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第12話「襲撃の気配」

 打ち解けたケルベロスからは……

 所持しているルイ・サレオンの魔法指輪の概要、使用方法を始めとして……

 それ以外にも、いろいろと世間の常識という奴を教えて貰った。


 人外の魔族でありながら、また地下深き冥界の番犬だった癖に、

 人間の自分より世間を知るケルベロス……


 ディーノはとても意外であった。

 何故ケルベロスがそこまで世慣れているのだと。

 気になって尋ねると、以前のあるじと共に世界各地を旅して人間に関する知識を得て、世情に通じたという。


 ケルベロスと話し、ディーノは複雑であった。

 自分はどれだけ世間知らずなのだと、少し落ち込んだ。

 しかし魔族に『世間』の厳しさを教わるのも味があるとも考えてしまう。


 それに前向きにも考えた。

 ケルベロスがそこまで人間社会を熟知しているのなら、これから大いに役に立ってくれる……

 誰が持つ知識でも、それらを知り、取捨選択が可能ならば……OK!

 旅を共にするディーノにとってはメリットこそあれ、デメリットなど想像もつかなかった。


 さてさて、話を戻せば……

 クロティルドから貰い、ケルベロスにレクチャーを受けたルイ・サレオンの指輪はとても便利であると分かった。

 いにしえの魔法王愛用の品だったという事実も合点が行く。


 この指輪は魔物を制御するだけではない。

 召喚済みの魔物をストックして、いつでも呼び出せるようになるともいう。


 試しに……

 心に浮かんだ『帰還』という言霊を念じると、

 ケルベロスはその場で消えてしまった。

 彼の身体は指輪の中にある特別な異界へ収納されたのである。


 再度召喚する場合は指輪の鉄部分を触り、ケルベロスを思い浮かべるという。

 『召喚』と念じればいつでも呼び戻す事が可能だというので、

 またも試しに行ったらスムーズに呼び戻せた。


 またクロティルドが指輪を渡す際、教えてくれたふたつの効果も本当だった。

 否、本当どころではない。

 単に装着するだけで、丈夫さと素早さが大幅に上がった気がする。


 体力や魔力の著しい上昇も感じたので、ディーノは気分も良くなり、更に余裕を持つ事が出来た。

 召喚魔法と同様、実際どれくらい自分の能力がアップしたのか、発揮出来るのかがとても気になった。


 ディーノは今迄訓練ばかりで、実戦の経験があまりない。

 戦うのが嫌だし、才能もないと実感していたからだ。

 実際ステファニーが、副従士長のカルメンと共に、

 あっさりと魔物を瞬殺して行くのに比べ、

 オークたった一体とようやく互角に渡り合うくらいが関の山であった。


 だから、変貌したらしい自分の能力を早めに試しておこうと決意する。


 そんなこんなで……

 ケルベロスとすっかり話し込んでしまったので、

 ディーノは商隊のキャンプ地へ戻るのが大幅に遅れてしまった。


 戻って来たディーノはリーダーのマルコには特にこっぴどく怒られる。

 聞けば、マルコはとても心配して部下と共に辺りを探してくれていたようだ。


 反省したディーノはひたすら謝った。

 厳しく叱られたのはこたえたが、反面嬉しかった。

 天涯孤独で赤の他人である自分をここまで心配してくれる人が居るのだから。


 ディーノは『ペナルティ』として、自ら夜の見張りを申し出る。


 町や村のように防護柵が全くない、今夜キャンプするような無防備な場所では常に警戒が欠かせない。

 捕食者である魔物や獣だけではなく、このような商隊へは、 

 金品目当ての山賊などの脅威もあるからだ。


 しかし、エモシオンを出る以前より、ディーノはずっと心強かった。

 今はひとりではない。

 戦友ケルベロスが加勢してくれる。

 至宝ルイ・サレオンの指輪が、そして師ロランの形見、護符ペンタグラムが身を守ってくれると信じているからだ。


 そんなディーノの不安に呼応するように、『小さな事件』は起こったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 深夜……

 少し眠かったが、ディーノは頑張って起きていた。


 傍らにはこっそり召喚したケルベロスがうずくまっている。

 彼の言う第四段階の本体だと大騒ぎになる。

 騒ぎとなり旅が続けられないと困るので、第二段階の仕様だ。

 成獣の灰色狼とほぼ一緒だと想像して頂ければ基本的にOKである。


ふと上空を見上げれば、またたく星が一面に広がっていた。

どこかの詩人が降るような星空と言っていたが、まさにその通りである。


 ときたまディーノは暗闇へ目を凝らす。

 今のところ、異常はなかった。

 鋭くなった五感が、また不可思議な感覚が周囲の様子を教えてくれる。


 ちなみに見張りはディーノただひとりではない。

 護衛の為に雇われた冒険者達が同じように交代で、

 夜通し警戒しているはずである。


 しばらく何も起こらなかった。

 だが日付けが変わり、約1時間経った時、

 異変は突然起こった。


 眠るように目を閉じ、微動だにしなかったケルベロスが反応、ゆっくりと半身を起こしたのだ。


『どうした?』


 ディーノから尋ねられ、ケルベロスはぽつりと返す。


『……敵だ』


 敵!?

 しかしディーノも何か得体のしれない圧迫感のようなものを感じている。

 小さく頷き、ケルベロスに同意する。


『敵か……そうだな、俺も何か敵意みたいな気配を感じる……』


 ディーノの言葉がうけたのか、ケルベロスは低く笑う。


『ふふ、敵意みたいだと? はっ、笑わせる。未熟者の癖に生意気な口を利くな』


 やはりとディーノは思う。


 ケルベロスもロラン同様に教師然として接して来る。

 でもこのようなタイプとのやりとりに、ディーノは慣れている。

 ここは敢えて反論せずだ。


『ああ、確かに生意気かもな』


『ふん! じゃあ……いっちょ片付けて来るか』


 案の定、ケルベロスは怒りはせずに鼻で笑い、出撃しようとする。

 と、ここでディーノはストップをかける。


『待て! ひとつだけ教えてくれ。敵とは? 誰が襲って来る?』


 そう……ディーノは自分で言う通り、まだまだ術者としては駆け出しだ。

 迫り来る敵の存在を感じただけで、具体的な位置、正体までは分からない。


『はっ、敵意とか言って、そこまでは分からないのか?』


『ああ、分からない。だから、ケルベロス、今後は索敵や気配察知の指導を願いたい』


『……良いだろう、いずれ教えてやる』


『助かる! ありがとう』


 ディーノは元気よく礼を言った。

 やはりケルベロスは『教師』なのだ。

 

『ふむ……敵は人間だ、人数は10人……山賊って呼ばれる雑魚だ。まあ傭兵あたりの成れの果てだろうさ』


 山賊が10人……

 雑魚と言い切るあたり、ケルベロスはものともしないだろう。

 但し、ディーノは念を押す。


『……大丈夫か?』


『はっ、大丈夫だと? 俺を誰だと思ってる?』


『誰って、ケルベロス様だろう?』


『うむ、その通り、このケルベロス様が山賊など軽くひねってやろう』


 軽くひねる?

 それは一体どういう意味なのか?

 気になったディーノは一応釘を刺す。


『……頼むから喰ったり、殺したりするな。軽い怪我くらいにとどめてくれ』


『はっ、こっちの命を狙おうというのにお甘い事だ。でも……分かったよ、あるじ


 いろいろと憎まれ口を叩きながらも、

 最後に……主ディーノの意思に従ったケルベロスは、

 軽やかな身のこなしで闇の中へ消えて行った。

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