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某国の女騎士と仲間達の日常物語?  作者: しんり
第1章 女騎士とその仲間達
27/71

27、神隠しと吟遊詩人 2


「スペルティ」……個人が持つ特技、技能、称号など。能力により左右されたり、成長したりするものもある。持っていても「開花」していなければ宝の持ち腐れ。たまに持っていてもどうしようもないものもある。


「成長するスペルティならば身近でいえば「俊足しゅんそく」ですね。極めれば「韋駄天いだてん」に進化します。確か最終は「瞬間移動しゅんかんいどう」でしたね。魔法の移転とはまた違うもののようです。私はどれも持っていないのでわかりませんが」

「確か騎士団入団必須事項に「俊足」を持っていないと駄目らしいね」

「はい。入団試験時に鑑定士の方に見てもらって「俊足」の有無を確認します。俊足は努力すれば手に入るスペルティだからそう難しくはないものだって言われてますね」


「次に生まれ持ったスペルティ。わかりやすいのは「王の威厳」ですね。王族の方なら誰もが持っているものです。上に立つ素質を持つ証とされています。あとはグリーン殿の「万能力者」こちらも生まれ持ったものでしょう。どちらも成長することはありません」

「ただ途中で開花することもある。平民が突然王族になることがたまにあるけど、そういうのは大抵途中で「王の威厳」を開花させたからと言われているね」

「王族の血を引いてなくても、ですか?」

「王族となりうる才能があれば開花するかもしれない。才能があれば王族と婚姻した相手にも「王の威厳」が開花する。ああ、ツォリヨ国王は遠縁ではあるが一応王族の血は引いているからね。ちゃんと初めから「王の威厳」は持っていたよ」


 さて、以前も話題に出た鑑定士や占い師が持っている「鑑定眼」もスペルティとなる。

 こちらは成長するスペルティで「千里眼せんりがん」などに変化すると遥か先の出来事も見ることが出来るとか。残念ながら千里眼は未来視ではない。

 先程出てきたスペルティを簡単に説明しよう。


「俊足」……常人よりも速くかける事が出来る。「韋駄天」「縮地」「瞬間移動」と変化する。

「王の威厳」……人々を従え導く能力。逆らうことは基本できない。自分より力が下のものに有効。王族となるもの、もしくは王族になりえるものが持っている資格。

「万能力者」……何においても卒無くこなしきる者。全てを得て身につけることが出来る。

「鑑定眼」……生きる物のステータスを観ることが出来る。「天眼」「千里眼」「万物の心眼」と変化する。


 ある程度の地位につくと、それがスペルティに変化することもある。称号のようなものだ。

 騎士団の「騎士」「魔導騎士」「魔導師」もスペルティに変化する。

 持っているからといって何かが変わるわけではないが、そのスペルティを持っているということはそこまで身体能力や技術、知識が伴っているという証明になる。

 そのスペルティを手に入れた時点でそれ相当の能力を手に入れているということだ。

 ステータスを具体的な数字などで表すことがない分、そういった称号のようなスペルティがその人物の能力値をあらわしている。

 では、スペルティをなんとなく理解したところで話は戻ろう。


 スペルティ「獣化」


「その名の通り、獣型になれるスペルティだな。ただ獣人が獣型になるのとは違って、スペルティの獣化は能力が大幅に上がると言われているね。それと同じく竜人も「竜化」というスペルティがある」

「亜人の方や竜人の方が持っているスペルティですか?」

「いいえ、全員が持っているわけではありません。亜人、竜人でも特に優れたものかそれ相応の能力を身につけたものが開花するといいます。ですので獣化、竜化は珍しいスペルティと言えるでしょう」


