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魔法使いは鏡の中で笑う  作者: こま猫
第三章 わたしの中の欠落

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過去の誘拐

「できれば、サイモンとジョシュ先輩には言っておきたいんです」

 翌日、わたしは局長室にいってそう告げた。

 目が覚めて、一番に考えたことがこれだ。

 嘘をつきながら学園生活を送るのは、かなりきつい。せめて、自分が『エイス・ライオット』と名乗っている理由、グレイ・スターリングに肉体を交換されてしまったことは正直に言ってしまいたかった。

 全部説明はできなくても、最低限のことくらいは。

 今、わたしの目の前には局長とシドがいる。

 局長は書類の山を次々とめくりながら、何やら記入しては脇にどかしていく。その視線はわたしには向けられず、声だけが飛んできた。

「だと思ったよ」

「すみません」

「いや、多分、隠し続けるのは無理だと思うしねえ」

 それを聞いていたシドは、僅かに顔をしかめて口を開いた。

「もし、肉体がグレイ・スターリングという殺人犯だと周りに知られたら、学園を退学になる可能性もあるとは考えないのか? 有名な学園っていうのは、体裁も重んじる。君の存在は、学園にとっても危険だと思われるだろう」

「……そうかもしれませんけど」

 わたしは少しだけ考え込んだ。

 退学。

 それは困るけれど。

 でも、学園に戻って生活するなら、少なくともジョシュには伝えなきゃいけないだろう。

 彼は妹を殺されたんだ。そして、わたしが何らかの形で関係があることに気づいている。

 そんな彼に、「わたしは何も知りません」と言い続ける自信はない。

「私が君の『永久剥奪の刻印』を隠したのは、グレイ・スターリングという肉体であることを周りの人間に知られなくするためでもあるわけで」

 そう続けたシドの言葉を、局長は苦笑混じりで遮った。

「シド君は捜査官の鑑だけどねえ、もうちょっとエアリアル君の気持ちも汲んでやれないかねえ?」

「気持ちより身の安全が優先です」

 シドは冷ややかに言った。

 そして思う。

 シドは真面目なんだ。多分、司法局の捜査官としての立場で、一番正しくて安全と思われる行動をするのが彼。

 そして局長は、安全ではない道でも進む。

「でも、エアリアル君の気持ちは決まってるみたいだしね。よく考えた結果だろう?」

 局長の目がわたしに向けられて、わたしは黙って頷いた。すると、シドが深いため息をついた。

「仕方ない。では、せめて説明していいところと、そうではないところの打ち合わせをしよう。今後の捜査のためにも、摺り合わせが必要だ」

「すみません」

 わたしは彼に頭を下げる。

 局長はただ苦笑していた。


 わたしが屋敷に戻っていいと言われたのは、さらに二日後。

 その間に、色々な打ち合わせがあった。

 シドとの打ち合わせ以外にも、今後の神殿との付き合いについて局長と話し合ったり、エリザベスと魔法の勉強についてとか。


 そして屋敷に帰って、自分の部屋にいくより早く、一番最初にしたことは。

 くーちゃんの入った檻を手に、お父さまとお母さまに質問をすることだった。

「わたしは昔、頭を打って寝込んだけど、その時のことを詳しく聞きたいの」

 と。

 お父さまとお母さまは、無事に帰宅したわたしを出迎えてくれて喜んだけれど、わたしの問いかけに戸惑っていた。

 彼らはわたしを居間のソファに座らせた後、一緒にいたクレアを下がらせた。居間に三人きりになると、二人はなぜそんなことを聞くのかと質問を返してきた。

 だから、神殿でシャーラに言われたことを説明した。レティシアという魔法使いに、使い魔を埋め込まれた話。

 そして、いつ接触したのか解らないということ。

「……頭を打ったことを覚えてるのかしら?」

 やがて、お母さまがこめかみを指で揉みながら言った。

「気がついたらベッドの上だったのは覚えてる。そして、頭を打って寝込んでたと言われたわ」

「そうね。そういうことにしておいたのよ」

 お母さまが歯切れ悪く続け、その視線をお父さまに投げる。いつもハキハキしているお母さまが、こんなにも悩んでいるなんて初めて見るかもしれない。

 お父さまは眉間に皺を寄せていたけれど、やがてお母さまに代わって口を開いた。

「お前は何も覚えていなかったし、混乱させたくなかった。だから、事故だということにした」

「じゃあ、事故じゃなかった?」

 わたしは不穏な空気を感じて身体を強ばらせた。すると、お父さまは小さく頷いた。

「お前は一ヶ月くらい、行方不明だったんだよ」

「行方不明?」

 しかも、一ヶ月も!?

