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魔法使いは鏡の中で笑う  作者: こま猫
第四章 学園生活と不穏な街

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久しぶりの学園

「休み中のノートをか」

「はいはい、貸すよ」

 久々のウェクスフォード学園。

 わたしは教室に入ると、とにかくサイモンの机に足早に歩み寄って口を開きかけた。

 そしてサイモンは、まるでわたしの言葉を予想していたかのようにノートの束を差し出してくる。

「あ、ありがとう」

「どういたしまして」

 サイモンの様子はいつもと変わらなかった。

 クラスの様子も、何の変化も見られない。わたしの姿を見かけたクラスメイトが、笑顔で話しかけてくる。

「あ、体調大丈夫?」

「久しぶりだねー」

 とか何とか。

「ありがとう、大丈夫」

 こちらも笑顔でそう応えながら、サイモンの机の前にある椅子に腰を下ろす。そして、小さく訊いた。

「休みの理由は体調不良ってことになってるのかな」

「ああ、そういうこと」

 サイモンは机に頬杖をついて、小さく笑う。そんな彼を見つめて、わたしは表情を引き締めた。

「放課後、時間ある?」

「んー?」

「ジョシュ先輩も時間があるようなら、一緒に話がしたいんだ」

 すると、サイモンの表情も少しだけ固くなる。

「いいよ」

「ありがとう」

 そこに、聞き慣れた声が飛んできた。

「よう、エイス」

 チャドとマクミラン。彼らも、以前と同じ笑顔で、わたしたちのほうへ歩いてくる。

「久しぶりだね」

 わたしが言うと、マクミランが足をとめ、僅かに心配そうに口を開く。

「もうすぐ第一次試験だけど大丈夫? 試験の範囲が公表されたの知ってる?」

「え?」

 わたしは狼狽えながらサイモンを見やる。サイモンは「後で教えてやるから」と頭を掻いた。

 入学してから初めての試験。

 考えてみれば、これが『普通の学園生活』ってやつだ。

「おはよう、皆、席に座れ」

 やがて、担任のマクレーン先生も教室に入ってきて、わたしは自分の机に移動した。


 その日は、とにかく授業に集中した。

 ありがたいことに、司法局でひたすら勉強していたせいか、授業に遅れているという感覚はなかった。

 まだ入学して間もないから、授業の進みかたもゆっくりなんだろう。

 シャーラに教えてもらった古代言語による魔法よりも現代魔法は単純だし、基本を抑えてしまえば応用も楽だ。

 授業中は皆、真剣で静かだ。わたしはこの空気が好きだと感じつつ、放課後を迎えた。


「お時間をいただけますか」

 剣術部にいくとすぐに、わたしはジョシュにそう声をかけた。

 剣の稽古の手をとめた彼は、無表情にわたしとわたしの横に立っているサイモンを見つめる。

「説明してもらえるのか」

 やがてジョシュは暗い声で言う。その目には、ゆっくりと猜疑心のようなものが浮かんできていた。

「久しぶりだね、休んでたの?」

 そんなわたしたちの様子に気づいて、声をかけてきたのはリオンだ。

 リオンは相変わらず柔らかい笑顔をこちらに向けていたけれど、どこか心配そうでもあった。

「お久しぶりです。色々ありまして、少し休みを」

 わたしが礼儀正しく頭を下げて言うと、リオンは小さく頷いた。

「ジョシュも何かあったみたいだけど、何も言ってくれなくてね……。とりあえず元気そうで良かった」

「場所を変えよう」

 僅かに苛立ったようにジョシュがリオンの言葉を遮り、わたしの手首を乱暴に掴む。「本当のことが知りたい。誤魔化されのはごめんだ」

 彼はわたしにだけ聞こえるように耳元で囁き、そのままわたしの腕を引いて歩き出した。慌てて辺りを見回すと、眉を顰めているリオンと、何かあったのかと不審そうにこちらを見る部員たち。

 ――思い切り目立ってる。

 わたしはつい、ため息をついた。

 校舎に入って、誰もいない教室を探すジョシュ。

 腕を引かれたまま、ある教室に入ると、それに続いて入ってきたサイモンが教室の扉を閉めた。

「あの、腕を」

 わたしが言うと、ジョシュは我に返ったようにわたしの腕を解放する。ちょっと手首が痛い。

「すまない。で、話を」

 会話を急ぐジョシュの横で、わたしは軽く手を上げてこの教室に施錠の魔法をかけた。エリザベスがいつも屋敷の離れに使っている現代魔法だ。

「すみません、他に誰にも聞かれたくない話なんです」

 わたしがそう言っている横で、サイモンが驚いたように施錠の魔法を見回していた。

「まだこんな魔法、習ってないだろ」

「それについても、後で説明するよ」

 そうわたしは言ってから、少しだけ彼らの顔を見つめた。「本当は、これから話すことは司法局から口止めされてる内容です。多分、この話が漏れたら、わたしは学園にもいられないだろうし、サイモンやジョシュ先輩にも厄介なことが」

