村の大宴会――ようこそ、秩序あるカオスへ
平和だったはずの村で、
本日――事件が多発しました。
・庭は完璧。
・料理は神の領域。
・主催者(春海)はボロボロ。
そして――
子どもたち、湖へ全員ダイブ。
目撃者によると、
「冷たい」「危ない」「風邪ひく」
という警告はすべて無視された模様。
一方その頃――
大人たちは笑顔で微笑みながら、
小声で未来を疑い、
期限付きの優しさについて語っていた。
しかし。
事件は水面下で進行。
一人の少年が、
笑いながら、
聞いてしまった言葉。
「いつまで?」
「本当に大丈夫?」
湖は冷たい。
でも胸の奥は、もっと冷えた。
主催者・春海は気づかない。
気づかないまま叫ぶ。
「肺炎になるよーー!!」
少年は答える。
「大丈夫!!」
そして――
何も決まらないまま、
決意だけが生まれた。
本日の村は、
平和で、
にぎやかで、
優しくて、
少しだけ残酷。
以上、
秩序あるカオス現場からお伝えしました。
庭は、正直言って、とても綺麗だった。
テーブルには飾り付け。
真ん中には花。
頭上にはきらきら光るランプ。
完璧。
上品。
理想的。
――ただし。
春海だけが、
まるで
ニワトリ3羽、茂み2つ、トカゲ1匹
と全力で戦ってきたかのような姿だった。
レジーナは深くため息をつき、娘の髪を少々乱暴に整えながら言った。
「その格好で人に近づいたら、
私が森で育てたと思われるわよ」
「お母さん……でも私、森と戦ったんだもん……」
「だからよ、春海」
その頃、
おばあさん達が
巨大なお盆を抱えて次々と到着した。
料理の香りは、
もはや地域の神様が調理したレベル。
「レジーナちゃん、お肉はちゃんと休ませてるわよ〜」
「デザートも完璧!」
「春海ちゃんは?」
「生きてます。たぶん」
春海はカラカラの植物みたいな笑顔で、力なく手を振った。
やがて、客人たちが到着。
そして始まる――
社会的RPG会話。
優しい近所の人たちは、
プレゼント、お菓子、花、褒め言葉を持ってくる。
若い人たちは、
元気いっぱい、好奇心全開。
そして……
誰にも頼まれていない意見を持ってくる人たちも。
春海がお茶を注いでいると、耳に入った。
「優しい子よね〜」
「急に子ども二人も引き取るなんて、すごいわ」
「でもさ……」
「いつまで持つのかしら?」
春海は一瞬、固まった。
――でも、その前に。
テーブルの後ろにいたタケルは、
全部、聞いていた。
一言も。
残らず。
彼は動きを止め、
足をしっかり地面につけた。
胸が、きゅっと締め付けられる。
小さい頃から、ずっと。
大人は、子どもが聞いていないと思って話す。
(やっぱり……)
(やっぱり、僕たちは……)
メイはお菓子を食べながら、幸せそうで、何も気づかない。
でもタケルの視線は、静かに地面へ落ちた。
「タケル?」
春海が小さく呼んだ。
返事はなかった。
そして最悪なことに――
春海は、彼が聞いていたことに気づかなかった。
だが幸運なことに。
子どもがいた。子どもは世界を救う。
昨日までタケルを無視していた村の男の子たちが、
今日は彼の周りに集まっていた。
「ねぇ、ゲーム機ある?」
「あるよ!」
「でもタケルのはもっとすごい!」
「恐竜ゲームの全ステージ知ってるんだぞ!全部!!」
「え、家に“湖”あるってマジ!?」
タケルは小さく言った。
「……ある」
それで十分だった。
全員が一斉に、
解放された生徒のように庭の奥へダッシュ。
「ちょっと待って!!」
春海が追いかける。
「待って、待って、ダメ――!!」
遅かった。
彼らはもう湖の縁にいた。
「冷たいよ!!」
「知ってる!!!」
――と、グレムリンみたいな笑顔。
そして――
ポチャン
ポチャン ポチャン ポチャン
一人ずつ。
全員。
飛び込んだ。
春海は固まった。
「ちょ、ちょ、ちょっと――!」
走り出す。
「風が冷たいの!風邪ひくから!!お願いだから!!」
泉は当然のように撮影。
レジーナはタオル片手に、魂を狩る魔女の顔。
おばあさん達は大笑い。
そして、水の中には――
タケル。
大人じゃない。
緊張してない。
固くない。
タケルは……
笑っていた。
笑って。
子どもと。
遊んでいた。
水をかけ合い、
湖を走り回り、
世界の重さを忘れたみたいに。
春海は、立ち止まった。
完全に。
胸に手を当てた。
――温かい。
本当に、温かい。
「……子どもしてる」
春海は、泣きそうに呟いた。
隣に、クマちゃんを抱えたメイ。
「春海!タケル、幸せそう!」
大きな笑顔。
春海は喉の奥の塊を飲み込んだ。
「うん……うん……」
でも、世界は止まらない。
噂話は続く。
後ろで、また声がする。
「でもさ、いつまでかな」
「子どもは大変よ」
「まだ若いでしょ、24くらい?」
「大丈夫なのかしら」
タケルは、また聞いた。
そして今度は、
濡れた子どもたちにタオルを配りながら笑う春海を見た。
長い時間、見つめた。
怒りじゃない。
憎しみでもない。
――決意。
(僕が先にいなくならないと)
(彼女が疲れる前に)
隣で、何も知らないメイがクマちゃんを抱いている。
そして春海は。
その重大な内面ドラマから、
完全に三メートル外。
両手を上げて叫んだ。
「タケル!!肺炎になるよーー!!」
「大丈夫!!」
タケルは叫び返し、また潜った。
夜になり――
レジーナとおばあさん達が神のように料理を出し。
客は腹いっぱい。
春海は17人分働き。
みんな満足して帰った。
タケルだけが、
家の扉を少しの間、見つめていた。
(行ったら、痛い)
(残ったら……もっと痛いかも)
メイが手を握る。
「タケル?」
彼は深く息を吸った。
家を見て。
春海を見て。
その日は、何も決めなかった。
ただ――
いつか行く必要があると、決めただけ。
メイが眠ってから。
夜は、長くなりそうだった。




