表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いは鏡の中で笑う  作者: こま猫
第五章 殺人者の記憶

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/128

閉鎖された場所

 三人組が屋敷の外に出ていった後、僕は屋敷の地下室へと降りた。通常は荷物で入口を隠してあるところだ。

 地下室は二つある。一つは金目の物を隠しておくための部屋、もう一つは外部への逃げ道のある小さな部屋。僕はその小さな部屋に鏡を運び込み、壁に取り付けていた。もちろん、狙いはこの鏡を使ってエアリアルに接触をするためだ。

 ここにある部屋にはほとんど家具もなく、エアリアルに見られたとしてもこちらの場所の手がかりになるものはない。念のため、明かりは必要最低限の明るさになるように調整した。


 エアリアル――自分自身の身体が動いているのを見た時、やはり少しだけ微妙な感覚を覚えた。


 彼女が偶然、鏡を見た。どこか奇妙な目つきで覗き込んだ彼女を見て、僕は直感した。

 ――彼女は、敵だ。

 僕の心臓が嫌な音を立てる。

 レティシアの匂いがする。何だろう、これは。彼女は何者だろう。

 よく解らない。しかし、これだけは直感的に解る。エアリアル・オーガスティンはレティシアと同類だ。


 頭のどこかで、目の前の彼女が危険な存在だと叫んでいる。関わってはいけないのだと。

 しかし、レティシアは彼女を適度に見張れと言った。それに逆らうことはできない。


「エアリアル・オーガスティン」

 僕は彼女に話しかけた。大丈夫、笑顔はいつもと同じように作れたはずだ。緊張はしていたものの、誤魔化せたと思う。

 よく考えろ。優位なのはこちらだ。エアリアルが敵であるならば、その動きを掌握しなくてはならない。どんな手を使っても、彼女を従えなくては。

「記憶を失ったみたいだね、残念だよ」

 そう言いながら僕は必死に頭を働かせる。僕がかけた魔法のせいで、彼女は何も覚えていないはずだ。彼女は僕のことをどう考える? 恐ろしい連続殺人鬼? それなら好都合。

 レティシアのやりかたを真似すればいい。恐怖で相手を委縮させればいい。


 エアリアルは明らかに怒りと嫌悪に満ちた目で僕を見た。恐怖の色が見えないのが不思議だった。

 一瞬だけ、彼女から目をそらしたくなった。もちろん、そんなことをしたら負けたも同じことだから絶対にしないけれども。


 レティシアは何を考えて、エアリアルに目を付けた?

 なぜ、見張らせる?

 そしてなぜ、僕は彼女にレティシアの匂いを感じるんだろう。

 レティシアと同じように、エアリアルも恐怖という感情を知らないのだろうか。あの化け物みたいな女と、もし中身がよく似ているのならば。おそらくエアリアルは将来、僕にとって凄まじい脅威となる。

 しかし。

 彼女はやがて恐怖を滲ませた瞳で僕を見つめ返した。それは、僕が彼女の家族に対する攻撃性を見せた時。この鏡の魔法のことを誰かに言った場合、エアリアルの両親を殺すと伝えた時。

 明らかに彼女は怯え、泣きそうな表情をした。それは演技には見えなかった。

 ただ、その怯えた顔がグレイ・スターリングの顔であることだけはどうも慣れることができなかったけれど。

 でも――少なくとも、彼女はレティシアよりも人間的だ。


 さて、これからどうするか。


 僕は彼女に対する最初の接触の後、何日間か考え込むことになる。

 レティシアは僕に禁呪を使わせたことで、司法局の監視の目が厳しくなるだろうと言っていた。事実、あれからレティシアの接触はない。何の気配も感じない。

 正直に言えば、司法局の目を盗んで僕に接触をしたこともおかしな話だ。確かに彼女は魔法使いとして凄まじい力を持っているけれど、司法局は神殿の連中の力を借りてそのレティシアの力を封じている。

 普通に考えれば、あの接触は危険な行為だ。僕がエアリアル・オーガスティンを殺すのをとめるためだけに、接触してきた。司法局に魔力の使用を知られて、監視が厳しくなるのも覚悟の上で。つまり、そうしなくてはならなかった。エアリアルの存在はレティシアにとって必要なものだからだ。


