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魔法使いは鏡の中で笑う  作者: こま猫
第一章 人格転移で右往左往
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学園祭にて

 クレアを学園祭に連れていくということは、簡単にお父さまたちから了解を得られた。クレアは真面目だし、気が利くから信用されているのだ。

 わたしは我がオーガスティン家の家紋が入った馬車に一番先に乗り込んで、皆を待つ。

 お父さまとお母さまがやがて姿を見せ、最後にクレアが馬車に乗り込んだ。クレアが酷く無表情になっていたのには気がついたけれど、声をかける余裕はなかった。

 だって、凄くドキドキしていたんだもの!


 わたしはずっと家庭教師について勉強していたから、学校とか学園とやらがどんな場所なのか知らない。

 本では読んだことがあるけど、それが本当の姿なのかは解らない。だから自分の目で確かめたかった。

 まあ、来年の入学の時には解るんだけど、待ちきれないんだから仕方ない。

 従姉妹のレイチェルは、ウェクスフォード学園は凄く楽しいという。

「金持ちの道楽ってやつでしょう」

 彼女は以前、そう言った。「この学園の学費は高いし、学園長はお金を持ってるからね。施設は充実してるし、退屈しない」

 レイチェルは時々、夢のないことを言う。私より二歳年上だけど、大人というか、考えかたが凄く冷めてるというか。

 でも、わたしはレイチェルのことが好きだった。どうも、向こうは『馬鹿な妹』みたいに思っているみたいだけど気にしない。


 そして、ウェクスフォード学園に到着!

 一般公開日だけど、関係者の招待状が必要だ。

 入学が決まったこともあり、お父さまはオーガスティン家の名前で学費以外に寄付金も出したらしい。だから、学園長も愛想よく招待状を手渡ししてくれたとか。

 その招待状を門のところに立っている教師らしき人間に渡し、我々は中へ。

 ウェクスフォード学園は庭も広かった。学園の建物は巨大だ。

 体育館、図書館、ホールなどといった建物は独立して建っている。

 馬車から降りて、ぽかんと建物を見上げていると、お母さまが横をすり抜けながら釘をさした。

「口、閉じなさい」

 おっと、いけないいけない。

 わたしはクレアの腕を引いて、建物内に入る。建物自体が大きいせいか、たくさんの人がいたけど混雑しているという感じはしない。

 多分、この学園に通う生徒の保護者なのか、年配の人たちも多い。若い子たちもたくさん。

 特設された受付では、この学園のパンフレットと、学園祭のプログラムも渡される。

 早速プログラムを見てみれば、演劇部の公演は午後一時から。場所は隣接しているホールらしい。

「教室が見てみたいわね。一学年は一階かしら?」

 お母さまがそんなことを言っているのが聞こえる。でも、わたしはクレアにこっそり囁いた。

「レイチェルはどこかな。劇が始まる前に挨拶したい」

「お嬢さま、少し落ち着いたらどうでしょう」

 クレアは渋い表情でわたしを見る。「ご挨拶は必ずされると思いますよ。まだ時間はあるのですから、まず見学いたしましょう」

「えー」

 わたしが不満の声を上げると、クレアは無言で見つめてくる。

 くそう、こういう時の彼女には逆らえない。我慢だ、我慢。

 とはいえ、お父さまやお母さまたちと一緒に学園内を見て回るのは楽しかった。

 教室はそれぞれのクラスで何か企画をしているらしく、お茶や食べ物を出していたり、展示物もある。

 この学園には、魔法学科もあるから、生徒たちによるイベントも派手だったりする。

 何もかもが目新しいから、わたしはキョロキョロと辺りを見回し、皆のそばを離れてうろついてはクレアに引き戻される、ということを繰り返していた。

「お嬢さま」

「もうしません」

 やがて、わたしはクレアの無表情さに不穏な影が浮かぶのを感じて、少しおとなしくしよう、と誓った。

 とりあえず、少しは学園の中のことも解ったし、精神的にも余裕が出て、辺りをうろうろするのではなく、観察するということも覚えた。

 そうしているうちに、わたしもそれなりに目立っていることに気づく。まあ、明らかに良家の娘が興奮して歩き回っていれば、ね。

 おっと、わたしだっておしとやかにしていれば美少女なのだ! 入学する前から、ここの生徒に中身が残念だとバレたら恥ずかしいものね!

 わたしはそこで開き直り、無駄に良家の深窓の令嬢を演じてみよう、と考えた。

 穏やかな微笑は顔が引きつるが、仕方ない。クレアもやっと安心したように、今日初めての笑みをこぼした。


 学園内の食堂で軽く食事を済ませてから――食堂と言ってもさすがウェクスフォード学園ね、内容は豪華!――、わたしたちはホールへと足を向けた。

 ホールの控え室には出演者がいるらしいので、お父さまが通りかかった学園関係者の人にレイチェル・ハリスの居場所を聞いてくれた。

 ホールはロビーも広い。大がかりな演奏会だってできるくらい。わたしはクレアとロビーのソファに座り、にこやかに談笑している、というふりをしていた。

 ハリス家も名家。レイチェル・ハリスのお父さまだって、かなりの金額をこの学園に寄付している立場だし、わたしたち……いえ、わたしがあまり騒いで評判を落としてしまったら、多分お母さまにこっぴどく怒られる。レイチェルに迷惑はかけられない。

 そうしているうちに、学園関係者の人が、レイチェルがいる控え室に案内してくれることになった。

 わたしは、できるだけ落ち着いた表情でお父さまたちの後をついて歩き始めた。


 その時、わたしは一人の少年と廊下ですれ違う。

 何となく彼の存在が頭に残ったのは、彼が花束を抱えていたからかもしれない。

 それほど大きい花束ではないけれど、小さいわけでもない。

 顔は見なかった。

 ただ、すれ違う瞬間、彼が何か呟いた気がして、わたしは振り返る。

 まっすぐな金髪の少年の後ろ姿。

 ただ、そのまま彼の存在は忘れた。

 控え室で会ったレイチェルの姿に、あまりにもびっくりしてしまったから!


 男装するということは、事前にレイチェル本人から聞いていたけど、彼女は腰まであった長い金髪を、ばっさりと切ってしまっていたのだ。

「ええっ!?」

 わたしは小さく叫んだし、お母さまもショックを受けていたみたいだった。わたしたちが言葉を失っていると、レイチェルは小さく笑って言った。

「似合うでしょう?」

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