54、賊と貴族と義賊 17
そもそも、こうなる予定ではなかった。
最初は適当に貴族を炙りだして捕らえればいい程度にしか思っていなかった。
ところがどっこい。出るわ出るわ、とても口に出しては言ってはいけないような悪事の数々。
今までこれだけのことをやっていて五体満足でレインニジアで貴族なんぞをよくやっていた。
見つかれば地獄の拷問行きの死罪だっただろうに。それもこれもやっかいな組織がかかわっていたせいでここまでややっこしくなったのだ。
国王様はその組織に関わるな、という。もちろんこっちだって関わりたくはない。願ったり叶ったりだ。
だが実際赴けば、組織と切り離して貴族捕まえるの、無理じゃね? というレベルになりつつある。
貴族をとっ捕まえたいがそれで組織に睨まれたくはない。組織に睨まれるということは、国王に睨まれると同義……どころか殺されるんじゃないだろうか。
あの国王ならありえる。自分の不利をそのままにするような人ではない。組織はどうでもいいが国王の機嫌だけは損ねてはいけない。
なので組織の者だと思われる護衛達に接触するのもアウトなのだ。
そう。私の身の安全で一番いいのは、たった一つ。
組織が関わっていたという証拠隠滅!
これしかない! そりゃ自分の命大事!
だというのに、尽くその計画が潰されていく。
主に今現在目の前にいる人物のせいで。
「なぁ、いい加減諦めろよー」
「嫌だ」
「普通、ここまでの状況になったら腹ぁくくるだろうが」
「フツウッテナンデスカ」
「うわ、棒読み。ちょっと遊んでいくだけでいいっていってるだろー」
「私は何も聞いていない」
「いやいや、強情すぎだろ」
「私は何も見ていない。何も知らない。誰にも出会わなかった。証拠隠滅を図る」
「最後本音いってんな。だーからさー、別にアンタにとって悪い話になんねーって」
「その腰に差してある剣でちょっと俺と遊んでくれりゃーいいんだって」
「お断りします」
「即答」
先程からまったく折れないお互いの主張。
ずっと繰り返してるせいでとうとうシオンはテーブルの上で寝そべりカードで遊び始めた。
レイナが落ちてきた遊技場に一人の人物がいた。
褐色肌に夕焼け色の短髪、帽子のように被られた布と吊り上がった目。この特徴もジルの手紙で伝えられていたので知っている。
三人の護衛の一人、シェーダという名の男性だ。
シェーダはこの場にレイナが来てからずっと、レイナとお互いの獲物で戦おうと言っている。
そしてレイナは全て拒否していた。
ここから出られない? その時は全ての計画は台無しになるが、屋敷ごとどうにかすれば問題ない。
仲間が心配? するわけがない。ないない。むしろ自分の身の安全優先。
じゃあ自分の命が危ない? 馬鹿野郎。お前に刃を向けられるより、国王から向けられる刃の方がヤバイに決まってるだろう。
そういう理由で誘われる言葉を全て拒否している。
だが、それでもなぜかシェーダはめげない。いくら断っても自分と戦うことを誘ってくる。
実際、強制的に切りかかれたりもしたのだ。
しかし、その全てをレイナは避けた。逃げた。え? 逃げるのが情けない? そんな考えは脳筋の奴らだけだ。
賢いものはどんな状況下でも最善の方法を考え、逃げる時は逃げる。
自分の獲物を握った時点で相手の思う壺だろう。相手との確執を作るには都合がいいはず。
ちなみにシェーダの獲物は短剣よりは大きく、長剣よりは短い長さの双剣だった。
「そこまでして嫌がるもんか? 流石にここまでされたら剣くらい握るだろうよ」
「いえ、結構です」
「どういう断り方だよ。つか、むしろ逃げ切れてるのがすげぇわ」
「褒めても何も出ないぞ」
