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SIN関数とCOS関数を使えば時計 熟練職人依存が少しは減るんだ と叫ぶ芸人

その男は、最初から“時間に取り憑かれている”ようだった。


市場の片隅で、

壊れかけた懐中時計を振り回しながら叫ぶ。


「歯車じゃない!!

 角度だ!!

 周期だ!!」


「SINだ!!

 COSだ!!

 それで時間は“分解できる”!!」


誰も止まらない。


というより、

誰も意味が分からない。


時計職人ですら首を傾げる。


「時計は歯車の精度だろ?」

「三角関数って何に使うんだ」


男は叫び続ける。


「振り子の動きは円運動だ!!

 円運動は角度だ!!

 角度はSINとCOSだ!!」


彼の名はユウ。


元は時計修理工だった。


だがある時気づいた。


振り子の揺れは、

単純な上下ではない。


“円の投影”だと。


そこから世界が壊れた。


彼は見えてしまった。


時間が「機械の芸術」ではなく、

「数学の現象」だということを。


だが誰も聞かなかった。


だから叫んだ。


芸人として。


その日。


王クラーク・デ・トーマスが、

王都工房地区を視察していた。


護衛が止める。


「また奇声の芸人です」


王は言う。


「問題ない」


工房の外。


ユウはいつも通り叫んでいた。


「熟練職人に頼るな!!

 誤差は人間が作る!!

 式で潰せ!!」


王は立ち止まる。


「式?」


ユウは一瞬黙る。


そして地面に棒を置き、

砂に円を描いた。


「これが振り子です」


「これが角度です」


「この動きは全部、

 SINとCOSで書ける!!」


周囲の職人がざわつく。


「馬鹿な」

「時計は職人技だ」


だが王は黙って見ていた。


そして言った。


「職人依存を減らせるか」


ユウは即答した。


「減らせます!!」


「どこまで」


「誤差管理まで全部!!」


その言葉に、

王は一つ頷いた。


「検証しろ」


それだけだった。


翌日。


王都時計工房に、

新しい設計班が作られた。


ユウはそこに置かれた。


最初は誰も信じなかった。


だが彼は紙を使った。


円を分解する。


振り子を関数化する。


誤差を式で補正する。


そして初めて、

“個人の腕”ではなく

“共通設計”が生まれた。


職人が言った。


「……これ、俺いらなくなるのか?」


ユウは首を振った。


「違います」


「腕じゃなくて、

 “組み立てる人”になります」


優利恵はその報告を聞いて、

少し驚いた。


「また増えたね、数学の人」


ロイが笑う。


「今度は時間ですね」


ハルが帳簿を見ながら言う。


「全部つながってきてますね」


確かにそうだった。


測量(空間)

農業(生命)

蒸気(力)

石炭(熱)

三角関数(構造)

そして今度は

時計(時間)


王クラークは静かに言った。


「この国は、

 空間と時間を同時に設計し始めている」


その言葉は、

誰にも完全には理解されなかった。


ただ一つだけ確かなことがあった。


この国はもう、

“勘と経験の国”ではなくなっていた。


夜。


ユウは工房で、

壊れた時計を見つめていた。


誰にも聞かれなかった叫び。


だが今は違う。


紙の上に、

数式が残っている。


彼は小さく呟いた。


「……やっと、届いた」


その声はもう、

叫びではなかった。


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