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不思議な校舎と悲しみの木  作者: 三箱
第2章 サッド・ボーイ
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8話 外出

第二章サッド・ボーイ



「おい。金出せ。」


茶髪の少年は、一人の男性の胸ぐらをつかんだ。そしてそのまま投げ飛ばした。男性は床に頭から叩きつけられた。


 男性から嗚咽が聞こえ、床でもがき苦しむ。

 少年は瀕死に近い男性に近づき、今度は腹を蹴り飛ばした。

 男性は声もなく浮き上がり、そして横向きに倒れた。男性はピクリとも動かなくなった。

 少年は無言で男性に近づく、そしてその男性のポケットに手を突っ込み、男性の財布を奪った。


「待て。」


突然響いた声。少年はその声に反応し睨み付けた。


そこには少し背の高い少年が、立っていた。




8 外出




 深夜二時。時計の秒針の動く音以外聞こえない。

 額には少し汗がにじんでいた。右腕で額の汗をぬぐった。部屋は寒いのに自分の体は異常に熱かった。


 ちらっとソファーを見る。リオがソファーの上で毛布を着て横になり、すやすやと眠っていた。表情はとても穏やかだった。

 いい夢でも見ているのだろうか。そんなことをぽつんと思った。


 俺はゆっくりと布団から立ち上がった。廊下近くの台所に行き、灯りをつけた。

 上の棚からコップを出し、蛇口をひねり、水をコップに入れた。そして一気に水を飲み干した。

 水道水の独特の塩素の苦みが、舌の奥の方に広がった。少しだけ体の汗がひいた。


 ただ、体に乗っかっている重みは少しも取れる気配はなかった。

 頭がボーっとする。ただ意味もなく白い壁を呆然と見つめていた。


 押入れが開く音が聞こえた。出てきたのはサクラだった。

 そろーりと床に足を降ろし、ゆっくりと歩いてきた。

 彼女の長い銀色の髪は所々はねていた。背中に生えている翼は左右不揃いで左の翼は生々しく下の方に半円の傷があった。

 なぜそうなったか気にはなったが、まだそのことは聞ける気がしなかった。

 サクラは台所まで来て、俺の横に並ぶ。


「どうした?」

「あまり眠れなくて。」

「そうか。」


 俺は、ポツンと呟いた。何か妙な感じだな。

 サクラは台所の蛇口をひねり、流れ出る水を手ですくい飲んだ。その作業にブレはなくきれいな動作だった。


 思わず見とれてしまった。

 サクラと目が合った。俺は反射的に目をそらす。

 居心地が悪くなった俺は、何も言わず布団に戻ろうとした。


「ごめん。ちょっとここにいてくれる?」


 サクラに呼び止められた。俺は「お、おう。」と答えて足を止めた。

 蛇口からは水がザーッと音を立てながら流れている。

 サクラは蛇口を見つめていた。何か考えているのか。それとも蛇口が気になるのか、表情だけでは思考は読み取れなかった。


「ここの水って苦いね。」


サクラは、また流れている水をすくい飲む。


「でも、向こうの水よりまだまし。」


彼女は蛇口の栓を閉め、水を止める。サクラは俺と視線を合わせた。


「友也くんは、この水好き?」


 唐突な質問だった。水が何か気になるのか。それともサクラの世界では、水はそんなに重要なのか、でも何を意図して質問をしてきたのか。

 数秒の間、彼女を見つめるが、すこし笑みを浮かべているだけで、分からなかった。


「いや。特に水について考えたこともなかったから。その。好きか嫌いかはわからないけど、強いて言うなら好きかな。」


指で頬を掻いた。何とも言えないこの感じ、もどかしかった。

 彼女は至って表情は変わらなかった。ただ一言「そう。」と答えた。

 なんだろう。サクラは何を聞きたかったのか。俺には疑問しか浮かばなかった。

 しかし彼女は、もっと唐突な質問してくるのであった。

少しの沈黙の後に、彼女は少し視線を外した。


「私の事、怖くない?」


俺は思わず、えっと声を漏らした。

正直そこまで考えたことがなかった。完全に言葉に詰まった。俺が返答に困っていると彼女は俺の目を見つめる。


「羽が生えているのに、あなたと違っているのに怖くないの?」


 静かに訴えてきた。表情は変わらなかった。

 彼女の目をじーっと見つめた。

 そうか。彼女は真剣に聞いてきたのか。

それが分かった俺は、落ち着きを取り戻した。

まあ。タイミングが唐突だったけど、質問に答えることはそんなに難しくなかった。


「怖くない。」


そう答えた。


 サクラは何も言わなかった。ただ俺の目をじーっと見つめていた。そして彼女から視線をそらした。そして僅かにうなずいた。


「友也くん。ありがと。時間とらせてごめんね。戻っていいよ。」

「サクラはどうするんだ?」

「私はもう少し起きてる。」


俺は頷いた。


「そうか。じゃあ遅くなるなよ。」


俺はそう言い残して布団に戻った。

 台所の灯りはついたままだった。




「チュンチュン。」

 

 鳥の鳴き声が聞こえる。重たい目を擦りこじ開ける。壁にかかっている時計を見る。短針が7と8の間、長針が10を指している。

 7時50分か。


 カーテンの隙間から光が漏れていた。

 今日の天気は晴れだな。


 寝覚めは珍しく悪くなかった。むしろ良かった。あの時以来初めてだった。布団から出てカーテンの隙間から外の景色を覗いた。

 外は一面真っ白だった。田んぼも、コンクリート造りの屋根にも雪が積もっていた。町の街路樹にも雪が積もっていた。


 上を見た。空はきれいな快晴だった。雲一つなかった。冬休みに入って初めての天気だった。少しだけ窓を開ける。冷たい風が体にしみる。だけど外の空気は澄んでいた。とても気持ち良かった。