「その揺らぎない決意もすげぇわ。脅しても切りかかっても駄目なら、本気で殺しにいったほうがいい?」
「周りを犠牲にしてでも本気で逃げる」
「本末転倒」
「さっきから似た様な会話してないで、そろそろ話を先に進めてもいいですかね?」
「お断りします!!!」
「むしろここから先どうやって話し進めるのかが気になるわ」
レイナの叫びに対して、シェーダは面白そうに笑う。
それに対して呆れたように今まで寝そべっていた……今も寝そべっているシオンが二人を見つめた。
「さっさと話を進めたいのなら遠まわしせず、直接お聞きしましょう。貴方は何が目的でしょうか?」
「お? 聞いちゃう? それ聞いちゃう?」
「いや、言わなくていい、それ聞いたら駄目な奴でしょ!?」
「駄目なやつでも聞かないと堂々巡りです。もう飽きたのでそろそろ次に移りましょう」
「飽きるとか、そういう話じゃないから! 私は嫌な予感しかしない!」
「まー俺も聞かれても答えねぇけどな」
ケラケラと笑うシェーダを睨みつけつつ、レイナはやはり拒否の姿勢を崩さない。
そう、嫌な予感がするのだ。
この目の前のシェーダという人物にレイナはどうにも違和感を感じていた。
しかしそれがなんなのかがいまいち掴めない。
その人物の雰囲気なのか、魔力なのか、それともまったく別の要因なのか。
裏がある、というのとはまた違う何か。よくわからないからこそ嫌な予感がする。
確実に古き扉の者であることは間違いないだろう。
こんな違和感ある人物が普通に住民として過ごしているわけがない。とはいえ、決定的な言葉はお互いにまだ口にはしていないが。
そんなことを思っていれば、シオンの口から溜息がつかれた。
どうも今回の仕事ではシオンが不機嫌になることが多い。珍しいことだ。
もっとも今のが不機嫌なのかどうかはわからないが、口元は笑っているが目はどことなく呆れたような感情が浮かび上がっている。
「この屋敷は貴方の力ですか?」
「そう思うか?」
これもまた適当に躱される。
たとえ別の質問を再びしたとしても同じ対応をされるだろう。
それはシオンも察したらしく、もう一度溜息がつき、そのまま口を閉じた。
「えぇ、もう終りかよ。諦め早ぇな。もっと色々聞いてくれてもいいんだぜ?」
「……何も答えないんでしょ?」
「いやー? もしかしたら答えるかもしれねぇぜ?」
シオンが口を閉ざしたことで代わりにレイナが言葉を交わす。
相変わらず適当な答えをする相手に、まともな会話は望めないと諦めるべきか。
と、その時にバチッと何かが弾ける様な音がした。
音がしただけで実際に何かがはじけ飛ぶようなことはなかったのだが、レイナはその音の発信源が何かの魔法だということには気づいた。
「……やれやれ、弾かれるとか、本当に貴方何者ですか」
「それを聞く前に「鑑定眼」を使うのも礼儀がなってねぇんじゃねぇか」
なるほど、つまり鑑定眼を使って何者かを見ようとして弾かれた音だったと。
しかし、弾かれたということは、このシェーダという男の能力はシオンの上をいくということか。
「言っておきますが、確かに能力が上ならば基本的に弾かれますが、それ以外にも故意に弾くことも可能な場合もあります。今回の場合は彼の情報にブロックがかかっていた為に弾かれたのであって、私の能力が彼より下だというわけではありません」
若干、食い気味にシオンが抗議してきた。
口に出したわけではなかったが、レイナが何を考えたのか察したらしい。
本当だろうか……というか、そもそもこの羽虫の能力ってどんだけ力があるのかすらも知らない。
戦闘なんてしているところを見たこともなければ、手助けをするのもあまりない。大体が魔道具提供だ。
……え、こいつ、本当に能力高いの?
