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予定死。

「16歳、女。飛び降りで死亡予定」


人の世にはポイ活というものがあるらしい。歩数、覆面調査、アンケート。ちまちましたことで端金を稼ぐ。塵も積もればなんとやらというやつか。


100年時代と呼ばれるこの時代。人口減少により貧困に悩むものがいる。人が死んだ時、あの世へ導く死神。俺たちだ。ポイント締め日まで残り2日。追い込みをかけなければいけない。そのためにも始めよう。懐に死亡リストを直し視線を向けた。


6月11日 10時未明 16歳 女

(ひいらぎ) (みこと)

飛び降りにより死亡予定


「予定か」

18階建てのビルから落下して死亡予定。普通は即死。この女は相当運がいいのだろう。もしくは地上の人間をクッションにして生き延びるか。

できることなら、多くを巻き込んで終わって欲しいものだ。


ふわりと金木犀の香りがする。この高さにも香るのか。ヒューと高い音を立て、風に靡いて見えたその顔は一瞬だけ時が止まったように思えた。人形のような顔とは、このような顔を言うのだろう。透き通るような白い肌に、それを際立てるような黒い髪。強く閉じられた瞼。この女の瞳は何色だろうか、声はどうか。その白い素足はどんな熱を感じているのだろう。死の間際にあるものを見て興味を持つのは初めてだ。


この感傷に意味がないと止めるかのようにーー

ヒュー。もう一度高い音を立て風が吹いた。


「どうせこの高さから落ちても未来は見えてんだ。だから楽に死んでくれ」

鎌を向け切り落とそうと思ったが、先程見た女の表情が脳裏に流れ手が止まる。

これはいい面見せてくれたお礼ということで、くるりと鋭利な鎌を逸らし、柄で女の腰を押しやった。


「・・・」

気のせいか、女の口が動いたように見えた。

死を決意した人が落ちる姿は、本当に静かだ。

悲鳴もない。音もない。

ただ、漆黒の服だけが揺れている。


ドォン。


地に着いた。人の死を最後まで眺めたのはいつぶりだろうか。体に動きはない。あとは生命活動の終了と共に魂が出てくるのを待つのみ。


「あぁ。この世は怖いな。下向いて歩いてる割にはスマホばかりで、1つの命が散ったのも気づかねえ。」


自動車が行き交い騒音に感じつつも何故か静かにも感じる。不思議な感覚だ。死亡リストにチェックを入れ早く回収しこの場を経とうと腕を動かすと、地に落ちた無惨な体が動くのが見え息が止まった。


「そうだな。」


ゴトン。「は?」


視界がゆっくりだ。

何が起こった?俺は鎌の柄で押し落とした。

なのになぜ、目の前にあの白い足がある。

「散ったな」

その声の先を見ると女が立っていた。

刺すような朱い瞳。高すぎず低すぎない声で話し、見下ろしている。

おかしい。なんでこの女がここにいる。俺は確実に落としたぞ?まさか生き返って、いや、それよりもこいつは俺(死神)が見えている。


――就業規則 第二十七条

(死後処理の基本義務)

一、対象の死亡を確認した後、回収業務は速やかに、かつ責任をもって遂行すること。

二、対象の処理に際しては、不要な苦痛を与えぬよう最大限配慮すること。

三、我々の姿を視認可能な者に遭遇した場合は、これを逃がすことなく記憶の消去および処理を行い、速やかに冥界へ送致すること。

四、前各号の遂行に失敗し、対象の逃走または未処理を招いた場合、当該担当者は自らの死をもって責任を負うものとする。


イレギュラー発生。

早急に処理をーーーー


「おい!新人サボってねーで確認し、、、」


そう声を荒らげた死神だったが声が徐々に消え入る。鎌を掴もうにも掴む手がない。手だけでなく胴も脚も。


「無駄だよ」

女は、しゃがみ込み死神の顔を冷たい目で見ながら静かに言う。


「頭から離れたお前の体はもう地に落ちた」

どういうことだ。なぜ体がない。この女は何を言っている。おいおいおいふざけるなよ。新人はどこに行った。地に落ちたって。

「えっ。地に落ちた。」

「お前が私だと思って見送ったのはお前の体だ。自分の体が死に向かうのを見送る死神は初めて見たよ。」

冷たい汗が流れる。あれが俺の体。確かにこの女が落ちるのを見たはずだ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。


「安心してよ」

焦る俺を落ち着かせるかのようにまた金木犀の香りがした。甘いはずの香りが、やけに冷たく感じた。あぁ。これはこの女の匂いか。

「お前たち全員殺したら、私も消える。

何を驚くことがある?予定に抗う選択をしたのはお前だ。リスクをわかってた上での所業でしょ?」


死神の顔が青ざめて行くと共に

軽やかなステップで階段を上がる音が近づく。

ガチャッ。バン!

屋上入口の扉が勢い良く開かれた。



「先輩終わりましたかー・・・って終わらされてんじゃん」

転がる頭を見下ろしてため息をついた。

「あんたが噂の神殺し?

で、これって俺も終わりってやつ?」

「もちろん」

間髪入れずに答えた。


「あー、ちょっと待ってなー」

そういうと死神は腰ポケットからスマホを出し

「日払い分、ちゃんと入ってるな・・・よし!」

顔を上げて、にっと笑うと

「あんた、俺と組まね?」

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