第4話 本気出していいんですか?
遅くなりました。遅くても週1で投稿できたらいいなぁって思ってます。
誤字報告ありがとうございます。
先程の件のこともあり、教室に入ってからもやはり麗華様の周りには何か見えない壁があるかのようだった。
「麗華さんが辟易する理由は分かりますわ」
ただ、一部の人にはその壁も全く意味をなさない。
梅お嬢様だ。流石長年麗華様とお友達なだけある。
「あぁ、やっぱり梅もなのね」
麗華様は梅お嬢様に「あなたも苦労するわね」と言う。白鳥グループも東雲グループと負けない巨大企業なので似たような感じなのだろう。
麗華様も梅お嬢様にしてもそうだが、仲良くしたいと擦り寄ってくるのはお嬢様と仲良くしたいのではなく、その後ろにある巨大な権威と懇意な関係になりたいというそういう者だ。
もっとも、麗華様は昔からそういうのを相手にしないようにしているのだが、その態度が相手からは驕っているように見えるらしい。
「貴女もぶった斬ることを覚えたら?」
「なかなか出来ませんわよ。彼女らも被害者ですもの」
梅お嬢様は麗華様ほど冷たくあしらわない。曰く、自分に擦り寄ってくる者もまた、自身の家や会社から指示されてそういう態度をとっているだけに過ぎないのだとか。嫌な世界だ。お金持ちも大変だね。
「困ったわね……飛鳥を窓口にしようかしら」
麗華様もしかして僕にヘイトを集めようとしてません? まぁやれと言われればやりますけどね。あれ、梅お嬢様が僕に同情的な目を向けている。
「飛鳥さん……本当に麗華さんのところが嫌になったらわたくしのところにいらっしゃいな」
本当に憐れむような声だった。え、麗華様の所業ってそこまで酷いんですか……? もしかして慣れ過ぎて感覚がバグってる?
僕が可哀想な人扱いされていると、教室に担任と思しき若い女教師が入ってくる。ボサボサの髪と眠そうにしている姿からは全くもってお嬢様学校の教師とは想像できない。
「はい席につけー。めんどくさいけど自己紹介するよー。日比谷巽、こんなでも3年間は君たちの担任だ。みな、私を敬いたまえよ」
そして発言も教師とは思えない! もっと『〜〜ざます』みたいな口癖の人が来るとばかり、いやそれは流石にフィクションにしか存在しないか……。
育ちの良いお嬢様にはインパクトが強過ぎたみたいだ。一部はこんな粗雑な人初めて見ましたわと言わんばかりに露骨に顔を顰めている。
ちなみに麗華お嬢様は特段気にしていないご様子。流石は麗華様だ。海千山千の資産家たちを相手にしているだけあってこういう手合いには慣れている。僕も少しは同室したことがあるが、彼らがみな礼儀作法に精通しそれを重んじているかと言われればそういうわけではなかった。
まぁそもそもこの学院で教鞭をふるっている時点で無能なわけないんだけどね
となると、それに値する何かがあると見るのが自然なのだが、それを少し生まれが恵まれただけの学生に感じ取れというのは無茶だろう。
「じゃ入学して早々悪いんだけど、今日は学力テストを行いまーす。残念だったなー、入学前のオリエンテーション資料には書いてないぞー。特に、特待生は点数が悪いと特待処置を受けられなくなるから注意しろー」
そこかしこからクスクスと嘲るような声が聞こえる。
嫌な感じだ。日比谷先生はその様子を見て露骨に溜息を付いた。
「試験開始は30分後。人の上に立つ者がバカであってはならない。これはこの学院の建学の精神であり、聖マリア女学院のブランド価値だ。金持ちごっこもいいが、しっかり勉学に励むように」
日比谷先生は空気をぶち壊すと「以上!」と言って教室から去って行った。この人も敵を作るタイプの人だーーー!!!
