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そうだ。学校に行こう

 ノルンが友達が欲しいと言い出した時、ノルンを宥めるのに苦労するラインハルト様は、事前にリサーチしておいたケーキの美味しい評判のお店にノルンを連れていきました。

 そこで美味しいケーキを食べて機嫌が良くなったノルンは、その後は終始ラインハルト様と楽しく過ごしたのでした。


 そして、遊びに出かけたガリアス帝国から帰ってきた翌日、朝の礼拝を終え一息付いた所で、ノルンはぽつりと呟きました。


 「友達欲しいなあ……」

 「今まで気にもしてなかったのに、そんなに欲しいんですか?」

 「別に気にしてなかった訳じゃないもん。前から同年代の友達欲しかったんだもん」


 私の問いにノルンは拗ねた表情でそう答えます。


 「ラインハルト様も仰ってたではないですか。ノルンには愛してくれる方と可愛がってくれる方達がいるじゃないですか」

 「それはそうだけど、それだけじゃ駄目だって思うの」

 「それはどういう意味ですか?」


 私の問いにノルンは真剣な表情で答えます。


 「ぼく、だーりんのお嫁さんになるのが決まってるでしょ」

 「ええ。それがどうかしたんですか?何か問題でも?」

 「このまま、だーりんのお嫁さんになってもいいのかなって」

 「それはどういう意味ですか?」


 ノルンの言っている意味がよくわかりません。


 「うん……。だーりんに愛されて、みんなから可愛がられるだけのぼくのまま、大人になってお嫁さんになるのはどうなんだろうって思うの。だーりんのお嫁さんになったら、いつか赤ちゃんを産んでぼく、ママになるんだよ?」

 「ええ、まあ、そうですね」

 「友達と本音で語り合った経験がない、人様と上っ面だけの人付き合いしかしてこなかったぼくが、勇者様の…。だーりんの子供を立派な人間に育てられる気がしないの。だーりんやみんなから、愛されて甘やかされて、そのまま大人になって、だーりんのお嫁さんになっていつか母親になる。それはちょっとどうなのかなって」


