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魔法使いは鏡の中で笑う  作者: こま猫
第一章 人格転移で右往左往
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事情聴取

「それで、目が覚めたらあそこにいた、と?」

 マチルダがわたしを見ないで言った。

 わたしはこくこくと頷き、何とか彼女の視線を捉えようとした。

 わたしたちは捜査官たちが乗ってきたらしい馬車に揺られている。窓はカーテンで覆われていて、外の景色は見えない。我が家の馬車より一回り小さく、飾り気はないけど頑丈そうだ。

 この小さな空間に、マチルダ、エドガー、エリザベスとわたし。凄まじい圧迫感!

 マチルダはわたしを見ないし、エドガーはたまに嫌なものを見るかのようにわたしに視線を投げ、舌打ちする。

 エリザベスだけが笑顔。

 すっごい不安!

「あの、連続殺人犯って、この身体……グレイ・スターリング? 一体どんなことをしたのですか」

 わたしはおずおずと質問したけれど、誰も応えてくれない。

 何なのよ、少しくらい教えてくれたっていいじゃない!

 それに、わたしは元の身体に戻れるの!?

 まさか、ずっとこのままじゃないわよね!?

 何だか急に怖くなってきて、わたしは唇を噛んだ。眦に涙が滲むのを感じて、慌てて横を向いた。

 わたしの手首には、青白く光る輪がぐるりと巻きついている。どんなに力を入れても壊れない、特別な手錠。これって、犯罪者が受ける対応だ。

 わたし、何か神さまに憎まれるようなことをしただろうか? こんな目に遭うような。

「あの」

 エリザベスが心配そうにわたしに声をかけてきた。「大丈夫ですよ。事情聴取があるだけです。多分」

 多分って何よ。何の慰めにもなってないわよ!

 わたしは軽く頭を振って涙を誤魔化すと、空を睨んで気合いを入れた。

 泣いたって何も変わらない。

 ここには味方は誰もいない。頑張らなきゃ!


 やがて、馬車がとまった。

 マチルダの後に続いて降りると、目の前に大きな石造りの建物があった。

 もう辺りは暗くなっていて、建物の窓には明かりが灯っている。こっそり周りを見回すと、とても高い塀に囲まれていて、塀の外は見えなかった。

「歩いて」

 マチルダが立ち止まったわたしに気がつき、低く言う。わたしは慌てて歩き出した。

 やがて、わたしの周りに数人の捜査官らしき人たちが取り囲み、廊下を歩き出す。

 連続殺人犯、か。

 鏡で見た顔は、わたしとそんなに年齢も変わらない少年だったのに。そんな凶悪犯だなんて。

 わたしは物々しい雰囲気に負けそうになりつつ、マチルダに促されるままにある部屋の中に入った。

「失礼します、局長代理」

 マチルダはその部屋の奥にいた男性に声をかけた。

 後ろでドアが閉まる重々しい音が響いた。それと同時に、鍵のかけられる音。

 わたし――グレイ・スターリングの肉体を逃がさないためだろうか。わたしは緊張しつつ、目の前の男性を観察した。

 大きな机に向かって座っていたその男性は、たくさんの書類に目を通していて、顔も上げない。

 流れる黒髪、前髪が落ちて彼はそれを掻き上げた。神経質そうな顔立ちと、片眼鏡が露わになった。

 何だか偉そうな立場の人らしいから、凄く年配かと思えば、マチルダとそれほど年齢は変わらないみたいだ。二十代後半くらいだろうか。

「局長代理」

「聞こえてる。で、スターリングが逃げたのは事実か?」

 そう言いながらも彼は書類にサインをし、次の書類に目を通す。

「人格転移が事実であれば、そういうことになります」

「面倒だな」

 そこで彼――局長代理とやらが顔を上げ、わたしを冷ややかな目つきで見た。

 何で魔法取締捜査官って無愛想な人たちばかりなんだろう。

 わたしは被害者なのに!

