第三章乃 いち
虐待
自らお腹を痛めた、或いは分身とも言える子供を
肉体的精神的に虐めるなんて、理解できない。
自身が子供を持てなかったこともあり、
また人生としては色々あったけど、父母の愛を
しっかり感じて育ったため、不可解と嫌悪しか沸かない。
それが、あの子の身に起きていたとは。
田舎に逃げ帰って4年、私は某古本兼ゲーム兼CDショップの
雇われ店長をやっていた。
やはり下を育てるのが好きなんだなと再確認したのは、
私の元で、パートから社員へ、社員から店長へと
毎年排出し、有能な部下を育てる事で、自らは何もしなくとも
店の売り上げは、毎年鰻上りだった。
ボーナスも鰻上りといけばよかったのだが、
後で知ったが、中々のブラック企業だったようだ。
そんな珍しく仕事で忙しくしていた時に、
あの子が虐待を受けていると知った。
教えてくれたのは母で、その時の母の行動は迅速で大胆だった。
私に連絡をくれ、2人であの子のいる家に行くと
母は、家の玄関戸を蹴破った。
豪放磊落ではあったが、暴力とは縁が無いように見える
母とは思えない振る舞いに驚いた。
男親は居なかったが女親は居た、奇声を上げて意味不明な
言動をする女親に、母は「だまれ!」と一喝し、蹴り倒した。
よほどの確信がそこにはあったのだろう。
母の怒りは真っ当なものだった、私もそれを見たとき
怒りに目の前が赤くなるようだった。
その部屋は施錠された上、ペットケージが張ってあり、
恐らくトイレのつもりであろうペットシーツが1枚置かれたきりだ。
明らかに殴られた跡もある痩せ細った体を丸めて、
あの子が転がっていた。
再び女親が上げた奇声は、私の頭に意味を作らなかったが、
母の指示は、的確で私を従える意思に溢れていた。
殺意に流されそうになる私を抑え、ペットケージを壊し
あの子を上着で包み、女親を振り払い病院へと担ぎ込んだ。
母の行動は、その後も迅速で大胆で。
あっという間に、あの子は母の養子になっていた。
よくある話で、男親の方はDQNだった。
あの子を保護して、程なくボコボコと変な音を立てる
改造車が、母の家の周辺をうろつく様になった。
近くに住んでいた私はすぐに気づき、見覚えのある
DQN親の前に立ちはだかった。
DQN「んだ、おまぇはっ どけ、おらぁ」
というような意味の言葉だったと思う、
やつらの独特のイントネーションは、言葉を不明にし
ただの奇声にしかならない。
しかし、夜逃げの時に本物のヤクザに追われて、対峙した
私たちから見れば、ただの失笑事に過ぎない。
当然顔に出たのだろう、左手で胸倉を掴まれた。
右手は、殴りかかるために後ろに引き絞られる。
知っているだろうか? これで防衛のために振るう暴力は
正当防衛になる。
「現に殴られる手前」というやつだ。
左右に開かれた体、がら空きの顎に左の掌底を叩き込み、
右手で胸を掴んでいるDQNの左手を捻り上げる。
DQNの左手ごと軽く右手を引くと、よろめいたDQNの横顔に
振り抜いたままの左の肘を打ち下ろす。
もう膝を着いていたが、まぁ、まだ収まらなくて
その後もしばらくボコる。
そして、DQNの耳元で優しい声音で教えてあげた。
「今後、子供を作れないようにしてあげよう」
実際にその通りにしてあげた、DQNという生き物は
睾丸を潰しても死なないらしい。




