10話:ダイエットのためにテニスをする。
3月5日、土曜日。山崎さんに誘われてテニスにやってきました。休みの日にこんなに早起きするのは久しぶりかも。
今日来ていたテニスのメンバーはあたしを入れて、全部で9人。ほとんどの人はみんな40代、50代にみえるおじさんおばさん。若そうに見える人はほとんどいなくて、女性では山崎さん、男性では30代半ばっぽい人が1人だけいた。あ、あたしちょっとだけ場違いじゃないのかなあ?
「は、はじめまして。鈴木みさきって言います! 今日はよろしくお願いします」
「はじめまして。鈴木さんか……けど、鈴木さんはもういるからな」
「みさきちゃんでいいじゃろ」
なんとなく、友達以外からみさきと呼ばれるのは少しだけ違和感を感じるけど、しょうがないかな。そんなノリで、テニス中はみさきと呼ばれることになったあたし。
初めてで、あっちへあたふた、こっちへあたふたと足も全然動かないながらなんとか混ざって練習する。みんな年上の人ばっかりなのに、あたしなんかよりすごく動きが速くて……みんなすごいなあ。
運動神経も悪くてとてもど下手なあたしだったけど、みんな親切に教えてくれた。
13時までテニスコートを借りて、その時間から交代。9時から13時まで走り回ったあたしにとっては、もうほんとへとへと。これからしばらくの間は動けないんじゃないかなって思っちゃうくらい。
後片付けをしてたら、同じ鈴木さんという人から声をかけてもらった。
「いやあ、みさきちゃん。センスあるねえ」
「いえいえ、そんな事ないですよお」
「ほんとだって。去年から来るようになった後藤にくらべれば、ものすごい進歩や。なあ後藤?」
「そこで俺に振らないでくださいよ!? ええ、ええ! どうせいまだにバックもボレーも超下手ですよ!」
30代半ばっぽい男性の方が突然起こったような声を出した。
あの人は後藤って言うんだあ。
「誰もそんなことは言ってないじゃないか」
「でも、そのつもりで話しましたよね!? 鈴木さん」
「それは当たり前じゃないか。俺の苦労を考えてみい」
……ああ、な、なんか険悪な空気になりそうな……な、何か話題を変えないと。
「そ、それにしてもみなさん、やっぱりうまいですねえ。みなさんって今何年くらいテニスされてるんですか?」
「ん? 自分は職場に入ってからだから20年くらいかな」
適当に振った話題に鈴木さんが食いついてくれた。って事は鈴木さんは大学卒業から始めたって考えると、42歳くらいかな。
ふう……きっとこれで空気がよくなるよね。よかったよお。
「後藤さんはテニス歴何年くらいなんですか?」
「俺? 俺はまだ2年くらい。鈴木さんに誘ってもらって始めたんだ」
あ、あたしと一緒みたいな感じなんだあ。
「まだ2年なんですねえ。全然そんな風に見えませんでしたあ。ものすごく上手でしたよ」
「そんなそんな、お世辞なんていいっすよ。みさきさん」
お世辞じゃなくそう思ってた。普通にダブルスで試合をしてるのを見てたら、何度もスマッシュを決めて、サービスエースも何度も決めてて、すごいなあ、上手だなあと思ってた。
後藤さん、36くらいかなあ? 40代50代の人と一緒にいるんだから、きっと20代ってことはないよね。見た目からそんな感じ。
あ、ちょうどあたしの上司の山崎さんと同い年くらいかな……もしかすると、そうすると実は2人付き合ってるとかあるかもお……。
あたしの好奇心がむくむくと頭を出して、ちょっとだけからかってみたい気分になった。
そう思い、片づけが終わった後で、山崎さんに話しかける。
「あ、山崎さん山崎さん」
「んー? 何みさき」
……あ、山崎さんまでみさきって呼ぶようになったんだあ。なんだか不思議な気分。
それは今はどうでもいいよね。
「山崎さんと後藤さんってもしかして、付き合ってたりしてますー? こんなところでいい人見つけちゃってえ」
あたしはにへへと笑いながら、山崎さんに尋ねた。やっぱりこういう色恋沙汰は面白いもん。
「あん? なんで私が後藤なんかと」
……あ、あれ? 地雷踏んだ?
「というか、私は年下には興味ないんで。そもそも男にもそんなに興味ないけど、付き合うんだったらしっかり者の年上と付き合いたいね」
あれあれ? 何かおかしい。
「あれ、後藤さんって山崎さんと同じ30代ですよね? 36くらいかなあと思ってたんですけどお」
そう言った途端、山崎さんの動きが止まり、しばらく黙っていたあとブッと吹き出した。
周りにいたテニスの仲間も、そろいもそろって大笑いしている。
「後藤ー! みさきがお前の事36だってさー!」
「うるさいですよ聞こえてましたよ! っていうか新しい人来るたびに、みんな揃ってそのネタを使おうと思わないでくださいよ!」
え? あれ? 後藤さんってそういう風にしかみえないけど、何か違ったのかな?
「みさきさん……一応こう見えても、まだ26なんですよ」
……あ、あれ? あたしの3つ上?
「そんなそんな。またご冗談を」
「冗談じゃないですよ! マジですよ!」
はうっ!? ま、マジなんですかあ?
このネタは恒例になってるみたいで、「いや、みさきちゃんは悪くない。後藤が老けてるのが問題だ」とか「あいつはいじられて喜ぶから、もっといじってやれ」とか全員そろってさんざんに言って笑っていた。
あたしは後藤さんに対してものすごく申し訳ない気分になってたけど、『まあ、慣れてるよ』と苦笑いしながら後藤さんは許してくれた。
ひとしきりあたしと後藤さんがテニス仲間に大笑いされた後、山崎さんが話し出した。
「さて、今日はどこの店にします?」
……あれ? 今日はこれで解散なんじゃ?
「いつも通りサイゼリアでいいんじゃない? 最近行ってなかったし。みさきちゃんも行くよね」
「あ、はい」
あ、お昼を食べるんですね。
「この後の一杯がうまいんだよねえ」
あれ? なんか聞きなれた言葉が聞こえたような。
「美咲ちゃんはいける口?」
「あ、はい」
自転車で来たから、帰りは引いていけば飲めることは飲めるけど……あれ? 真昼間からビール飲むの?
のせにのせられて、ビールを何倍も飲んでしまいました。帰ってきて体重測ったら、71.8キロ……元に戻ってます。
せっかくテニスして一生懸命動いたのに! がんばれ、あたし!