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某国の女騎士と仲間達の日常物語?  作者: しんり
第1章 女騎士とその仲間達
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50、賊と貴族と義賊 13

 誤算が出たのは会場についてからだった。

 様々な移転魔法をつかい、一つの部屋に辿り着き、会場の説明を受けた。

 そこで初めてこの会場でどのような取引が行われているのかを知ったのだ。

 顔に笑みを乗せているが、多分横にいる女性は冷や汗ものだろう。


「ですから安心してご自身の欲しいものを選んでください。手に入るかどうかは運次第ですが」


 伯爵が綺麗な笑顔で告げる。まったく歪みのない笑顔は自分の自信のゆるぎなさを表しているようだ。

 さて、どうしたものか……


「ふふ、確かに安心もしますが、ドキドキとした普段感じない興奮も味わえますのね。何せ誰がどれを欲しているのかまったくわからないのですから」


 顔全部を覆う仮面をつけて、尚手にした扇を広げ口元を隠す隣にいる女性。

 その仮面の下では眉間に皺がよっていることが容易に想像できる。


 彼女の役目はこの会場に参加している人物達を把握すること。

 可能であればここで相手が手に入れた品も把握することだ。


 仮面で顔を隠している程度なら人物の把握なんてどうにかなる、というのが彼女談だ。

 そういう何かの能力を持っているらしい。詳しく聞こうとしたら笑顔だけ返されたので追及はしなかった。あれは追及してはいけないことだ。

 しかし、それの人物把握が困難だと知る。


「扱っているものが独特ですからね。お互いの情報は極力少なくしたいと思いまして。このような方法をとらせて頂きました」

「わたくし、オークションのような派手なものをイメージしてました」

「皆さんそう言われますよ。ですが、このやり方に慣れてくると此方の方が最後まで楽しめると好評でして」


 どこがだ。

 そんな声が左右から聞こえるようだった。実際はそんな声は出ていない。纏っている空気も微塵も違和感はない。

 ただ、これまでの流れでそう思っているだろうなとは予想がつく。

 会話を続けるのは女性だけ。もう一人いる男性は先程からずっと黙っている。そうするように伝えたからなのだけど、彼も仮面をつけているから表情はわからない。

 そして当然自分も仮面をつけている。体の特徴である尻尾は伯爵が用意した魔道具によって消している。

 元々獣人なので頑張れば尻尾くらい消すことは可能なのだが、わざわざ用意してくれたようなので下手に拒否はせずに、そのまま受け入れた。

 一応調べたが特に怪しい術が掛かっているわけでもなかった。

 その為、今の姿は人間とそう変わらない。仮面をつけているからまずもって種族の判別は完全に不可能だろう。

 そんなことを考えつつ、女性と伯爵の進みつつある会話に耳を傾けた。


「競り落とすにしても、まず他人の提示した金額はわからない。欲しい商品に自分が欲しい分だけの金額を書き込み、その商品の箱にいれるだけ。その後、時間がきたら一番金額が高かった相手に商品を売り渡す。そしてそれは当人にしかわからない。それまで皆、別の部屋で好きに過ごしている……ということですね」

「ええ、商品も本物はご用意していません。情報と一部だけの展示となっています。気になった物があり実物が見たいときだけ係りのものにお声がけ下さい」

「わかりました。部屋は……大部屋ではないんですね」

「いくつかに分けさせていただいてます。一つの商品に大人数で囲んでしまわないようにという配慮ですね。それぞれの部屋ごとに鑑賞時間が決まっています。一つの部屋に大体5人。時間になるまでは好きに過ごしていただいて構いません。飽きないように様々なものをご用意しておりますので、十分楽しめると思いますよ」

「はい、楽しみにしております」


 確認するように説明された内容をもう一度口に出して女性は頷く。

 内心、余計なことを、と思っているのだろう。扇を握っている手の親指が扇の骨の部分をへこませている。伯爵からは見えない位置なので後ろにいる自分だけが見えている状態だ。


