楽しみの理由
僕、祭誠志朗17歳は、普通の男子高校生。
になりたい、人間の出来損ない、だ。
今クラスで行われている会議。
それは正直言って、去年までの僕にとって特段印象を抱けるものではなかった。
近所の祭よりもグレードダウンした祭をわざわざ時間をかけて、しかも自分たちで作る。
面倒でつまらん。
そう、思っていた。
けれど、今年はたぶん違う。
そんな予感があった。
文化祭。
それは青春屈指のキラキライベント。
夏休みも、体育祭も、修学旅行も、初めての経験で埋め尽くされて、とても充実していて、楽しかった。
そしてそれは、間違いなく、友人のおかげだ。
今も胸の中にあるこの気持ちは、確かに恋ではあるのだが、それ以上に、友にしてもらったものが多すぎる。
まずは、それに報いねばならない。
そのためにも、この文化祭、僕はクラスに貢献したい。
クラスの出し物はコーヒーカップとお化け屋敷で最後までもつれた結果、お化け屋敷に決定した。
次に会議はコンセプト係とお化け役、装飾係の配置についてに移った。
コンセプトに関してはクラス全体で話し合うべきということで、全員参加。
お化け役か装飾係か。
流石にここは、装飾係を選んだ。
お化け役は僕の性には合わない。
浅井君たち派手グループはみんなこぞってお化け役へ、蘇我さんも加納さんもお化け役。
そして、三津家君までもが、お化け役へ行ってしまった。
ただ、それは少し彼らしくない選択に思えた。
装飾係には知り合いだと田沼さんと三田さんが来た。
そうか、三津家君は三田さんを避けたのか。
だがおかしい。
修学旅行のときには露骨に避けたくないみたいに言っ
ていたのに。
まぁ、何かあったのかな。
彼の横顔は、気まずさや遠慮ではなく、やる気に満ちていた。
まず何より優先されたのはコンセプト決定だった。
当然だ。
そこが決まらないとそれ以外も動かせない。
具体的には西洋風にいくのか和風にいくのか。
脱出ゲームにするか、謎解き要素を入れるか。
話し合いは30分ほど続いた。
その結果、この学校の近くにあるお寺とお墓、実名を出すことは避けつつ、そのお寺から抜け出してきた幽霊から逃げるというコンセプトに決まった。
授業時間は20分ほどオーバーしたが、それでもみんな今日のうちに決めたいということだった。
ここに、うちのクラスの強みがある。
体育祭は下から3番目だったが、まとまり自体は良かった。
頭がいい。
かわりに社交性を失ってしまう人は何人かいる。
それでも、このクラスは社交性や協調を重視する頭のいい人が集まっていて、行事の際はみんな積極的だし
協力的だ。
そんな中に交じれたことを幸運と思った。
僕には過ぎたクラスだ。
余計、頑張るしかなくなった。
翌日から早速教室の飾り付けの準備が始まった。
学校から貸してもらえる暗幕は限りがある。
基本は黒のビニールや画用紙でどうにかする。
足りなければ新聞紙や裏紙を黒く塗りつぶして使う。
仄暗い明かりには小さめの懐中電灯がベストだ。
懐中電灯と電池をみんなで持ち寄ることにした。
これで明かり問題と壁、仕切りの大まかな装飾の内容は決まった。
ここからは、細かな仕掛けに入っていく。
壁に手形を付ける。
所々に新聞を破って張り付ける。
怖い人形を買ってくる。
人の手とか部位を紙粘土で作ってその辺に落としとく。
明かりで照らすと顔が浮かび上がる仕掛けを作る。
頭のいいクラスのいいところだ。
どんどん案が出てくる。
中心となるのは、美術部員の田沼さんや会計担当の男子生徒だ。
やはり、田沼さんはこういう創作系は得意なんだ。
僕らが内容を出し合って方向性を決めている間、お
化け役の皆はどんなお化けになりたいかを話し合っていた。
浅井君は目玉おやじになりたいとか言っていた。
蘇我さんや加納さんの格好も気にはなるが、一番気になるのは、やはり三津家君だ。
彼の性格上、こういうときは裏方に回ってきそうなのに今回は客の前に立つ方を選んだ。
女子たちは何やら特殊メイクがどうこうとか先生も交えて盛り上がっていた。
蘇我さんの口からは僕には理解不能な言葉が連発されていた。
加納さんも先生も、その他の女子も、よくついていけるな。
やっぱ男でも少しは勉強するべきかな。
家に帰ってから懐中電灯の在り処を祖母に聞いたが、
「そんなもんないよ。」
と返された。
どうしよう。
うちは新聞も取ってないからこのままでは材料の面で役に立てない。
懐中電灯ならいざって時でも使えるし、この際買ってしまおうか。
バイト先の店も入っているモールへ行って懐中電灯と電池を購入した。
そう言えば、ビニールとか言ってたな。画用紙もあれば便利か。あ、暗幕って売ってるのかな、あとでホームセンターにも…。
いろいろ買ってしまった。
領収書ももらってないし…。
家にあって不思議じゃないのは懐中電灯と電池、黒いビニールもぎり不思議じゃない、か…?
はあ…。
張り切りすぎて勝手に色々買い込んで、
馬鹿みたいだ。
一人で今日の購入品を眺めて、静かに笑う。
…うん。
楽しみだ。文化祭。




