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魔法使いは鏡の中で笑う  作者: こま猫
第一章 人格転移で右往左往
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朝の会話

「オーガスティン……」

 マチルダが低く呟くと、その横に立っていた少女が手を上げて言った。

「エアリアル・オーガスティン、十四歳。昨日の午後五時四十三分に捜索願いが出てます。ウェクスフォード学園にて消息不明と報告」

「ありがとう、エリザベス」

 マチルダは無表情で頷き、舌打ちした。

「ちなみにエアリアル・オーガスティンの姿ですが」

 エリザベスと呼ばれた少女は服の胸元から小さな本を取り出し、それを開いた。

 すると、その上に手のひらサイズの『わたし』の姿が現れた。

 ――凄い。

 魔法取締捜査官の手帳って、あんなこともできるんだ。

 そんなことを考えながら、わたしは『わたし』を見つめた。

 抜けるように白い肌――お母さまの命令で日焼けはできない――、長くて緩くウェーブを描く金髪、深い緑色の瞳、長い睫毛。高い鼻筋、ピンク色の唇は形よく整っている。

「凄い美少女ね」

 マチルダがそれを見て純粋に感心したようにため息をついた。

 そう、わたしは神さまに感謝してる。すっごい美少女に生まれてきたこと。

 お母さまは「これで間違いなく立派な婿を取れるわ!」と燃えて花嫁修業をさせようとしているし、反対にお父さまは「無理に結婚させなくても」と渋っている。

 わたしはといえば、まあ、結婚なんて当分先だろうから、のんびり勉強してるだけだけど。

「今まで行方不明になった少女たちも、皆、美少女だったわね」

 マチルダがそう続けて、わたしは我に返る。

 行方不明になった少女『たち』。わたしはつい、部屋の隅にある『人形』に目をやった。

 その時、この部屋に複数の捜査官たちが姿を現した。マチルダが現れた時と同じく、何の前触れもなく、突然に。

「無事、身柄確保ですか」

 その中の一人の男性がそう言ってわたしの姿を見た。床に這いつくばった、哀れな姿。

 エドガーとやら、覚えてなさい!

 わたしは、こんな目に遭う謂われなんてないんだから!

 わたしは彼らに色々言いたいことはあったけれど、身体を押さえつけている大きな力はそのままだったから、身動きどころか声を出すことすらままならないのだ。

「肉体は確保したみたいね」

 マチルダは額に手をやって、疲れたように目を伏せた。「人格鑑定が必要ね。このまま逮捕するわ」

 逮捕!?

 ちょっと待ってよ!

 わたしは何もしてないわよ!?

 必死に身体を捻って反抗しようとしても、全く動かすことはできない。

 その傍らで、マチルダは『人形』に近づいてそれを見つめ、やがて他の布を被ったものにも近づいた。

 布を引けば、新しい『人形』が現れる。

 赤毛の美少女、さらに銀髪の美少女。どちらも、わたしとそれほど年齢は変わらないくらいの。

「最悪ね」

 マチルダはそう呟き、暗く輝く瞳をわたしに向けた。「もし本当にあなたがエアリアル・オーガスティンだったら申し訳ないけど、これは規則なの。我々は犯罪者の身柄を確保します」

 犯罪者……。

 わたしはただ茫然としていた。

 そして、身体にかかっていた圧力が消えた。でも、何故か身動きはほとんど取れない。エドガーがわたしを乱暴な手つきで起こし、その疑惑に満ちた目を向けていた。

 少しだけ赤みのかかった短い茶髪。焦げ茶色の瞳。

 明らかに不機嫌そうにわたしを見つめ、ため息をつく。

「犯罪者って」

 わたしが何とか声を上げる。

「連続殺人犯なの」

 マチルダは無表情に言う。「あなたの肉体はね」


 何でこんなことになったんだろう?

 偶然、運が悪かっただけ?


 わたしはその日の朝、早いうちから目が覚めてそわそわしていた。

 だって、楽しみにしていた学園祭にいくことになっていたから。

 ウェクスフォード学園は、この国でも名門校として有名だ。そこには、わたしの従姉妹のレイチェル・ハリスが通っている。

 わたしは来年、ウェクスフォード学園に入学することになっているし、どんな学園なのか気になっていたから、お父さまに頼んだのだ。学園祭の一般公開の日、レイチェルに会いにいきたい、と。

 お父さまはすぐに許してくれた。

 お母さまは少し悩んでいたみたいだったけど、ウェクスフォード学園に通うのはほとんどが裕福な家庭の人間か、成績優秀で、将来的に有望な人間。許してもらえるのは間違いなかった。そういう意味では、お母さまは単純だ。


 その朝、召使いのクレアは少し不安そうだった。

 正直に言うと、お母さまは少し過保護なところがある。あまりわたしが外出するのを好まないし、会う人間も選びたがる。

 だからなのか、わたしは時々逆らいたくなることもあった。

 以前は屋敷をこっそり抜け出して大目玉を食らったこともある。でも、最近はおとなしくしてきたつもりだ。

「お嬢さま、何も企んでらっしゃらないですよね?」

 と、クレアは言った。

 何を心配してるんだろう。

「企むって何よ、何もしないわよ」

 わたしは鼻を鳴らした。「わたしの今回の第一の目的は、レイチェルの舞台劇鑑賞。ウェクスフォード学園の演劇部って、凄く本格的らしいのよ。ねえ聞いた? レイチェルが男装するって」

「聞きました。それなら、騒いでレイチェル様にご迷惑をかけないよう。お嬢さまはオーガスティン家の一員なのですからおとなしく……」

「騒がない騒がない」

 召使いのクレアは、わたしが幼いころからの付き合いだ。彼女はこのオーガスティン家の召使い長であるジェシカ・コリンズの一人娘で、ずっと住み込みで働いてくれている。

 小さいころ、クレアはわたしの遊び相手、兼、勉強仲間として育ってきたから、主従関係というか、友人関係に近い。

 ただ、最近は彼女が自分の立場を気にして、昔より堅苦しい態度を取るのが気に入らなかった。

「とにかく、クレア、あなたも一緒にいくでしょ?」

「は? わたしは召使いですから」

「監視役が必要じゃない。わたしはあまり学園祭とか解らないし」

「わたしだって詳しくありません。それに、もっと他に適任が」

「適任? やだなあ、むさ苦しい護衛とかつけられたら一緒に歩きたくないじゃない」

 わたしは唸る。すると、クレアは渋い表情でわたしを睨んだ。

「お嬢さま、少しは危機感をお持ちください。オーガスティン家は」

「あー、はいはい、とりあえずお父さまに交渉してくるわ」

 わたしがひらひらと手を振って自分の部屋から出ていくと、背後からクレアの深いため息が聞こえた。

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