思わず疑惑の目でシオンを見るが、シオンは特に表情を変えることもなくそのレイナの視線を受け流した。
こいつもこれはこれで十分胡散臭い奴である。
「完全にブロックされたわけではなく、いくつか情報を読み込めましたが、精々「シェーダ」という名前と身体の基本情報とかその辺ですね。ですが種族は読み取れませんでした」
「種族? 人間じゃないの?」
「さて、それはわかりませんが、その部分にブロックをかけている時点で人間である可能性は低いですね」
確かに、種族を隠すということはその種族が特殊である可能性はある。
種族によって使える能力がまた変わってくるので、それもあるかもしれない。
そう憶測を立てれば、目の前のシェーダが声を出して笑う。
「おう、人間じゃねぇってのは合ってるぜ。そうだな、ちょっとヒントやるから当ててみろよ」
笑った顔のままシェーダは片手を上げて指を鳴らす。
次の瞬間、部屋がくにゃりと歪んだ。
やはりこの屋敷は目の前の男が関わっているようだ。
と、分析するのも束の間、空間が歪んだことで一瞬の浮遊感を感じたがすぐに足元がしっかりし、視界がクリアになる。
それと同時にむわっとした熱気が全身を襲った。
先程とまったく違う光景に思わず息を飲む。
「ま、見て分かるだろうが、俺の能力だ。「陽炎」つースペルティでな。なかなか面白れぇだろ。遊技場が一瞬で火山底だ」
そう。床だった足場は岩場に変わり、崖のような左右の下の方には真っ赤に燃え滾る溶岩が広がっていた。
息を吸うだけでも肺が焼けそうに熱い。足元にある小さな小石を軽く蹴って横から崖下に落としてみるが、そのまま下に落ちて消えていったので元々あった床に幻影がかけられているわけではなさそうだ。
「本物……って思ったほうがよさそうね」
「本物も本物。実際にある活火山そのものだぜ。ただし、本当にその場所に移動したわけじゃねぇけどよ」
幻影でなく本物なら、一瞬でその場に移動したのかと思ったのだが、どうやら違うようだ。
本物なのに実際の場所に行ったわけではない。つまり「陽炎」というスペルティは……
「一度見た場所を完全に「再現」出来る能力だ。すっげぇだろ。この屋敷の部屋も同じものを何個も作り出して適当にくっ付けただけだ。作り変えるのも自由自在。空間もいくらでもいじくる事が可能なんだぜ」
見たものを再現する能力。そんなスペルティ、あっただろうか。「陽炎」という現象は知っているがスペルティ名であったか?
本や色んなものを見てきたものを頭の中で振り返ってみるが、どうにも思い当たるものはない。
ちらっと先程までシオンがいたテーブルを見ると、寝そべっていたシオンは今は飛んでおり、視線をよこしたレイナと目が合う。
シオンは首を横に振る。
なんと、シオンもスペルティに思い当たる節がないらしい。
仕方がないので一旦スペルティについては置いておくとしよう。
ヒントだといわれたが、これではヒントでもなんでもない。
種族の特定もこの際後回しとする。
今現在気にすることは、今この場にあるものは実物だということだ。
つまり、左右の崖から落ちれば溶岩の中にドボン。いたって普通の人間ならば一瞬で死ぬ。いや、溶岩に触れる前に熱気で全てが燃え上がるだろう。
レイナがいる足場は岩肌。そしてシェーダまでの距離を繋ぐような一本道。幅は二人並んで一杯というくらいだろうか。
まるで一対一のような場面。多分それを想定してだろうけども。
「さて、ヒントも出したことだし、これならウロチョロ逃げんのは不可能だわな。じゃ、そろそろ遊ぼうじゃねぇか」
そういってシェーダは双剣を構える。
確かに逃げることは不可能だ。相手に切りかかれれば対応せざるをえない状態だろう。
そうしてレイナは考える。まだ自分の剣に手をかけることはない。
ところで
覚えているだろうか。
レイナの属性と特性を。
あまり長くならないよう4000字を目処に切るようにしているのですが、話がなかなか進んでくれませんね……まだ暫くこの話にお付き合い頂けると嬉しいです。




