直した。「本当に大丈夫。ちょっと寝覚めが悪いだけ。ごめん、色々心配かけて」

「何おっしゃるんですか」

 クレアが少し困惑してわたしを見る。いつになく元気のないわたしに戸惑っているようだ。

 心配させてどうする!

 わたしはパシパシと頬を両手で叩き、気合いを入れた。


 カウンセリングとやらは、司法局の二階にある部屋で行われた。

 マチルダがわたしをその部屋に案内して、わたしだけを置いて出ていく。

 そこは応接室みたいな場所だった。

 造りがしっかりした落ち着いたデザインのテーブル、ソファ。大きめの窓にカーテン。

 ソファの一つに座っていた初老の男性が立ち上がり、軽く頭を下げてきたので、わたしも慌てて挨拶した。

「エアリアル・オーガスティンです。よろしくお願いします」

「ハワード・コールターです。どうぞ、おかけください」

 彼は品のよい笑顔を浮かべ、洗練された動きでわたしに座るよう促した。

 お父さまより年上らしい。白髪混じりの髪の毛は綺麗に撫でつけられていて、紳士というのに相応しい雰囲気を持っていた。

「緊張していますか? あまり顔色が優れないようですが」

 ハワードは心配そうにわたしを見つめ、壁際にあったサイドテーブルに近づいた。その上に置いてあった水差しからグラスに水を注ぐと、わたしの前にあるテーブルに置いた。

「あ、ありがとうございます」

 わたしはグラスを手に取ったけれど、何だか落ち着かず、グラスを弄んでいた。彼はソファに腰を下ろしながら言う。

「慌てず、まずは少しずつ会話するところから始めましょう」

 そんなんでいいんだろうか。

 グレイの居場所を突き止めるための行為なんじゃないの?

 何か色々訊きたいんじゃないの?

 そんな疑問が顔に出ていたらしく、ハワードは小さく笑い声を上げた。

「わたしは捜査官ではありませんから。あなたの話を聞くのが仕事ですよ」

「わたしの?」

「はい」

 柔和なその顔立ちは、見ていると落ち着く気がした。

 とりあえずわたしは息を吐く。そこで、やっと自分が息を詰めて緊張していたと実感した。

「ただ、すみません。少し、額に触れてもかまいませんか?」

 ハワードが申し訳なさそうに首を傾げて見せた。わたしは少し笑いつつ頷く。

 彼の手のひらは温かかった。じんわりと熱が伝わって、それから手が離れる。

「なるほど……解りました、ありがとうございます」

 彼はそう言って、少しだけ痛ましそうな視線をこちらに向けた。

「あの、何か?」

 わたしが眉を顰めると、ハワードはしばらく沈黙し、言葉を探しながら口を開く。

「あなたは、記憶を封じ込めているようです」

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