 そう、人身売買の会場でのやり取りはオークション形式ではなかった。

 いや、オークションではあるがそのやり取りは実に静かなものだ。

 まず、商品は情報の開示しかしない。商品の一部というのは血液のことだ。

 血液にはその人物の魔力がふんだんに含まれている。その人物がどれだけ魔力を持っているかは、その血液をみるだけでわかる者にはわかるようになっている。

 その血液と共に宝石と一枚の紙がひとつ置かれる。

 宝石の価値が売りに出される人物の希少価値を表す。

 紙には情報が描かれる。名前に容姿、特性に属性、スペルティ、職業など様々なものを事細かに描かれている。

 その三つを見て、欲しいと思ったら主催者側が用意した特別な紙に金額を書いてその商品と一緒に置かれている魔法陣の上に置く。

 するとその紙は商品を管理している場所へと届けられる、らしい。

 全員が見終わったら高額で購入した者のみ連絡を受けて、別室で商品引渡しとのことだ。


 待機している部屋は数人しかいないが、その何倍以上も大きな広さの部屋だ。

 退屈させない為にテーブルカードゲームや小さなステージでの演奏も付いていて、アルコールや食事を提供するカウンターもあれば様々な書物まで置いてある。

 寛ぐ為のソファもいくつもあり、本当に各々が自由に飽きることなく過ごせるようになっていた。

 広い為、共に部屋にいる相手もそう気にならない。

 一体こんな場所、どうやって用意したのやら。


 結界をはる為に事前に会場に足を運んで、隅々まで見てはいたが、それでもこの建物の作りは不思議なものだった。


 脳内で地図を描きながら歩いていたが、それでも途中で首を傾げてしまうような作り。

 どうにか穴を作ったり、色々細工はしたけど、手を出せるのはそこまでだった。

 建物そのものには関わりをもてなかった。少しでもいじればあの護衛魔法使いが感づいただろう。

 あの魔法使いは底が知れない。顔も声もわからなければ、実力もわからない。

 実際魔法を使っているところを見たのは、今回の結界をはっているところだけだ。

 後は彼の仲間だと思われる者の話を聞いただけしかない。

 その魔法使いが、今の伯爵の護衛として側にいる。

 結界に何かあればいち早くわかるのは彼だからだろう。伯爵の後ろにぴったりとついて離れない。

 他の二人もここに来る前から姿を見ていない。


 どうも気になる。


 勘、だけども、自分のソレはよくあたる。

 これはこのまま素直にいかないだろう。

 それでもやらなくてはならない。





 この部屋に来て伯爵と護衛はすぐにどこかへといった。

 次の客を相手にしているのだろう。オレは今回は自分が招いた客を相手をするよう仰せつかっている為、部屋に残っている。

 この部屋にいる人も入れ替わり立ち代りに呼ばれ商品を吟味しているようだ。

 そうしてオレが招待した客の番になった。


「それではご案内致します」

「ええ、宜しくお願いしますね」

「じゃあ、オレとセイルスは別室で待っているよ」

「はい。それでは失礼します」


 そういって彼女は案内係と共に別の場所へと向かった。

 元々オークションに興味があったのは彼女だけだ。……という設定だったので、こうなった。

 オレとまだ一言も喋らない彼は別の場所へと向かう。

 本来の招待客ならこうして部屋から出て別行動は厳禁だ。

 が、事前にオレと彼は別の部屋に移ることを伝えてある為、特に咎められる事はない。

 そうして向かったのは似たような扉の別の部屋。

 その扉をあければ、応接間のような部屋に二人の人物がいる。


「やぁ、ジルにセイルスさん。此方へどうぞ」


 にこやかに笑ってクレバス伯爵が対面側のソファへと勧める。

 伯爵の後ろには護衛魔法使い。

 オレと彼は遠慮なくソファへと座る。肌がピリピリするのは、この空気のせいだけではないだろう。

 まいったな。先手を打たれてしまったようだ。


「早かったですね。てっきりオレ達の方が先に部屋について待つことになるかと思ってましたが」

「はは。今日は然程客がいなくてね。話もそう時間がかからなかったのだよ」

「そうだったんですね。……では、彼女が戻ってくる前にさっさと済ませましょうか」

「そうだな。頼む」


 そうしてオレは一枚の紙を取り出す。


 隷属の契約書。


 本来はある一定の制限を受けてのみ使用される魔道具。

 国の役人のみが所持を認められるものだ。

 当然、こんなものがここにあってはいけない代物。

 オレはそれを伯爵へと手渡した。


「……ふむ、間違いない。本物だな。内容もしっかり書き加えられている」

「当然です。その辺はしっかりさせてますから」

「君は本当に素晴らしいツテを持っているようだね。実に羨ましいよ。しかし、これにサイン出来るのかね。彼は」

「術はそう深くかけていませんから、細かい動作も出来ますよ。心配なら後ろの彼に確認してもらうといいでしょう」


 そういってオレは隣に座る彼の仮面をとる。

 仮面をとった彼に表情はない。視線はどこか遠くを見ているかのように定まっていない。

 そして座った状態からまったく動かない。

 現在、彼には傀儡の術をかけている。ちなみに光特性の魔法だ。残念ながらオレは光特性じゃない。

 今回は少し特殊なやり方で彼にかけている。むろん、そのやり方は誰にも教えていない。