「あの」

 わたしが口を開いたが、それを遮るように局長代理が言った。

「エアリアル・オーガスティンの死体はなかったのか」

「ちょ」

「ありませんでした」

 マチルダは頷く。「あの葬儀場は持ち主が亡くなって閉鎖された場所で、目撃者はいません。地下には少女たちの死体が四体ありました。身元の確認を進めていますが、おそらくは行方不明の少女たちであり……」

 葬儀場?

 四体?

 わたしは眩暈を覚えた。

 やっぱりあの『人形』は死体だったのかな。あんな、リアルで。

 でも、あの場には三体しか……あ、棺みたいなものが床に置いてあった。まさか?

 急に気分が悪くなって、わたしは必死に深呼吸を繰り返す。

「スターリングの演技という可能性もある。人格転移をしたと思わせて――」

 局長代理は冷徹な目でわたしを観察し、また視線を書類に……。

「演技なんかじゃありません!」

 わたしはつい、大声を上げた。「わたしの身体はどこですか!? 取り戻してもらえるんですか!?」

 一度声を上げたら止まらなくなった。

 彼の机の前に立って、縛られたままの両手でバンバンと机を叩き、さらに叫ぶ。

「わたし、こんな身体はイヤです! 大体、連続殺人犯って何なのよ! わたし、何もしてないのにこんなのってないじゃない!」

 局長代理が心底嫌そうな表情でわたしを見た。

「気持ち悪いから下がってくれないか。男性なのにその言葉遣いは」

「わたしは女だし!」

「凄く気持ち悪い」

「失礼だわ!」

 わたしが怒りに駆られつつマチルダを見る。「何なの、この人!」

 しかし、マチルダも額に手を置いて渋い表情をしていた。

「まあ、グレイの口からこんな台詞が出れば気持ち悪いわよね……」

 その隣でエドガーも静かに頷いている。

「とにかく、取り調べ室で話をしてくれ」

 局長代理は投げやりな口調でそう言ってから、山積みの書類を敵でも見るかのように睨みつけた。

「やってもやっても終わらん。何だこれは」

「大変ね、局長代理」

 ふと、マチルダがニヤリと笑った。「局長が戻るまでデスクワーク頑張りなさい」

「……現場は楽しいか」

 一瞬、局長代理は情けない表情でマチルダを見たけれど、すぐに表情を引き締めた。

 マチルダも笑みを消すと、わたしの腕を引いて歩き出した。


 事情聴取とやらは長かった。ひたすら同じようなことを聞かれ、イライラする。でも、わたしは我慢した。

 取り調べが終われば、お父さまたちと会わせてくれるって言われたから。

 狭い部屋でマチルダと向かい合い、会話の途中で少しずつわたしも情報を得た。

 そして分かったのは、グレイ・スターリングという少年が悪魔のような人間であること。

 多分、わたしが今まで考えたこともないようなくらいに。

「あなた、服の胸元、開けられる?」

 マチルダは疲れたように頬杖をつき、わたしに言った。

 わたしは首を傾げながら、自分の身体を見下ろす。

 ああ、見たくない。

 もともと、わたしの胸はそんなに大きいとは言えなかったけど、今のわたしったら、まったいらじゃないの!

 泣きたいわよ、キレたいわよ!

「あなたの胸にはね、魔法使いの免許を永久剥奪された者が受ける刻印があるの」

「え?」

「その刻印がある者が魔法を使うと、司法局の人間にも伝わるようになってる。だから、我々が彼の居場所を突き止めることができたんだけど」

 わたしは眉を顰めつつ彼女を見た。

「グレイは免許剥奪されてから今までの一年間、魔法を使ったことがない」

 そりゃ、バレるの解ってて使う人間はいないだろう。

 わたしはそんなことをぼんやりと考えながら、自由にならない手で服の胸元を少しだけ開いた。

 すると、青白い光を放つ紋章が見えた。胸一面に広がっているそれは、見る者を圧倒させる力がある気がする。

「とにかく、あなたがグレイではないことは解ったわ」

 マチルダは深いため息をついた。凄く不本意そうな表情で、こう続ける。

「刻印がない身体に入ったグレイを、どう追うべきか、悩むわね」

 わたしは一瞬、考え込んだ。


 追う手段がないってこと!?

 わたしはぱくぱくと口を開いたが、言葉は出てこなかった。

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