表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼に守られる理由を、私は知らない〜福山鬼記〜  作者: M


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/9

1話 プロローグ

この物語はフィクションです。福山に実在する団体や商品が出てきますが、実在のものとは一切関係ありません。

 私が福山に戻ってきて、二年が経った。

 小学生の頃、私はこの町で神隠しにあった。


 今日は親友のユノと一緒にお出かけ。ユノのお兄さんが運転する車で、公園へピクニックだ。

 国道三一三号から脇道に入り、備後国分寺の横を過ぎて、車は山道を上がっていく。


「ねぇマキ、見て」


 助手席に座るユノが窓の外を指差す。

 後部座席の私が振り返ると、神辺平野が一望できた。

 窓を開けると、最近やっと涼しくなってきた秋の空気が入ってくる。


「大学見えるかな?」

「ちょっと難しいね」


 私、豊田麻姫(マキ)は、福山にある大学のこども学科の二年生。中学の時に父の転勤で福山を離れ、大学で再び戻ってきた。

 幼馴染のユノも同じ学科の二年生。彼女自慢のゆるふわな髪は、今、窓からの風でぐちゃぐちゃになり、奥の方が薄く黒みがかっている。


 五分ほど走って、「着いたよ」とお兄さんが車を駐車場に停めた。

 ユノが車を降りようとして、転ぶ。


「ちょっと、ユノ。大丈夫?」


 私が手を差し伸べると、ユノは「ありがとう」と言って手を取る。


 ここは堂々公園。

 御領山の中腹にある親水公園で、開けた草原には彼岸花が赤く連なっている。

 ユノは伸びをしながら「うわー、久し振りぃ」と叫ぶ。

 一方の私は、辺りを見回して首を傾げる。


「こんなトコだったっけ?」


 何か、普通とは違う感覚。

 この公園に対して違和感なのか、それとも……


「小学生の時、ここでマキが迷子になったの覚えてるわ」


 ユノの言葉に私は我に返る。

 お兄さんも「あれは大事件じゃったけぇ」と言って頷く。


 お母さんから何度も聞いた。

 私がこの公園で行方不明となり、見つかったのは二日後。この山のもっと上の方にある「八丈岩」という奇岩の陰に座っていたらしい。


「ほとんど覚えてないんだよね」


 十年前とはいえ、もう小学校三年生だったのだから、そんな印象的なことがあれば、忘れるはずがないのに。


「あの時は、ユノが泣き続けて大変じゃったな」


 お兄さんがからかうので、ユノは恥ずかしそうにする。


「だって、ぶち(とても)心配じゃったもん」

「ごめんね、ユノ」


 彼女は感情的になると、方言が強くなる。私は笑いながら謝った。


「マキ。あの時は、どうしてたん?」


 ユノの質問に、私は答えられない。

 その時の記憶を思い出そうとしても、頭にモヤがかかったようになる。

 ただ、唯一思い出せるのは、私の手を力強く引っ張る大きな手。


「思い出せないのよ」


 私の答えに、ユノは「そっかー」とだけ呟く。


「怖かったから、無意識に記憶に蓋してるのかもしれんな」


 お兄さんはそう分析する。

 でも、私は少し違う気がしていた。違いを表現する言葉が思い浮かばないけれど、怖かっただけ(・・)じゃないはず。


「お腹空いたし、お昼にしようよ!」


 私は雰囲気を変えるために、大きな声で叫ぶ。


 お兄さんが「こっちに良いところがあるけぇ」と、公園の真ん中を流れる小川に沿って進んでいき、みんなで公園の端へ荷物を運んだ。

 公園の端は砂防ダムだった。私たちは切り立ったダムの上から五、六メートル下を覗き込む。


「まるで崖だね」


 私の感想に、お兄さんがすかさず「砂留って言うんよ」と解説を入れる。

 呼び方なんてどうでも良いんだけど。


「ここに座って食べよう」


 切り立ったダムの縁に三人で腰掛ける。宙に投げ出した足をバタつかせながら、昼食の準備をする。

 まだ紅葉は始まったばかりで、ほとんどの木々は青々としていた。山の空気は穏やかで、街とは違う爽やかさに包まれる。


「いただきます」


 みんなでサンドイッチを頬張る。

 素敵な景色を眺めながら、みんなで食事するのは楽しい。

 なのに。


「……」


 気配……というか、視線を感じて、私は振り返る。

 その先は彼岸花の列の向こう。


「マキ、どうしたん?」


 ユノの視線が私の見つめる先を追いかける。

 静かすぎる山の中。

 足が地についていないだけで、こんなにも不安になるなんて。


 でも、下手にユノを怖がらせても仕方がない。

 私は気にしないことにした。


「ううん、彼岸花の赤が綺麗だなって」

「そうだね」


 ユノも私の笑顔を見てホッとしたようだ。



 食後はバドミントンで腹ごなし。

 意外とユノの運動神経が良くて、圧倒されてしまう。


「やばっ」

「てぇい!」


 ユノの気合いに、私はビクッと固まってしまう。

 だが、彼女のラケットはシャトルを捉えられず空を切った。

 そして。


「いったーい」


 ユノはすっころんだ。


「おっかしいなぁ。バド部だったのに」


 足を痛めたユノが休んでいる間に、私とお兄さんで片付ける。

 車に戻る途中、観光案内の看板が目に入った。その中には、もちろんあの「八丈岩」も書かれていた。


 私は思わず息を呑む。思い出せないのに、思い出したくない。


「へえ、八丈岩って鬼の足跡があるんだ」


 ユノは説明文を読みながら呟く。


「この辺りには、鬼の伝説があってね。この山と……」

「はいはい、お兄ちゃんのウンチクは、また今度」


 話が長くなりそうだったので、ユノが打ち切る。

 そして、私を見て提案する。


「行ってみる?」

「どこへ?」

「八丈岩」


 私の背中から嫌な汗が吹き出す。

 心臓の鼓動が早まる。


「何で?」

「ほら、思い出せるかもしれんし」


 私は、自分の手を見つめる。

 この手を握った誰かのこと、思い出して良いんだろうか。

 このまま忘れてしまった方が良いんじゃないか?

 でも、知りたい気もする。


「そうね。行ってみよっか」


 私は一瞬迷って、そう答えた。


「何言うとるん、ダメじゃろ」


 それをお兄さんが止める。


「秋はすぐに暗くなるけぇ。また迷子になるつもり? 何より、ユノは足をくじいてるじゃろ。さあ帰るよ!」


 私たちは、促されるまま車に乗り込んだ。



 彼岸花の向こう。人にあらざるモノが、ゆらりと揺らめいた。

 その山吹色の瞳は、ゆっくりと瞼の向こうに消えていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