 わたしが驚いて口を開けたままでいると、お父さまは困ったように笑った。

「誘拐だと我々は考えた。金目当てだ、と。我々みたいな立場の人間なら、それも有り得ると考えた。だから、周りに知られないようにした」

「え?」

「金目当てなら、誘拐のことが表沙汰になればお前の命が危ない。我々は屋敷の人間の一部を除き、そのことを秘密にして金を用意した」

「一部……」

「しかし、金を要求する連絡などこなくてな、我々は慌てた。誘拐ではないのかもしれない、何らかの事故に巻き込まれたのかと色々当たってみたが、手がかりがなく一ヶ月が過ぎた」

「誘拐じゃ……なかった?」

 わたしが首を傾げ、お父さまも首を傾げる。

「解らんが、ある日、お前が屋敷の庭で倒れていたんだよ。怪我はなかったし、服も汚れなどなく綺麗だった。ただ、二日間眠り続けていてな」

「二日間……」

 わたしはずっと、屋敷から抜け出そうとして二階の窓から落ちた、と聞かされてきた。

 そして、二、三日寝込んだ、と。

 でも、それが違っていた? 何も覚えていない。

 どんなに必死に考えたとしても、思い出せない。

「お前は何も覚えていなかった。だから、無理に思い出させることはしなかった。屋敷の人間にも、誘拐のことはなかったことにして、事故だと説明して終わった」

「でもまさか」

 お母さまが苦しげに囁く。「そんな危険な目に遭っていたというの? そんな恐ろしい魔法使いに誘拐されていたと? 何のために?」

 それはわたしにも解らない。

 使い魔を埋め込まれて、何をされた?

 そして何故、帰された?

 レティシアは子供を誘拐して、殺すのだという。わたしも殺されかけたんだろうか?

 それとも、何か別の目的が……。


 グレイ・スターリング。

 レティシアに育てられて、殺人鬼になった少年。


 レティシアは自分好みの風貌の子供を、自分好みの性格に育てて、そして。


 そういうことなの?

 わたしも、もしかしたら第二のグレイ・スターリングに。


「でも、お前は無事に帰ってきた。その魔法使いが何を企んでいたにしろ、お前の身体の中にいた使い魔とやらはもう……」

 お父さまが不安げに言い、ソファから立ち上がってわたしを抱きしめた。「それに、その魔法使いは司法局に逮捕されたというのだろう? もう安全だな?」

 そうだ、レティシアは逮捕されていて中央からは逃げられないという。それなら、もうわたしに関わることはないはずなのだ。

 問題はグレイ・スターリングだけ。

 彼はどんな形で今回のことに関わってる?

 レティシアの弟子なら、その意志を継いでいる?

 グレイは何を考えているの? わたしと身体を入れ替えたのは、永久剥奪の刻印のある肉体を捨てたかったからだけじゃない?

 鏡を使ってわたしに接触したのは、何故?

 わたしは唇を噛み、お父さまにしがみついていた。

 身体が震えている。

 恐怖とは違う感情が胸の中にある。怒りでも嫌悪でもなく。


 ――落ち着いて行動すれば、あなたのほうがグレイ・スターリングを上手く手玉に取れるはずよ。


 シャーラの言葉を思い出す。

 わたしは自分の部屋にある鏡台を思い浮かべた。

 次はいつ、彼は話しかけてくるだろう。

 上手く情報を引き出せるだろうか。

 わたしはしばらく、お父さまの胸に頭を押し当てたまま、考えていた。


 そして、わたしが思っていたよりずっと早く、グレイからの接触があったのだ。

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