表現とか比喩ではなくまさしく空気が凍った、いや比喩なんだけどね。一瞬教室内に静寂が訪れる。
「な、な、ななな何なんですのあの人は! お父様に言ってクビにしてやりますわ!」
西沢さんだ。取り巻きの資産家のお嬢様方もそうですわそうですわと息巻いている。
「今更私たちが必死こいて勉強なんてそれこそバカというものですわよね」
親が資産家だとそういう人もいるんだろうなぁ。
「この学院にもガッカリですわ。特待生などというシステムもそうですが、使用人の入学まで認めるなんて、ここは庶民のための学校じゃありませんのよ?」
うん、これは明らかに僕のことだね。というか何で麗華様は西沢さんに嫌われてるんだろ。僕の隣に麗華様にも聞こえているはずなのに麗華様は素知らぬ顔をしている。これはあれだ、金持ち喧嘩せずというやつだ。
そんな麗華様は嘲笑するようにフッと笑った。違った、本気でキレてる顔だった。
「お金持ちごっこ、言い得て妙ね。そう思わない?」
仮にそう思っても僕に振らないでくれませんかねぇ……ここは苦笑いで誤魔化して騙くらかして有耶無耶にしよう。
「どういう意味でしょうか」
「あら、頭のいい飛鳥ならあの教師の言わんとしていることは理解しているでしょう?」
「いえ、まぁ……」
西沢さんは金と権力で日比谷先生を辞めさせてやると息巻いているが、おそらく日比谷先生はそれ以上の権力に守られている。後ろ盾というやつだ。怖い怖い。
まぁ当然と言えば当然なんだけどね。この学院は何も資産家のための学院じゃない。権力が服を着て歩いているような政界や芸能界も絡んでいるということを忘れてはいけない。
そして、彼女らは惜しみなく勉強する。政治家の娘は当然のように東大の文科一類へ、芸能人の娘はその知性と美貌と、そして聖マリア女学院の箔を手にインテリ芸能人としての立場を築いていく。
家業のことを考えるならば、資産家の娘はこと学院において高飛車な態度は悪手でしかない。
政界、芸能界とは良好な関係を築くべきであり、ましてや敵に回すなんて論外だ。
企業の名を持ち出している以上ここでは彼女らが顔だというのに本人達にはその自覚がないって、そりゃごっこ遊びと揶揄されても仕方がないだろうってこと。決して口に出しては言えないけどね。
「聡い子は好きよ」
僕の微妙な表情から何を考えているのか読み取るのはやめてくれませんかねぇ……。
しかしなんというか、こうしてみると資産家に対しての価値観が変わるなぁ。
東雲グループや白鳥グループに取り入るよう親から指示されるっていうのも可哀想だし、親の付き合いで元々仲の良い友人とは仲良くしつつも資産家以外のコミュニティから弾かれないように上手く立ち回らなければいけないし、てんやわんやだ。
「資産家の娘は頭が悪いなんてレッテルをはられるのも癪ね。それに飛鳥のことを認めないっていう子は他にもいるかも知れないし、どうしようかしらね」
麗華様は僕を見てニコッと可愛らしく笑った。あ、これあかんやつや。
「私に花を持たせようとか考えなくていいわ。捻り潰しなさい」
可愛い顔して言うことが苛烈なお嬢様だ。でも学力で捻り潰すとはこれ如何に。
学力テストは国語、数学、英語の3科目で試験時間は1科目60分と短めだった。
さて、麗華様から本気でやれと言われた僕の学力だが、実は高等教育の課程は既に終了している。数学ならばⅢ・C、物理化学生物のⅡ、地理Bと選択している。今回役に立たないねぇ……!
そんな僕が問題に向き合った感想だが……。
「なんか難易度設定ミスってない?」
国語は現代文オンリーだったからまぁそんなに差はつかないだろう。しかし漢検1級レベルの漢字に✳︎の注釈じゃなくて棒線が引っ張ってあるのには思わず笑ってしまった。解かせる気ある?
数学はどこかの入試問題の改変か。難関中学の入試問題のようなひらめきでも解ける整数問題もあったため是非とも麗華様には頑張っていただきたい。
英語は医学論文の導入が2編だった。受験英語では使わない専門用語も頻繁に出てきた。これには流石に注釈があったとはいえ、もう一回言うけど解かせる気ある? The purpose of this study じゃないよ。
心が折れてしまっているお嬢様方も見られる。放心状態だ。
「飛鳥、帰るわよ」
うーん、うちのお嬢様は平常運転だ。