 だけどすぐに背中が寒くなり、窓を閉めた。

 部屋に戻ると、リオがふあーというあくびをしながら背伸びをしながら起きた。


「あれ。今日はやい。」


リオは、ソファーから足を降ろした。俺は台所へと歩いた。


「朝飯でも作ろうか。」


リオは「うん」と頷いた。

 食パンをトースターに入れ始めた時、サクラが押入れから出てきた。


「あ!おはよう。」


リオがサクラに手を振る。


「おはよう。」


リオに軽く手を振り、台所のほうに歩いてきた。その途中でサクラと目が合う。


「よ。おはよう。」

「おはよう。」


 いつもと変わらない表情だった。そのまま通り過ぎ、彼女は洗面所に向かった。

 妙な気持ちになる。別に悪いことは無いから、そこまで気にする必要はないはずだが……。

 まあ、普通にしておこう。


 朝食のトーストとホットミルクができた頃、また押入れの戸が開いた。そして下からぬっとエメラルド色の髪の女性が出てきた。


「むー。あまり眠れなかった。」


リオの姉は少し顔色が悪かった。その上に髪の光沢もなく少しくすんでいた。


「ねえ。ほかに寝る場所ないの。狭い。」

「ない。」


必要最小限の言葉で済ませた。


 彼女はピクリと眉をあげた。目を細めてジーッとにらんでくるが、俺はそっぽを向いた。

 俺はせっせと朝食を運ぶ。そしてテーブルに置いた。みんな各々に椅子に座った。

 サクラとリオは、すぐに食べ始めた。二人はここの世界の食べ物にだいぶ慣れてきみたいだ。おいしそうに食べている。


 しかし一人だけ納得しない人がいた。


「これ味がしない。」


リオの姉は、一口食べたトーストを俺に突き出した。


「食べろ。もったいねえだろ。」

「こんな味のしないもの、食べても食べなくても、大して変わらない。」

「マーガリンあるだろ。」

「あんなのつけても変わらない。もっと味の濃いものにして!」


怒鳴るだけ怒鳴って、バンッとテーブルを叩いた。そしてホットミルクの入ってるマグカップを手に取り、思いっきり飲み干した。


「でもこの白い飲み物は悪くない。」

「・・・・・・。」


まあ。そっちは好きで良かった。


「姉ちゃん。文句言い過ぎ!」

「うっさい。あんたは黙って!」


リオは風船のようにぷくーっと頬を膨らませた。


 相変わらず酷な姉だ。まあでもまだ丸くはなった方か。

 初めは、俺と目を合せただけでキレていたし、リオと話しするとやたらと中に割ってきていたし、……後者はまだそのままか。

 まあ、少しはマシになったことには変わりはないか。

 朝食の光景を見ながら、ふと思った。

 俺はため息と落ち着くときの息の両方が混ざった息を吐いた。そしてミルクを飲む。


 すると、いつもあまり喋らないサクラが口を開いた。


「あの。友也くん。」

「ん。なんだ。」


 不意だったので、変な声が出る。恥ずかしく思うが、なんとか真顔で止まる。

 そんな心境は知らずに、サクラは話を続けた。


「今日。外に出てみない?」


俺は飲んでいるマグカップの手を止める。リオと姉もサクラを見る。


「急にどうした。」

そのままマグカップをテーブルに置く。


「その……。ずっとこの中でいたから、たまには外にも出てみたいと思って…。」


