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某国の女騎士と仲間達の日常物語?  作者: しんり
第1章 女騎士とその仲間達
51/71

51、賊と貴族と義賊 14

 ジルからの合図があり、ネーナにより移転を開始した。

 移転は問題なく無事に辿り着く事が出来た。ネーナもこれで多少は自信をつけるだろう。付け上がっても困るが。


 さて、現在レイナ達は何もない通路に佇んでいる。

 共にいるのはシオン、ウェルバ、ネッタの三人だ。グリーンとネーナはジルが作成した移転により、決められた別の場所へと着いているはずだ。

 レイナは人気がない場所に、とジルに指定してあったのでこんな場所になったのだろう。

 本当に何もないし、人気もない。

 模様も何もない白…いや、目に優しいクリーム色くらいの壁と天井。床は暗すぎない茶色。ついでに言えば、一定間隔で付いている扉も同じ色の茶色。

 そしてその扉全てが同じ形をしていて、同じ配置の場所にある。それが真っ直ぐと続いていた。

 静まり返った場所では逆に整いすぎてて不気味だ。

 どこぞかの屋敷なら通路に何か飾ってあったりするのだろうが、そんなものもない。蝋燭や明りを灯す魔道具類もないのに通路は明るい。

 ますます不気味である。思わずそんな通路をじっと見てしまう。


「……突き当りが見えない。ということはかなりでかい建物なのか」

「どこかに階段もあるんでしょう? それなりに高い建物じゃないかしら。そんなもの、この辺にはないわよ」


 ウェルバとネッタが長く続く通路を見ながらそんなことを呟く。

 自分達が住まう街、ペスタチシアでも大きな建物は存在するが、それでもネッタは思い当たるような建物はなかったようだ。


「移転魔法を使ってますからね。ここがペスタチシアだとは限りません。まったく違う場所、もしかしたらレインニジアですらないのかもしれません」

「だが、会場の提供しているのは伯爵だろう? 伯爵がレインニジア以外でこれ程の建物を持っているとは考えにくい」

「まぁ、国外で土地を持っていたらそれはそれで問題ですがね。ですが、今はそれはどうでもいいです。さっさと私達は行動しなくてはいけません」

「それもそうね。で、貴女達はここにきてどうするつもりだったの?」

「あー、状況把握してから適当に部屋を見てまわるつもりだったわ。けど、どーしよっかなー……」


 ネッタに話を振られてレイナは少し気が抜けたような言葉を返した。

 いや、ここに来るまでは多少は気を張り詰めてはいたよ。しかし、しかしだ。


 どう考えても、扉開けたら罠でしたーという通路にしか見えないだろ、これ。


「こうも同じ扉が続いてて、まったく……本当にまったくといっていいほど人気がないと、もう、絶対何かあるって思うじゃない」

「まぁ、そりゃそうだ」

「ジルも建物内が複雑すぎて地図も描けないし、言葉で伝えるのも大変、と手紙に書いてましたね」


 ということは、この真っ直ぐな通路以外にも色々とあるのだろう。この建物。

 しかし、あれだけ結界を張り巡らせて警戒しているにも関わらず、この気配のなさ。

 何かある。絶対なにかある。


「とはいっても、ここでじっとしてられないじゃない」

「それもそーなんだけど」

「観念して進むしかありませんね。ああ、言い忘れる前にウェルバとネッタにもこれを渡しておきましょう」


 そうしてシオンがどこからともなく取り出したのは、小さなシオンが両手で抱えるほどの丸い半球体の宝石らしきもの。

 色が違うものを二人に一つずつ手渡すと、今度は別の色の半球体を二つ取り出した。赤と緑色だ。


「グリーンとネーナにもこれの片割れを渡しています。グリーンには緑、ネーナが赤です。二つの点がどちらにもあるのがわかりますか。その点が半球体が現在ある場所です。中心で光っているのが手元にあるものです。別の場所で光っているのが片割れですね。光ってる方向に歩けば片割れに近づきます。そしてこの裏の魔法陣に指をかけて魔力を込めると、片割れの半球に合図を送れるようになっています。緊急事態の時にはそれで知らせて下さいと二人には伝えてあります」