 ――工房を閉鎖してきた。

 レティシアは確か、そう言った。それに対して、僕が覚えている限りの工房の情報は流したはず、と応えた気がする。そう、確かにそう思っていたから口にした言葉だ。

 しかし、思い出せ。

 僕は全部の情報を司法局に伝えただろうか。記憶の混乱、確かにそれはあったのは事実。

 しかし、どうもおかしい。レティシアが司法局に逮捕された後、僕はずっと司法局から逃亡生活を続けてきていたけれど、その流れでいくつかの工房を見て回った。隠れ家として使える場所はないだろうかと考えて、いくつもの工房を遠くから見て、それらのほとんどが司法局の捜査によって使い物にならないくらい荒らされていたのを確認してきた。

 でも、司法局に伝えなかった――伝えるのを忘れていた工房もあった。

 それは本当に忘れていたからか? 忘れさせられていたとは考えられないか?

 その工房には何かあったのではないか?


 レティシアはどこを閉鎖してきた?


「顔色悪いなあ」

 ギャリーが開口一番にそう言った。

 疲れていたせいか、警戒心が僅かに失せていたというのは否定できない。僕はずっとどこかにエアリアルとレティシアのつながりを見い出せないか考え続けていて、思考能力が低下していたのだろう。

 ギャリーを含む三人が屋敷に姿を見せた時、僕はあっさりと彼らを居間に通した。ただ、いつものようにお茶を出すという余裕はなかったし、面倒だったのでただ椅子に座って彼らに訊いた。

「今日の要件は?」

「エイス・ライオットという名前らしい」

 ギャリーがいつもの定位置であるソファに腰を下ろすなり、ニヤリと笑って言った。「エアリアル・オーガスティンの婚約者らしいぞ。どうやら、エアリアルという子はしばらく遠くの宿舎付きの学園に入ったとかいう話らしくて」

「ああ」

 ――そういう設定なのか。

 僕はぼんやりとした頭で考える。素性の解らない男をオーガスティン家に入れるなら、何らかの理由が必要だ。そして、屋敷の中にエアリアルがいない理由も必要。

「何だ、そっけねえなあ」

 ギャリーが不満そうに言い、腕を組んでソファにもたれかかる。くつろぐな。

「誘拐は企んでないのか」

 ヴィンセントがギャリーのそばに立ったままの姿で言う。相変わらず、彼はこちらを観察するかのような視線を投げてきている。

「男を誘拐してもつまらないだろう」

 呆れたように僕がそう言うと、彼は目を細めた。どうも、彼には何らかの疑惑を持たれたような気がしてならない。しばらく前までは、明らかに危険人物に対するそれであったのに、今はどうも別の感情も垣間見える。三人とも、全員がギャリー並の性格の図太さであったなら簡単だったのに。

「僕のこの細腕で男性を誘拐できると思うのか」

 と、僕が軽く手を上げると、ヴィンセントは片眉を跳ね上げて見せた。

「お得意の魔法はどうした」

「……犯罪を誘発してるのか」

「そういうわけじゃないけどね」

 僕は薄く微笑み、少しだけ考え込んだ。

 とにかく、ここでじっとしていても何も始まらない。ありがたいことに、司法局の連中の姿はこの近辺では見かけない。しかし、下手に動いてせっかくの隠れ家を捨てるつもりは今のところはない。

「そうだ、ギャリー」

 僕はふと顔を上げ、ソファをベッドか何かと勘違いしているらしい問題児に向かって声をかけた。「廊下に武器を転がしておいた。適当に持っていくといい」

「あ? くれるのか」

「手切れ金みたいなものだな」

「……」

 ギャリーがソファの上に寝っ転がったまま、不機嫌な唸り声を上げた。

「情報に対する報酬だよ。それに、最近は家の仕事を真面目にやってるみたいじゃないか。高く売れそうなやつを見繕っておいた」

 僕笑いながら続けると、彼はバリバリと頭を掻いた。

「そりゃ、ありがたいのは確かだよ。最近は真面目に親父のことを手伝ってるから忙しいし」

「それなら」

「でもたまにはここにくる」

 僕は舌打ちする。

 それから、できるだけ無表情で続けた。

「しばらくここを留守にする。きても誰もいないから玄関で騒ぐな」

「留守?」

「ああ、やりたいことがあるんでね」

 ギャリーだけでなく、ヴィンセントもロッドも何か訊きたそうにしていたけれど、僕は説明を避けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