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某国の女騎士と仲間達の日常物語?  作者: しんり
第1章 女騎士とその仲間達
49/71

49、賊と貴族と義賊 12


「はーい、最終確認しまーす。

 ジル、セイルス、ユミは貴族側で別行動。時間がきたらそれぞれ行動に移りまーす。

 グリーン、ネーナ、ウェルバ、ネッタ、シオン、私は別経由で会場入り。入ったら全員別行動。

 グリーンは売買される予定の人物達確保。接触はしない。貴族側がある程度状況が進行してからの解放。

 ネーナはジル、セイルスの補佐。セイルスが餌でジルが罠だけど、失敗したときの為の証拠確保と不意打ち狙いの叩き役。

 私とシオンは会場内証拠探し。ただしこちらは期待しないこと。会場に証拠があるかどうかも不明だからね。

 ウェルバとネッタは遊撃班。誰のところにでもついていって構わないわ。そこは義賊側の事情を優先していい。

 ユミは会場参加者の把握と確保。ついでなので全員とっ捕まえます。なのでユミは会場内に残るように指示してありまーす。

 はい、質問あるひとー?」



 ないでーす。と、レイナにつられてネーナがゆるい返しをする。

 ふざけたような話し方だが、ここにいる全員の顔は真面目そのもの。決して気持ちが緩んでいるわけではない。

 極度の緊張は逆に失敗を招く。ある程度、力は抜いておきたいのだ。

 これでも本物の騎士なのだから見極めは出来る。

 まわりもそれに気づいていて合わせているのだ。実際ネーナは軽い返事をしたものの、その手は硬く握り締められたままだ。

 まぁ、ここに来る間にシオンに散々脅されてきたのでそれもあるのだろう。

 当の本人だけはいつも通り何も変わらない笑顔を浮かべて、レイナの横で浮かんで皆を眺めているが。





 ここは明りのない夜の街外れの街道。の、外れ。

 街道にいては誰かに見つかる恐れがあるので少しそれて明りが届かない場所まで赴いている。

 この場にいるのは先程名前をあげた人物のみで、他の義賊達はいない。今は別行動となっている。


 本日が作戦実行日。例の人身売買が行われる日だ。


 こうして人気と明りがない場所まで来たのは、これから行動を開始するから。

 今は先程もレイナが言ったとおりの最終確認。

 ウェルバとネッタに役目を与えなかったのは伝えたとおり、義賊側の事情を優先する為だ。

 レイナ達はあくまで国側として動いている。そこに義賊達を強制的に手伝わせるわけにはいかない。

 だが先程の確認を聞いてウェルバが口を開いた。


「誰についてもいいというのなら、俺とネッタはアンタ(レーチェ)についていってもいいか?」


「え? ネーナじゃないのか!?」

「ネーナじゃなくていいの?」

「ネーナの側から離れないと思ってました」


「なんでだよ!!?」


 そりゃ普段のアンタの行動見てればねぇ…… というのがネッタ談。

 むしろそこで心底不思議に問い返されるこちらのほうが不思議でしょうがない。


 まだ無自覚なのかこいつ……


「……ええっと、レーチェと共に行動でよろしいのですか?」

「ああ」

「私は出来れば遠慮したいんだけど」

「貴女、どこでもいいっていったわよね!?」

「そこに私は含まれていない!」

「なんでよ!」


 むしろなんで義賊がついてくるんだ! と言い返したい。

 しかしそこで逆に自分のことを掘り下げられても困る。

 レイナは出来れば単独……ではないが、事情を知るシオンとだけ行動をしておきたかった。


 なにせ証拠は証拠でも、"古き扉(レトロフロンテ)"の証拠を探しにいくのだから。


 当然、ウェルバ達義賊はもちろん、グリーン達もそのことは知らない。知っているのは"古き扉(レトロフロンテ)"を知っているシオンだけだ。

 出来れば他の者にその存在は知られたくない。主に国の事情的な意味で。

 逆に今回の件で古き扉(レトロフロンテ)が関わっていた場合、レイナは今回の現場を押さえるだけでそれ以降は関わっているだろう貴族に手出しはしたくはない。


 が、それはそれとして。

 もし今回関わっていて、その関わっていた証拠が手に入ればこちらとしてはチャンスでもある。

 何せ人身売買は元より国の禁止案件。そしてなおかつ行っている事が魂の冒涜関連となれば色んなところが黙っていない。

 女神の塔然り。霊王然り。

 そんな大物を相手に古き扉(レトロフロンテ)という人の集まりが立ち向かえるはずもなく。

 つまり、今回の件の証拠を手に入れれば古き扉(レトロフロンテ)に対して我が国が上位に立てる可能性があるのだ。

 今後発生するかもしれない取引を優位に持ち運べるのに打ってつけ。


 その為、国としてはその証拠が非常に欲しい所ではある。


 そんなわけで、レイナは単独別行動して証拠探しとなったのだ。

 どちらにしろ重役を担うのは別の人物なので曖昧な理由でも特に追及されず動けるようになったが。


 さて、話は戻って。