「いいから話せ」

 ジョシュは近くにあった椅子に腰を下ろし、わたしを睨んだ。「ここでの話は誰にも漏らさない。漏らす場合は司法局に許可を取ってから、ということだろ」

「……ええ、まあ」

 わたしはぎこちなく微笑んだ。


「……女……」

 サイモンが少し離れたところにある椅子に座り、頭を抱え込んでいた。

 わたしが説明したことは、シドや局長に許可をもらった部分だけだ。

 しかし、かなりの大部分。

 わたしがエアリアル・オーガスティンという人間であること。

 犯罪者に禁呪を使われ、犯罪者の肉体と入れ替わってしまったこと。

 犯罪者もわたしも未成年であることもあり、この事件は内密に捜査されていること。

 そしてその犯罪者は、殺人鬼であること。

 ジェーン・マーチン殺害を含む、他の殺人事件にも関わっている可能性があること。

 そして、その犯罪者の事情を知る人間――つまり、わたしは口封じとして殺される可能性もあること。

「司法局から、今回のことは、わたしをおびき寄せる罠の可能性もあるのではないかと言われました」

 沈黙しているジョシュに向かって、わたしは言葉を続けていた。この辺りの事情は、シドと打ち合わせを繰り返した内容だ。

「わたしは記憶障害があり、自分が殺されそうになった時のことを覚えていません。でも、もし思い出したら犯人にとって、都合の悪いことも思い出すのでは、と。だから、上手くおびき寄せて、我々全員を殺したかったのかもしれないそうです」

「口封じ……か」

 ジョシュが苦々しく呟き、わたしが頷く。

「わたしは司法局から怒られました。わたしは司法局から身を守ってもらいながら生活しています。その立場を忘れて、司法局へ黙って貸倉庫に行ったことは自殺行為だと」

「それについては俺が悪い」

 ジョシュは椅子に座ったまま、ぐい、と頭を深く下げた。「あれは俺が無理やり付き合わせたことだ。妹の行方を探し続けてきたから、やっと見つけた手がかりだと思って必死だった」

「解ります」

 ジョシュはやがて顔を上げたものの、その表情は苦しげだ。

「もう死んでいるのではないかと考えてはいた。しかし、実際見てしまうと――」

「すみません……」

「お前が謝る必要はない」

 ジョシュは自嘲の笑みを浮かべた。「俺は、もしかしたらお前が妹を殺したのかと疑ってもいたんだ。すまん」

「いいえ」

 確かに疑われてもおかしくないのだ。花屋の娘の話では、わたしの風貌が誘拐犯かもしれない少年とそっくりなのだから。


「わたしも、自分の身体を取り戻すために必死でした。どんな手がかりでも欲しかったんです」

「女なのか……」

 ジョシュが困惑したように呟き、わたしは笑う。

「ええ。魔法を勉強して、さらに剣術を習って、犯人を追い詰めようと必死ですが、中身は女です」

「信じられない……というか、信じたくないな」

 教室の隅から、サイモンの声が響く。酷く疲れた声だ。

「……えーと、やっぱり気持ち悪い?」

 わたしは笑った。「身体が入れ替わった後、司法局の人に言われたよ。殺人犯の肉体のわたしが、気持ち悪いって」

「何だそれ、酷いだろ」

 サイモンが椅子から立ち上がり、激高したように言った。「身体が入れ替わったのは、エイスのせいじゃないだろ!?」

「うん、でも仕方ないよ」

 わたしはエドガーの苦々しげな表情を思い浮かべながら言う。「彼らは、この顔の人間が起こしてきた事件を見てるんだ。酷い事件だよ。嫌悪感を抱かない人はいないよ」

「でも」

「言えないよ、わたしは言えない。自分の身体が殺人犯で、その被害者の身内の人や関係者に、中身は違うんだから嫌悪感を抱かないで下さいなんて」


 わたしはじっとサイモンを見つめた。サイモンは息を呑んでわたしを見つめ返す。

「わたしはこの学園に入るためにも、入ってからも、たくさんの嘘をついてきたよ。だから、余計に後ろめたいんだよね。サイモンにもジョシュ先輩にも。わたしはサイモンに、これからも友人でいてもらいたいけど、考えてみればそれもどうかと思うんだ」

「え? 何で?」

「司法局が言うには、司法局に見張られているわたしに近づくのは犯人にとって危険すぎる。でも、こうして接触をしてきた。だから周りの人間も」

「危険な目に遭う可能性がある、と」

 ジョシュが口を挟んだ。

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