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第1話「世界ファーストキスワーストランキング第1位」




行ってきます。


 一人暮らしの家に、その呼びかけに答えるものは誰もいない。

 家の中の静寂とは裏腹に、玄関の扉の向こうからは8月を乗り越えた蝉の残党が、その図太さを精一杯アピールしてくる。

 新潟の片田舎から高校進学のため、県内の中心部へと引っ越して早や一年半。

 そろそろ誰もいない我が家への通学前の挨拶と、母が持たせた田舎臭い玄関マットを敷くのをやめようと、臙脂(えんじ)色のマットを眺めている少女が一人ここにいた。


 唐突だが、今読者が前述した文字を元に描いている情景は実際のものとはかけ離れている。

 呼びかけ、静寂、蝉、古臭いマット。

 彼女はその物語の始まり全ての要素をわずか1秒で消化した。

 


 

 そう、彼女は絶賛『大寝坊&大遅刻』中だ。




 中央4車線の大通りの脇にある歩道を、おおよそ華のJKとは思えないマジフォームで走り抜けていく少女が一人。

 夏休みの明けた二学期初日、まだ太陽の眩さと肌にまとわりつく暑さの残る9月の朝…。

 セーラー服の後ろ襟で風切り音を奏でながら走るJKにあなたは「青春」の二文字を見出すだろう。

 彼女がそれを聞けば、たちまち軽蔑の眼差しとともに、殺意に満ちたローファーの靴底があなたに裁きの雷を下すだろう。

 それほどに、彼女は危機的状況と精神的許容量の低下状態にあると理解してほしかったのだ。




 左手に聞こえる車の音、街路樹に止まる蝉の音、人々の靴が地面を叩く音。

 彼女は走り続けた。

 



「うるさい」


 


 横断歩道の一つ目の白線と靴底が触れた時、世界は突如静まり返る。

 それまで駄々を捏ねていた子供が、母に叱りつけられ、キョトンと静まるように。

 世界にとっての「母」でもいるというのか?

 少女は咄嗟に走りながら車道の方に顔を向ける。

 車は依然として地面を蹴り上げながら走り続ける。

 分からない。

 知らない。

 …………




 ふと横目に人影が映る。

 そこで少女は全力疾走中に横を向くという大変危険な体勢をとっていることに気がついた。

 慣性を行動の結果とするならば、それは運命への導きとなる。

 だが、それを生み出すのはモノの意志だ。

 我々はそれを見届けるしかない。

 唯一不確かなのは、「その意志は本当に運命の結果を背負うモノによって作り出されたのか」という点だ。

 衝突を避けるため、すぐさま前を向き直すが………




 ………もう、遅い。




ー




 私はその人と勢いよく衝突した。

 相手も前を見ていなかったのか、焼石に水であるが多少減速した私に比べ、相手の方が衝突力が強く、私に覆い被さる形で地面に倒れた。

 頭と背中を強く打っただろうか。

 しかし、痛みは一向にやってこない?

 あるとすればそう、見知らぬ唇への感覚。

 

 反射的に閉じていた目を恐る恐る開けると、私は見知らぬ男と唇を重ねていた…?………!?!?

 男の前髪が私の額をサラサラと撫で、私たちの距離感を鮮明に感じさせる。

 男も痛そうに顔を顰め、体を少し起こしつつ、目を開ける。

 目を開けた男が見たものは

「アワワ……アワ…アワアワ」と言いながら、瞳を潤め顔を真っ赤に染めていく少女だった。

 二人の男女。

 どちらが先に今起きたことを理解するのか。

 答えは明確だ。


「キャァァァァァーーー!!!!!」

 

 私は叫ぶと同時に男の腹に拳を振り上げた。


「グフォ…」


 男は顔を青ざめ、静かに地面に向かって倒れようとしてくる。

 男の下敷きになっていた私は咄嗟に横に逃げ、男はうつ伏せで静かに、そしてゆっくりと倒れた。


「ウグ…ウググ」


夏の終わりに力尽きた蝉のように、男はしばらく地面に伏せていることしかできなかった…。




 私…今何した………?(無論腹パンのことではない)

 この人と……キ…ス………してた!?


「ううぅ〜〜ん…は、腹に響く…」


 覇気のない声でうめき声をあげつつ、男が腹に手を当てながら上半身を起こし、こちらを見る。

 涙で霞んだ瞳で私も男の方を勢いをつけて向く。

 銀色の髪に部分的に赤い色が入っている。

 目も髪色同様、赤い瞳に銀色の瞳孔をして、的確にこちらを見つめている。

 年は私と同じくらいだろうか?

 顔をまじまじ見ていると、彼の唇に目が止まる。


「あっ」


 先ほとの口付けを思い出し、また顔が熱くなるのがわかる。


「どこに目つけてんのよ!!あ、あああんたのせいよ!//うぅぅ…///」


 我ながら自己中なことを言っているとわかっていたが、この形容し難い感情をどうにかして、目の前にいるこの男にぶつけたかった。

 男は先ほどよりも目力を強め、私に物申したい顔を作った。


「それはこっちのセリフだよ…「どこに目つけてんのよ!!」」


 本当に自分のセリフにするやつがあるか。


「逃げられちゃったよ…」

(逃した?出発目前のバスでも追いかけてたっていうの?!あんたのせいで私は幸せな恋を呼び寄せるファーストキスを逃したのよ!!)

「とにかく、急いでるから!!」


 そう言って男は立ち上がり、雲ひとつない空の何かを探すように見上げながら走り去っていった。


「一体なんなの?あの男!!」


 奴の走っていった方向を見るが、あの男はもういない。

 誰にもぶつけられないこの苛立ちを私は足にぶつけ、再び学校へ向けて走り出す。




 横断歩道の反対車線、朝の日差しで眩く光るアーケードの屋根に立つ。

 西洋装を身に纏い、ハットの中で堪えきれない笑みを溢す者が居た。

 笑ったことのない人間が人生で初めて笑ったかのような、歪で不規則で………人間臭い。



 全ての幕開けを、ただ祝うように。




最近思うことがあるんですけど、「マンホール」って名前、結構アウトじゃないですか?

頭痛が痛いみたいなそんな感じなんですかね。

どうやらman(男・人)hole(穴)を合わせて「配管工の通る穴」という意味らしいです。

なんだか私の思考を読まれて逆張りの返答をされたみたいになってますね…。

最近では諸々の事情を考慮して「メンテナンス・ホール」なんて呼び方もあるらしいですよ。

マンホールで言えば、「蓋が丸い理由」もよく言われますよね。

そら人類皆、丸みが好きやろがい!と声を大にして言いたいですが、これも対角線の長さが常に一定で穴に落とすことがないかららしいです。

詭弁ばっか並べやがって………。

何やら新しい物語が始まったらしいですよ。

【世界SHIKI】をよろしくお願いしまーす!

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