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鬼に守られる理由を、私は知らない〜福山鬼記〜  作者: M


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10/11

10話 エピローグ

 堂々公園の端。砂留の上に、私とユノは座っていた。

 木々の紅葉は終わりかけ、落ち葉が山肌を赤や黄色に染めている。

 風は冷たくなり、間もなく冬が訪れることを予告していた。


 二人の間には、お饅頭の箱。ユノが買ってきてくれた茶山饅頭。

 私は一つ食べたけれど、ユノはまだ手を付けていない。


「私ね。前にここへ来たときは、違和感があったの」


 話しかけても、ユノは俯いたまま。私は構わずに話を続ける。


「でも今は、その違和感がなくなった。慣れたってことかな」

「……」

「私は大丈夫だから、ユノはユノの人生を楽しんで」

「……そうじゃね、ウジウジするなんて私らしくないよね」


 ユノは絞り出すようにそう言うと、頭を振って、自分の頬を叩く。

 気持ちを切り替えて、お饅頭をつまんで頬張った。

 私ももう一ついただく。ほんのりとした甘みで、二人の頬が緩む。張り詰めていた空気も解けていく。


「あーあ。御領さん、取られちゃったな」


 ユノの声が少し上擦る。それは、私が御領を奪ったという非難でも嫉妬でもない。

 それは分かっているけれど、私は謝った。


「ごめんね」

「マキが御領さんと一緒になっても……、私たちずっと友達じゃからね」


 ユノと手をつなぐ。彼女の手の温もりが伝わってくる。


「もちろん。鬼は絶対に嘘を吐かないからね」


 私は、彼女の背中をポンポンと叩く。

 ユノの瞳から涙が溢れ出す。


「ねぇ、マキ。ホントにもう会えんの?」

「ううん、いつ会えるか分からないだけ。数年後か……数十年後か……」


 ユノの手に力が入る。私もしっかりと握り返す。

 妖怪の世界は、現実の世界と隣り合ってはいるけど、時間の流れが異なる別の世界。

 鬼の番となった私は、妖怪の世界に住む。もう平凡な大学生ではない。皆と同じ時間を生きられない。


「でも、私はずっとこの山にいるよ」

「そうじゃね」


 そう言葉を交わして、私たちは立ち上がる。

 私は山手に立つ御領の元へ、ユノは駐車場で待つお兄さんの所へ戻る。


「もう良いのか?」


 御領が私に声を掛ける。


「これ以上話してたら、本当に別れが辛くなるから」


 そう答えたけれど、私はもう胸が押し潰されそうだった。

 ユノは車の窓を開けて、私に手を振る。


「絶対に遊びに来るから! イケメンの彼氏連れて来るからね! 子連れでも来るんじゃけぇ!」


 ユノが目一杯叫ぶ。

 お互いの頬を涙が伝う。

 車が見えなくなるまで、私も手を振り続けた。


 公園に静けさが戻ってきた。通り抜ける風が木の葉を擦り合わせる音だけが響く。

 頬に当たる風が、涙を乾かしてくれる。


 私は息を呑み、心を落ち着かせる。

 かなり時間がかかったが、御領は何も言わない。ただ、私を見つめていた。


「行こう、イガグリくん」


 御領は私の笑顔を見て、優しく微笑んだ。彼に手を引かれて、山を登る。

 この大きな手と繋いでいると、安心する。私はぎゅっと掴み返す。


 八丈岩まで上ってきた。

 岩には鬼の足跡が残っており、御領はその上に立つ。そこが彼のお決まりの場所だ。

 私は御領の隣に寄り添い、樹々の間から覗く町を見下ろす。

 二人の山吹色の瞳が、穏やかに細まる。


***


「それからは、八丈岩に二つのお饅頭がお供えされるようになりました。おしまい」


 ユノは最後の一文を読んで、絵本『鬼はせと、福はうち』を閉じた。

 子どもたちは口々に感想を叫ぶ。


「楽しかった!」

「鬼、怖くなかったよ」


 子どもたちはユノから絵本を借りると、それを広げ、みんなで囲んで眺めている。


「園長せんせぇ。このお話、せんせぇが作ったの?」

「そうよ」

「面白い! この絵本大好き」

「ありがとう」

「園長せんせぇ、この後、鬼たちはどうなったの?」


 ユノは窓の外、御領山の方を見て、微笑んだ。


「きっと私たちを見守ってくれてるわ」


〜おしまい〜

 最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

 少しでも福山の良さが伝われば幸いです。せとうちは海だけじゃないんよ。山にだってようけ魅力があるんじゃ。

 狭い地域の細かい地名が出てくるお話で、地理関係をどこまで表現するか悩みました。今後の作品に生かせたらと思いますので、ご感想をいただけますと幸いです。

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