 なぜウェルバ達はレイナについて来たいのか。


「奴らには三人の護衛がいるのだろう」

「そうらしいわね」


 どうやらウェルバの目的はその護衛達のようだ。


「ジルの手紙によれば、三人の中のひとりは魔法使いらしいな。特に今回の件でも結界をはるのに重要な役割をしていると聞く」

「ああ、そうね。一時はどうなるかと思ったけど、どうにかある程度は融通が利いたみたいでよかったわ」

「そうだな。いや、結界の件に関してはそれでいいんだが……俺はその魔法使いに用がある」

「え? なんで?」

「ある事が……聞きたくて。すまないが今はまだ言えない」

「ふーん……ちなみにそれって私達に関係あること?」

「いや、ない。そこは信用してもらっていい。信用できないなら見張りをつけてもいい」

「別にそこまではいいわよ。そんな人員いないし。でも私と一緒に行動したところで、その魔法使いに会えるとは限らないわよ」

「わかっている。だが見た限り今回の分担で一番色んな場所に足を延ばすのはアンタだと思った」

「……まぁ、そうだけど……」

「なら一番可能性がある人物と共にいきたい」


 えー……やだなー……

 しかし、誰についていってもいいといった手前、断りにくい。先程のネッタとのやりとりで既に一度言っている分、余計にだ。

 さて、どうするか。


「まぁ、構いませんよ。ではウェルバとネッタはレーチェと共に行動でよろしいですね? もちろん私も共に行くことになりますが」


 返事に言いあぐねていると、代わりにシオンがさらりと返事を返す。

 思わず、ばっと首をまわしてシオンを凝視するレイナ。


 いや、困るんだけど!?


 物質的証拠がなければ意味ありませんし、それが見つかったところで見せなければいいだけの話です。


 そう上手くいくとでも?


 強制的にそうさせます。


 そんな会話を視線だけで交わす。多分交わした。最後がとてつもなく不穏な気配だったがレイナは無視をした。

 気のせいだ気のせい。

 特に他の反論がなかったので、レイナはそれを黙認する。

 ウェルバとネッタはレイナと行動を共にすることとなった。







「それで? 件の結界は大丈夫なの?」

「はい。それはご安心下さい。予定通りジルが介入してますので用意した物を持っていれば問題なく侵入できます」


 そうしてシオンが取り出したのは一枚の魔術式が書かれている紙。


 今回の取引会場へ赴くにあたって、一番最初の障害は会場に辿り着き侵入することだった。

 会場は場所を提供している貴族、クレバス伯爵が認めた相手でなければ入ることは出来ない。

 入る手順も決まっていて、幾重にも連なった移転魔法と魔道具を駆使して会場入りする。一つでも手順を間違えるとまったく別の場所へと飛ばされるそうだ。

 会場が毎度違うように、その手順も毎度違う。なので一度使った経路は二度と使えないようになっていた。

 その手順を踏まえることでようやく会場入りが出来るが、その会場も様々な結界が何十にも張り巡らされている。


 まずは目眩ましの幻術。正確には認識障害を引き起こす結界がはられている。

 外からでは絶対に見つけることは出来ないし、入ることも当然出来ない。

 先程の手順でしか入る事が出来ない上に、中からでは会場がどこにあるのかも把握は出来ないようになっている。


 そして中にいるものを感知する機能を備えた結界。もはやこれは結界といっていいのかどうかも怪しいが、その結界をはることで感知を可能にしているのだから、それも結界のひとつなのだろう。

 その結界の中に入れば誰がどこにいるのかを常に把握されてしまう。


 さらに魔力封じの結界。ここまでくればもう変態の域に達するレベルの内容だ。その名の通り魔力を封じられる。

 結界をはった本人しか魔法は使えなくなる。


 どれもこれも高度な技術を必要とする結界で、それが幾重も重なって展開されているのだ。

 もはやその技術を知っている者からしたら吐き気すら覚える程の所業。レベルの高さが限界突破をしている。

 そんな結界がはられている中を何も対策せずに入れば、即捕まるのは目に見えている。

 わざわざ自分から罠にかかりにいくようなものだ。

 そんなわけで対策を講じた。


 この結界の対策にはジルが重要な役割をする。

 伯爵の信用を得る為にしていたのもこの為。

 会場に展開されている結界をはる役割をジルが担う為だ。

 技術力高い魔法使いで信用を得られれば次の会場の結界をはることを任せられる。

 ジルはそこに介入し、”穴”を空ける予定だった。

 その穴を使って会場に侵入する。そういう流れだ。


 その作戦は大体は成功したといえるだろう。

 実際、今回の結界をはることにジルは携わっている。

 しかし、残念ながらジル一人で担ったわけではない。


「一応、いくつか別の魔道具も持ってきていますが、出来ればこの紙ひとつでやり過ごして下さい。少しでも感知されれば、他の魔法使い……それこそ先程ウェルバがいっていた護衛の魔法使いに感づかれます」