 そう、何かあればシオンが持っている半球体がチカチカと光るようになるのだ。

 今みたいに。


 今みたいに。


 ………………。


「……緊急事態には」

「片割れの半球体に」

「合図」


「そう。今みたいに光ります」


「光ってる! 現在進行形で緊急事態!!」

「みたいですね。しかも両方とは」

「いやいやいや! 何かあったってことだろ!? 助けにいかないとじゃないのか!?」

「仕方ありませんね。移動して早々に緊急事態とはグリーンもネーナも少し軟弱ではないでしょうか」

「軟弱で片付けていいのかしら!?」

「いいんです。そういうわけですので、行動が自由枠のお二人が手助けにいって上げて下さい」


 そう言うや否や、シオンはウェルバとネッタに半球体を一つずつ渡す。

 それに目を見開く二人。先程までわいわい言葉を発していた口は思わずぽかんと開けたままになる。


「いや、来た早々に別行動か……」

「ええ、来た早々に二人がピンチになったようなので」

「でも、来たばかりなのに……」

「来たばかりだろうがなんだろうが、はよ、行ってきなさいよ。グリーンはともかく、ネーナは多分本気でピンチなんじゃない? ほら、だって、まともに魔法なんて使えやしないし」

「行ってくる」

「うん、清々しいほど即答で逆に楽しいわ」


 と、レイナが言い切る前にウェルバは駆け出していた。

 本当に清々しい。

 何か言いたげだったネッタもウェルバが駆け出したことによって、口を噤みウェルバの後を追うように走り出した。

 それをレイナとシオンは黙って見送る。

 真っ直ぐな通路だが二人の姿はすぐに見えなくなり、そこでようやくレイナが口を開く。


「わざとじゃないわよね」

「わざとじゃないですよ」

「え、じゃあ本当に緊急事態なの?」

「みたいですね」

「………………じゃ、行くか」

「レイナも人のこと言えないくらいに清々しい見捨て具合ですね」

「人員は派遣したんだからいいのよ。気にして立ち止まるより、さっさと目的達成したほうが効率がいいわ」

「それもそうですね」


 実に軽いやり取りを交わしているが、緊急事態であることは本当である。

 何か作戦に支障をきたした時、自分の身に危険が及んだ時はすぐに使うように指示してある。

 ネーナもグリーンも簡単にやられるような者ではないことは知っているし、心身ともに柔ではない。

 心配していないといえば、きっと嘘になるだろう。だが、グリーンはともかくネーナは一人ではないのだ。そう簡単に敵の手に落ちることはないだろう。

 ウェルバとネッタも決して過小評価はしていない。義賊達を引っ張る者としてそれだけの実力を二人は持っている。

 そういったことも含めて、今現在別行動をしている仲間達についてはあまり深く考えないことにした。

 そして改めてこれから自分がどうするかを考える。


「さて、では隠す必要もなくなったので改めて伺いますが、古き扉との繋がりになる証拠とは何を考えていますか?」

「この場所を聞くまではとりあえず手当たり次第って思ってたけど、少し考え直したわ」

「ほぉ」

「まずはこの建物について調べる」

「なぜ?」

「どう見たって普通の建物じゃないでしょ。魔法系かベレルの高価魔道具だと推測するわ」

「遠からず近からず」

「て! 何か知ってるんだったら教えなさいよ!! ……いや、いい。やっぱいいわ。何も言うな」


 いい笑顔のまま無言で手で金のマークを作られたので、即先程の発言を下げた。

 こいつの金関連は必要経費で落とされた試しがない。本当に必要な情報でない限り、聞かないのが無難だ。


 レイナの予想では、この建物の場所は不明だが少なくとも国内。そして建物自体は本来存在しない建物だろうと判断した。

 事前に建物内部についてはジルから手紙越しで聞いている。

 ジルは不思議な建物だと明記していた。あれこれ他にも書かれていたが、要約すると、生きた迷路のようだということが理解できた。

 部屋の作りは別として、廊下、階段の位置、二階や地下など、全てが扉が同じで一定間隔で部屋があり、クリーム色の壁には汚れや染みは一切ない。

 装飾品もなければ窓もないから景色もわからない。

 閉鎖的空間であり、色んな感覚を惑わす。

 ただ、通路だけは曲がっていたり、緩くカーブを描いていたりと変化はあった。階段の上り下りも、階段の個数は決まっていてどの角度で見ても、全ての階段が寸分の狂いもなくまったく同じものだという。