 そのことで怪しまれるかと思ったが、魔道具との組み合わせ技だと嘘を伝えたところ、どうやらそれを信じたらしい。

 実際、彼らの前で魔道具との組み合わせ技は何度か披露している。


 仮面をとり、状態を把握しつつ何かを探るように伯爵の後ろに控える魔法使いは彼を上から下まで眺める。

 それから一つ頷く。

 その様子をみた伯爵が、楽しそうに口角を上げた。どうやら納得したらしい。

 オレは内心ほっとする。


 シオンさんが用意した餌と罠。


 餌はセイルスさんだ。

 本物の精霊(というのをシオンさんからキチンと説明を貰った)であるセイルスさんを使って、伯爵に悪事の動かぬ証拠を作らせる。

 その為にはその片棒を担がなくてはならないのだが、それはもう捜査ということで既にとある場所に報告済みだ。

 その悪事というのが、今目の前に出した隷属の契約書。

 これにサインすれば動かぬ証拠の出来上がりだ。後は現場を押さえれば完璧だが……どうやらそれは無理そうだ。

 最悪、この証拠さえ手に入ればいいだろう。


 今回、伯爵にオレが勧めたのは精霊の性質と魔力のことだ。

 精霊としてオークションにかけるよりは、自分の手元で飼っていたほうが格段にいい。精霊ほど便利なものはない。

 あと多少、下卑た物言いで興味を惹かせた。精霊は大体が見た目が美しいものが多いので失礼だとは思いつつも、利用はさせてもらった。

 表でどんだけ温和で優しそうな顔をしてても、裏でこれだけのことをしているオッサンだ。そのくらいの物言いのほうがいいときがある。

 色欲が皆無というわけではないだろう。裏と表の人の関係も調べてみればやはりそれらしいものはあった。

 それ以上に金に対しての執着と人を物としか見ていない部分の方が強かったが。

 伯爵は精霊を手に入れたいという欲は十分に刺激することは出来たようだ。


 オークションの会場で契約を結ぶのはここが厳重な管理化でもあり、他の客にまぎれて何かあった場合でも揉み消す事が出来るからだ。

 もちろんそうさせるつもりはないが。

 この用意した契約書も疑われないように本物でもあるし、細工はしていない。

 サインを書けばセイルスさんは伯爵の隷属、奴隷ともいえるものになる。破棄はサインした者のみが有効だ。


 二度目になるが、もちろんそんなことはさせないが。

 契約書には何もしていない。けど、別の場所はいくつか対策をとらせてもらった。

 だが、すぐにそれがバレてもいけない。契約を結んで暫くはセイルスさんは伯爵に従って貰う事になる。

 罠は……あれは罠というか……まぁ、オレの発案じゃないから、いい、かな?


 さて、舞台は揃った。

 後は結末を用意するだけ。


 けど。


「実にいい仕事だった」


 ペンを持ち、そう応えたのは伯爵。

 どうやらオレの勘は当たったらしい。


「惜しいな。その魔力に知識。私はなかなか強欲でね。欲しいものはひとつではないのだよ」


 咄嗟に詠唱を口にする、が。

 その言葉に魔力が乗ることはなかった。





「っ!」


「ベアゼル。予定通り彼を捕捉したまえ」





 護衛魔法使いが詠唱を口に乗せるとそれは発動した。

 オレの魔力は一向に体を巡ることはなかった。

 結界の制限にオレはひっかからない。結界をはった張本人だからだ。それなのに魔法を発動する事が出来ない。

 なぜ。


 ── そうか。あの魔道具か。


「そう。あの魔道具だよ。人化させる魔道具だが、ベアゼルが魔力制御の術も編みこんでいてね。君が魔道具に細工をするのを見せてくれたおかげで、ベアゼルも出来るようになったんだ。礼をいおう」


 見ただけで覚えたというのか、アレを。

 どういう理屈だ。有り得ない。


「実に完璧だったよ。しかし、こちらも優秀な人材がいてね。彼らがいなければ私は騙されていたであろうな。……さて、君が用意した契約書はきちんと有効活用させてもらうよ」


 ぐっと体が重くなる。それと同時に視界が揺らいだ。


「それとは別にもう一枚こちらで用意させてもらった。もちろん、君の分だ」


 なるほど。どうやら自分のことを伯爵に売り込みすぎたらしい。


「素直にサインを書くのは難しいだろうから、今しばらく別所でじっくり考えたまえ。時間を掛けたほうがサインは書きやすいだろう」


 傀儡の術か。いや、少し違う。だが、徐々に体が動かなくなっているのは、そういう術をかけられているからだろう。

 どうやらオレはここで退場らしい。




「では、また後程。優秀な人材に会えて私は嬉しいよ」




 その言葉を最後にオレはその場から飛ばされた。

 虚ろになりつつある意識の中、隠しもせずに溜息をついた。




 誤算が出た。勘もあたった。

 だが、この程度なら多分どうにかなった。なるはずだった。


 誤算だったのは、あの魔法使いの質の高さだ。


 認めよう。ベアゼルと呼ばれた魔法使いはここにいる誰よりも実力が上だ。

 魔法使いとしてならオレもそれなりだが、あいつはそれ以上だったということだ。

 今ここで抵抗するのは無駄だろう。素直に退場しようじゃないか。

 けど、困るのはきっと、あの二人だ。



 ごめん、でも、頑張って。



 そこでオレの意識は途切れた。



少しだけ追記しました。

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