 そう。今回の結界をはっているのはジルと、護衛の魔法使いだ。

 なので何かミスをすればそちらにも存在が知られてしまい、伯爵にもバレてしまうということだ。


 ジルの協力で穴をあけることは出来ても、それ以外はどうにも出来なかった。

 その為にシオンが用意した紙が必要になる。

 身代わりの札、守護札の魔道具。

 何かあれば一度だけ身代わりになるという札だが、今回は特別にということでシオンが「精霊の加護」をつけている。

 その加護のおかげで感知無効と魔力封じ無効を可能にした。


「しかし、あくまで加護です。この札を絶対になくさないでください。いえ、なくすだけではなく「汚す」のも「切れ」たりするのも駄目です。少しでも破損すればその場で加護がなくなりますので、いいですか。絶対に、この札を、死守して、下さい」


 変わらぬ笑った表情だったが、シオンは最後の方は区切って強調して言い切った。

 つまり、この札に何かあればそこで全てが終了するということだ。

 全員が必死に頷く。

 それからしっかりとそれぞれが体の一部にその札をしっかりと貼り付けた。


「これで準備はよさそうね。あとは時間を見て移動、ね」

「は、はい。場所はここでよさそうです。ジルさんから合図を貰ったらこちらも移転魔法を展開しますね……!」


 準備が整うと、より緊張したようにいうのはネーナだ。

 そう。ネーナの口にした移転魔法、行うのはネーナ自身だ。


 え? きちんと魔法が使えるのかだって?


 当然、出来るわけがない。

 だが、そこは安心して欲しい。事前に魔法陣やらなにやらは全てジルが用意していった。

 ジルが結界に開けた穴を、用意してあった移転魔法で行くことで会場に侵入する。そこまでジルは作り上げていったのだ。

 後は移転に必要な魔力を流すだけ。

 だからネーナ自身は魔法を展開する必要はない。

 そこにきちんと正しい量の魔力を流し込めるかどうかネーナ次第になるのだが。

 今回は魔力調整をしてくれるセイルスもユミもいない。本当にネーナ自身がどうにかするしかないのだ。

 もちろん失敗は出来ない。一回で成功させなくてはいけない。


 成功させなくてはという気持ちの圧と緊張で手や顔からじわじわと汗が出てくる。

 もちろんこの日の為に、街にいる間、只管練習をした。シオンの指導のもと、何度も何度も。

 ちゃんと成功もさせた。でも失敗もする。成功する確率はかなり高くなったが絶対ではない。

 大丈夫。成功することのほうが多かった。今回だってやれる。たったの一回だ。


 けど、その一回が失敗だったら?


 移転魔法は発動しないどころか暴走してしまう危険性がある。

 結界にあけられた穴は繊細だ。この作られた移転魔法しか通さない。

 それが失敗してしまったら? 

 関係ないところに飛ばされるならまだしも、穴を通らずに結界にぶつかってしまったら。

 その時点で全てが終わる。

 私のせいで終わってしまう。


 手が震えた。汗が止まらない。ああ、呼吸がうまくできない。

 どうしよう。失敗したらどうしよう。






「大丈夫だ」






 震える体に温かいものがふれた。

 背中に手が添えられたのだと気づいたのは、何度も背をさする動きを感じ取ったからだ。

 背中だけでなく、自分の横にも温かい気配があることに気づく。


「何度もやって体に叩き込んだんだろう? 練習したとおりにやればいいだけだ。それに失敗したらしたで、また次の作戦を考えればいいだけだ。俺達のことは気にしないでやればいい」


 最後にぽんっと背中を叩かれる。

 少し驚いて横にいる人物を見上げれば、彼は笑っていた。

 ここに来て知り合った亜人の青年。

 まだ知り合って然程しか経っていないが、彼の手はネーナの気持ちを確かに落ち着かせてくれていた。

 気づけば汗も震えも止まっている。

 ようやくネーナは心を真っ直ぐ前に向ける事が出来た。


「ありがとうございます。ウェルバさん。私、頑張ります」


 彼の顔をみてしっかり頷くと、ネーナは大きく一呼吸する。

 それから自分の杖をしっかりと握り背筋を伸ばした。


 さぁ、あとはジルからの合図を待つだけだ。


 そして、それはそう時間がかからないうちにやってくる。


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