 驚きました。ただ単に、一緒に遊んでくれる友達が欲しいだけじゃなかったんですね……。

 ノルンも成長してるのですね。


 「なるほど。ノルンはお友達との付き合いで人として成長したいと。そういう事でしたか」

 「うん……。勇者ラインハルト様のお嫁さんに相応しい人間になりたいなって」

 「そうでしたか。私に何かお手伝い出来る事があればよかったのですが…」

 「話相手になってくれるだけでも嬉しいよリライザ。こういう事相談出来るの、おねーちゃ……つばきママだけだったし。さてと、そろそろ掃除を始めないとね」


 ノルンはそう言って話を打ち切り、大聖堂の掃除を始めました。

 それから30分ほど、ノルンが神殿の掃除をしていると、フォルシオン公爵が孫娘に会いにやってきました。


 「ノルンー。おじいちゃんだよー」

 「あ、おじーちゃん。ごきげんよう」

 「うんうん。ノルンは今日もかわいいねえ」


 初めて会ったその日から、フォルシオン公爵はノルンの事を溺愛しています。

 あれはノルンがまだ3才半の事でした。


 『ふん。それが私達に何の断りもなく作った子供か』


 気難しい事で有名な公爵が、奥様が連れてきた勘当した息子と幼い孫娘を見て、不機嫌そうにそう言います。


 『だあれ?』


 父と息子の険悪な雰囲気も3才半のノルンには、まだ理解出来ません。


 『……パパのパパ。ノルンのおじいちゃんだよ』


 父親のその言葉を聞いて、ノルンは目を輝かせました。


 『ノルのおじーちゃん♡』


 父親の手を振り払って、嬉しそうにフォルシオン公爵の元へ駆け寄っていきます。


 『おじーちゃん、おじーちゃん♡』


 父親よりも背の高い祖父を見上げながら、嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねます。


 『その……父さん……。一度だけでもいいから、ノルンを抱いてやって欲しい…』


 フォルシオン公爵は何も言わず、息子の願いに応え小さなノルンを抱き上げます。


 『わあ……♡たかいたかーい♡』


 父親に抱かれた時よりも視線が高い事に、ノルンはきゃっきゃっと無邪気に喜びました。

 大きな腕に抱かれ、安心しきった表情で嬉しそうに笑います。


 『えへー♡ノルのおじーちゃん♡』


 初めて会った祖父の首に小さな両手を回して、嬉しそうにすりすりと頬を擦り付けるノルン。


 『……ああ。ノルンだけのおじーちゃんだよ』


 妻と息子に見せた事のないでれっとした優しい表情で、優しく抱っこしているノルンの頭を撫でる公爵。

 他の孫達にだってした事のない、公爵のその態度に奥様達は非常に驚くのでした。

 初めて会ったばかりなのに、かわいいノルンに無邪気に懐かれた事が、公爵にはとても嬉しかったのです。

 いつも不機嫌そうな表情をしてるように見えるせいで、たまに会う孫達に怖がられていたから、余計に嬉しかったのでしょう。

 それ以来、公爵はノルンを溺愛しています。

 ノルンに対してはダダ甘の好々爺です。


 ノルンが聖女になったのを知った時には、どこから仕入れてきたのか、女神ミリシャル様から授かった祝福のローブの次に防御性能の高い、この世界で手に入る物の中で最高級の防具である、魔法のローブをプレゼントし、ノルンの護衛に100人もの傭兵を雇ったりしたほどです。

 そんな公爵がかわいい孫娘の元気のない様子に気付きました。


 「おや、元気がないようだが何かあったのかい?おじいちゃんに話してごらん。何かしてあげられるかもしれないよ?」


 祖父のその優しい言葉にノルンは、今一番のお願い事を口にしました。


 「おじーちゃん、あのね……ぼく、お友達が欲しいの……」

 「友達が欲しいのかい?」

 「うん。ぼく、同年代の女の子のお友達いないんだもん…」


 ノルンのお願い事を聞き、公爵は顎に手を当てながら考え込みます。


 「……それなら、もう一度学校に通ってみるのはどうだい?」

 「学校に?でも……」

 「おじいちゃんがお金を出してる新しい学校が、もうすぐこのラギアン王国に出来るんだけどね。ほら、世界がノルンと勇者様達のおかげで平和になったろう?世界中から大勢の子供達が留学してくるんだよ」


 聞けばフォルシオン公爵家が出資している、貴族の子息令嬢御用達の学校が新しく生まれ変わり、貴族の子息令嬢だけでなく、優秀であれば一般人でも入れるようになるのだと、公爵はノルンに説明します。


 「これから色んな国から大勢の生徒が集まるから、ノルンと気の合う友達も出来るかもしれないよ。ノルンがその気ならおじいちゃんが入学出来るよう手配してあげよう」

 「ホント!?ぼく行きたい!!友達作りたい!!」

 「よしよし。それじゃ早速手配しようか」

 「わあい♡おじーちゃん大好き♡」


 こうして、ノルンは再び学校に通う事を決めたのでした。


 そしてノルンが期待に胸を膨らませながら、穏やかな日々が過ぎていき、いよいよ新しい学校が出来て初登校の前日。


 「えへへ。楽しみだなあ……」


 お風呂に入って寝間着に着替えたノルンが、ベッドの上で嬉しそうに呟きます。


 「良かったですね」

 「うんっ」


 ノルンは起き上がると、両手を組んでお祈りをします。

 朝の礼拝だけでなく、夜寝る前にも礼拝を欠かしません。


 「ノルンは本当に信仰心が高いですね。毎日寝る前のお祈りを欠かしませんし。きっと女神ミリシャルの御加護がありますよ」

 「え?寝る前のお祈りはミリシャル様へのじゃないよ?」

 「えっ?」

 「寝る前のお祈りはね、最高神グラウディオス様へのお祈りだよ」


 そんな名前の神様を私は存じ上げませんが。


 「……あの、ノルン。そのような神様、私知りませんが」

 「うん。だってぼくが考えた神様だもん」


 ……はい?

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