 その作りから、今、自分が何階のどの場所にいるのかがわかりにくいという。目印もないから地図にして書き起こすのも難しい。

 しかも、通路だけでなく、たまに部屋の中を通って別の場所に行くこともあったそうだ。そうなればますます地形を把握するのは難しい。

 階によって広さも違っているようで、今みたいに只管まっすぐな通路があり突き当りが見えないことから、かなり広いと感じるが、別の階にいけば数個しか部屋が存在しなかったりというのもあるらしい。そこが何階なのかはわからない。

 実際に形が常に変わるわけではないらしいので、「生きた」というのは間違っているかもしれないが、同じ風景なのに同じ場所と思わせない作りが、見るたびに違っている気がするから「生きた迷路」のようだ、という言葉になった。


 そんな建物が普通に存在するのか。


 通常の建物の設計上、無理だろう。

 ならば他の可能性としてあげらるのが、魔法で作り上げている可能性。

 不可能ではない。だが、それを作り上げられる魔法使いの技量は相当なものであり、なおかつかなりの魔力を消費する。

 現在、これだけの物が作れる魔法使いなど限られているだろう。


「誰もが知っている人物でいえば、四大賢者なら作れるでしょうね」

「そこまで難しいものなの?」

「作るだけならそう難しくはないんですが、維持が無理ですね」

「ああ、魔力の量」

「平坦な空間、一階部分だけならそれなりの技術を持った者なら作成、維持は可能でしょう。しかし、これだけの階数は難しいですね。魔力も相当使います。普通の一般人なら即死レベルの魔力量です」

「そ、そう……というかその例え、いまいちわかんないわよ」


 そもそも一般人がどれくらいの魔力量を持っているのかなんて、普通は知らない。

 それはさておき、魔法以外の可能性。

 魔道具の存在だ。


「ベレルの魔道具技師なら作成可能でしょう」

「え? 出来ちゃうの? 四大賢者レベルのこれが!?」

「要は魔力量の問題でしたから、そこをカバー出来ればいいんですよ」

「そもそも、そんな魔力を貯蓄しておく道具なんてあるわけ?」

「あるといえばありますが……まぁ、貴重品ですよね。国に掛け合わないと手に入らないと思いますよ」

「手に入れる難易度が一気に上がった!」

「普通の内装を変える程度の建物の変更をする魔道具ならベレルでは普及しています。ただし、ベレル以外での持ち出しは現在は禁止ですが」

「ああ、国の申請が出来てないのね」

「はい。様々な魔道具がありますが申請が通らなくて、ベレルでしか使用出来ない魔道具というのがごまんとありますからね。内装工事程度で禁止なのですから、これ程の物を作り上げる魔道具なんて存在すら表に出してはならないでしょう」

「ということは、魔道具の可能性はなし、かぁ」

「そういうことですね」

「普通の建物でないことは確かでしょ。けど、魔法でも魔道具でもない、となると」


 他に何が考えられるのか。

 そう、改めて考えた時、それを遮るようにシオンが声を掛けてきた。


「で、なぜ建物に着目したのですか?」

「そりゃ、これを作ってるのが古き扉の奴らだと思ってるからよ」

「ああ、今更ですけど完全に古き扉が関わってると断言する方向で?」

「いや、無理でしょ、否定できないでしょ、たかが伯爵がここまで出来ないでしょーよ!」


 最後の方は半ばやけくそのように叫んだ。


 そもそもいくら自分の領地とはいえ、やってる事がでかすぎる。

 人身売買の内容を聞いた時点で完全に伯爵として出来る範囲を超えていると思っていた。

 その上で三人の護衛。どう考えても怪しい。怪しすぎる。

 だがしかし、微かな希望を抱いておきたかったのだ。きっと気のせい。古き扉などいなかった。


 うん、無茶な願いだった。知ってた。でも知りたくなかった。


「裏社会を陣取ってるような奴等が関わってればこれくらい出来るわ。そりゃ、いくらでも隠蔽できるわ。ただの貴族がここまで手の込んだこと考えるわけないでしょ。目の前の利益を狡賢く、長く続ける方法くらいしか頭回らないわよ。本格的に裏に足を突っ込むことしないでしょ。どう考えたって裏のやつが手を貸してるって思うでしょ!」