 視線を反らし、わずかに頬が赤くなっている。

 俺は椅子にもたれかかった。


「いいぜ。外に出ても。」


 俺は即答した。

 そろそろこの監獄生活も限界にきているはずだし、いつ外に出ようか多少考えようとしていた頃だ。俺も軽くリフレッシュできる。サクラ本人が自発的に言ってくれたおかげで、少し考える手間が省けたってもんだ。

 しかし一つだけ問題があった。


「でもその羽は隠すなりしないと、ちょっとまずいよな。」

「それは大丈夫だよ。」


リオが手をあげてアピールする。


「お。リオなんか方法があるのか?」


俺は興味津々でリオの話に耳を傾ける。


「僕の能力でその羽を見えなくさせればい……。」


 リオは途中で言葉を切った。彼はサクラに視線を移していた。俺もつられてサクラを見た。

 俺はポカンと口を開けてしまった。

 彼女の背中の羽が消えていたのだ。

 サクラも突然のことで、少し落ち着かない表情をしていた。

 三人が動揺している中で、一人涼しい顔をしている人がいた。


「あんたがやると不安だから、あたしがやる。」


彼女は人差し指を立てて、ドヤ顔を見せつけたのだった。




「あ!きれいな空!」


快晴の空に大きく手を伸ばすサクラ。


「まあな。今日は特別にきれいだからな。」


元気そうなサクラを見てホっとする。


「トモヤくん!」


 リオが俺の肩にしがみついた。俺はバランスを崩しそうになった。

 俺があたふたしていると、リオの姉からジトーッとした視線を感じた。

 嫌な予感がした。俺はうまくリオを言いくるめ少しだけリオを離した。

 だが姉はまだ俺をにらんでいた。

 不吉な視線を感じながらも、俺はあえて気にしないことにした。


「どこに行くの?」


リオが俺の袖を引っ張って聞いてくる。


「そうだな。とりあえずお前らに合う、服を買わないとな。」


すると、またもや後ろから不気味な殺気と共に声が聞こえた。


「えっ。今着ている服がだめって言うわけ。」


不満そうな声をあげる。


「一種類の服だけじゃきついだろ。それに着替えもないんだろ?」


 すると姉は口を詰むんだ。


 リオの姉は、なんかよく分からないけど着替えを持ってきていた。だけどそれも尽きたらしい。リオとサクラに至っては、持ってきていなかったんだから、今までいろいろ大変だった。仕方なくリオとサクラに俺の服を貸した。といっても俺は男物の服しか持っていないから、サクラには少し窮屈な思いをさせてしまった。まあそれも今日で終わりになるだろう。

 などの事情はさて置き、俺は外に出て一言しか話していないサクラを見た。

 サクラの表情は少し暗く見えた。ただただ空を見ていた。

 気になった俺は話しかける。


「サクラ。どうした。大丈夫か。」

「えっ?」


ハッとしたように俺に顔を向ける。


「なんか、今暗い顔していたぞ。」

「いや。別になんでもない。」


 慌てて顔をそむけた。何か考え事をしているのは分かったが、だけどそれ以上聞くつもりはなかった。


俺は、「そうか。」と一言だけ呟いた。


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