「て、いう気持ちを今まで気のせいだと思いたかったので、絶対口にしなかった、と」

「そうよ! そうよ! どう考えても関わったら面倒くさい案件じゃない! ただの貴族捕獲程度で終わらせたかったわよ!」

「むしろ、古き扉が関わっていた証拠見つけたら、その証拠燃やして「何も見なかった何もなかった」ってことで、貴族捕まえて終りにするつもりだったとか」

「………………」

「うわー、サイテー」

「うっさいわ!! アンタに最低なんて言われたくないわ! どうせ似たような考えしてたんだろうが! 大体、国王様だって私に関わるなって言ってんだから、証拠隠滅くらいしたっていいでしょうが!」

「それはどうでしょう。関わらないほうが確かに穏便に済みますが、交渉有利な証拠を見つけたら国王も話は別なんじゃないでしょうか。それを勝手に燃やしてなくしてしまったら……」

「………………」




「パシリじゃなくて、今度こそ国王専属奴隷ですね」

「いやぁぁぁぁぁぁ!!!! 私の平穏はどこぉぉぉぉ!!!!」




 敵地だということを忘れて、その場でレイナは崩れ落ちた。


 古き扉とかよりも何よりも、国王が最大の敵だった……






 そんなことよりも、そろそろ現実を見ることにしよう。

 伯爵に古き扉が関わっていることは確定ということで話は進める。

 その上で今後の行動を考えることになる。


「護衛三人は、扉側だと見るべきね。会いたくないわ」

「建物に関係しているのもその三人だと見ていいでしょう。出会えば証拠になりますよ」

「生け捕りにしろってか。無茶言うな。生きた証拠はマジでいらない」

「我侭ですね。ですが、伯爵と関わっていたり、人身売買に関する何らかの物は直接持っていると思いますがね。捕まえて直接聞いたほうが早いですよ」

「会いたくない……会いたくない……」

「いい加減現実見てください。では、暫くの目的は三人の護衛探しですね」

「くっ……嫌だけど、それしかないわね……嫌だけど」


 何やらぶつぶつとレイナは呟くが、一体なぜそこまで嫌なのだろう、とシオンは首を傾げてしまう。

 確かに古き扉(レトロフロンテ)は厄介な存在だ。出来る限り関わらないほうがいい。

 だが、レイナの立場上、関わってしまうのは仕方がない。割り切るのが一番だ。

 しかし、このレイナの嫌がりよう、それだけではないのかもしれない。

 過去に古き扉(レトロフロンテ)に関わって何かあったのだろうか?


 と、思いを馳せるが、今はそんなことはどうでもいい。

 三人の護衛を探すことに目的を切り替えて、シオンはその辺の部屋を詮索することをレイナに薦めた。

 渋々レイナは一つの部屋の前に来た。

 まったく同じ扉の部屋がいくつもあるのだ。罠だろうがなんだろうが、とりあえずどこかに入らなくては始まらない。


 こうなったら腹をくくって、罠でもなんでも受け止めてやろうじゃないか!


 そんな気持ちで扉を開ける。




 扉が消えた。


「は?」


 ついでに床も消えた。


「え!?」


 地下へ誘う斜めの床が、暗闇の中に続いている。

 ようこそ、罠の中へ。




「いや、確かに腹はくくったけどぉぉぉ!? いきなりかよぉぉぉ!!」




 そんなレイナの叫びはどんどん滑り落ちて行くため、すぐに小さくなった。

 シオンはそんなレイナを追いかける。飛んでいるから穴が突如出来たところで関係がないのだ。周りをしっかり確認しながら、地下へと向かった。


 暫く滑り台のような床の通路が続いて、明るくなって来たと思えば滑ってきた勢いと共にレイナは開けた空間へと投げ出された。

 着地場所も計算されていたかのようにソファの上。

 そのまま立って着地する予定だったレイナは、場所がソファの上だった為にまるで礼儀正しく座るかのようにやたら綺麗な姿勢での着地となった。

 そして周りの景色に目を見開く。


「……遊技場?」


 煌びやかな装飾に舞台、様々な遊びを楽しむ台、酒を提供するカウンター、椅子やソファも置かれている広い広間。

 だがしかし、人気はない。しぃんと静まり返るその場所は空気も冷え切っていた。

 人の気配はないが、空気は肌に僅かに焼け付く感触がする。

 気配はないが、何かいる。




「ようこそ。俺の遊び場へ! ずっと待ってたんだぜ」




 その声は、誰もいなかった目の前の空間から聞こえてきた。


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