 様々な種類があるスペルティだが、基本持っているか持ってないかは本人にしかわからないし、本人すら気づいてないときがある。

 自己申告、もしくは鑑定士に見てもらうのが一般的だ。

 ただし鑑定士でも個人の能力差によって見える範囲は違う。鑑定眼を持っていたとしても自分より能力が高いもののステータスはそう簡単に見破れないのだ。

 つまりそれ以外にはある意味駄々漏れではある。


「基本的に私のように「鑑定眼」を持っている方は本人の許可なく相手の中身を見ることはしませんし、本人に聞かれない限りお話はしませんね」


「シオンさん!? いつの間に!」


 まるでタイミングを見計らったかのようにシオンがいつの間にかこの部屋へとやってきていてレイの横で飛んでいた。

 サシィータはただ溜息をつくだけで終り、レオルバは苦笑を浮かべる。

 シオンは日々城の中をうろついているので城で働く者にとってはシオンという精霊の存在は既に周知済みなのだ。


「もしよろしければ今回はタダで見てあげますよ? サシィータにレオルバもいかがですか。新しいスペルティが開花してるかもしれませんよ」

「遠慮しておきます」

「これ以上こき使われたくないから私も遠慮しておこう」


 タダより高いものはない。そう言っているのはシオン自身だ。

 これは後で何かあるな、と先読みしてサシィータもレオルバもシオンの申し出を断った。レオルバに至っては本心だ。

 断られたシオンは「それは残念です」とまったく残念そうに見えない笑顔で言う。

 それからシオンは横にいるレイに顔を向けると首を傾げた。


「ところでレイナを知っていますか?」

「姉さん? 何か用事?」

「私ではなくて国王がお呼びだそうで」

「国王がなぜ貴女を使いに?」

「そこ、国王に使われるのは自分の役目だ、みたいな顔して睨まないで下さい。たまたま通りかかっただけです。それでレイは知っていますか?」

「多分、騎士団のところじゃないかな。久々に時間が出来たから顔を出すっていってたから」

「そうですか。ありがとうございます。ああ、ついて来ないで貴方はしっかり自分の仕事をして下さいね。何でもレオルバに頼んでいると足元すくわれますよ。今の私のやり方のように」


 レイにお礼をいった口でシオンはサシィータにそんな釘を刺した。

 サシィータの眉根に溝が僅かに出来る。

 現在、サシィータはとある案件の仕事中だ。先程シオンに指摘された通り、次々とレオルバや他のものに仕事を渡していったら難解な案件ばかりが手元に残ったのだ。元々自分がやるつもりで残していたのだからそれはいい。

 しかし他の者に仕事を振り過ぎて補佐出来る者が誰一人としていなかったのだ。一から十まで自分の足でやらねばならない。

 おかげで新しい仕事に手をつけることが出来なくなってしまっている。

 ちなみに、こういう奴を社畜という。本人にはまったくもって自覚はないようだが。


「レオルバが次官になって頂ければこんな仕事すぐに片付くというのに」

「おい、やめろ。これ以上働かすな。次官なんて断固拒否する」

「拒否する理由がわかりかねます。国の為に働けることの何が嫌なのですか」

「お前と一緒にするな。というか少しは年上を敬え! 顎で扱うな」

「貴方は私の部下でしょう。顎で扱って何が悪いのですか」


 一体何が不満なのかまったくわからないという顔のサシィータにレオルバは額に手を当てて空を仰ぐ。部屋の中だから天井しか見えないのだが。

 二人が言い合っている間にシオンはいつの間にか姿を消していた。本当に用件だけを聞いて去っていったようだ。

 だがその事に気づいたのはレイだけのようで。サシィータとレオルバはいまだに先程のやり取りを続けている。

 レイは空になったカップを片付け、そうして先程までやっていた仕事へと手をつけ始めた。

 気づけば部屋の中にチラホラと人が増え始めている。

 休憩の時間が終わったのだ。レイが視線を二人に向ければまだ手には紅茶を持ったまま淡々と会話を続けていた。


(サシィータさんにあれだけのこと言えるのレオルバさんだけなんだよな。だから仕事を振られてるって気づいてないんだろうなぁ)


 レイが知っているだけでもサシィータが呼び捨てにするのは今のところレオルバだけだ。

 そんな二人を横目にレイはさっさと目の前の書類を減らしていく。

 ここで二人のやり取りと止めないあたりが彼のスルー能力は発揮されている。残念ながらスペルティではない。








「国王陛下におきまして本日もご機嫌麗しいようで、私の方は大変非常に不満しかないお呼び出しで機嫌もとってもよろしくないです」

「それはよかったな。で、用件なんだが」

「まったく以て何もよくないんですが! 私の自由時間!!」

「はっはっは! いつものことだろう」

「いつものことで流されることに慣れてしまってるのが辛い」


 謁見の間にてレイナとツォリヨ国王の会話が響く。

 いつもの如く人払いも済んでいる人気のない謁見の間。いつも通り椅子に座って寛ぐ国王。本日の扇はもち手があり、上の部分だけが開く仕様になっている。柄の部分を持って大きく煽っている。

 今回はレイナを連れてくるついでにシオンもそのまま二人の会話を聞く形になっているようだ。

 レインを適当にあしらい、ツォリヨが本題の話をさっさと始めた。


「西の方で変な噂が流れてきてな。なんでも神隠しが起きている地域があるそうだ。神隠し自体田舎ではよく聞く噂なんだがな。どうも方向性がちょっと違うらしい」

「というかまた人攫いですか。そういうの多くないですか? どんだけ人攫ってんですか。そんだけ頻繁にあればすぐに足がつくでしょうに」

「人攫いじゃない。神隠しだ。ちゃんと言葉を理解しろ」

「神隠しって大体人攫いでしょうが! 過去にその事例が何件あると思ってるんですか。それらしい縁の場所で女子供攫って売り飛ばしてるとかよくある話ですよ」

「よくあっちゃ困るんだよ。人の売り買いは認めていない。それに誰が神隠しにあっているのが女子供だといった」

「へ?」

「若い男だ」

「…………え?」

「若い男が神隠しにあっているそうだ」

「おや、それはまた珍しいですね。大体は高く売れるのは見た目のいい女子供のはずなんですが。若い男なんて労働力にしかなりませんからね」

「おい、妖精。御伽噺にでてくるような生物が俗世の裏の顔を平気で語るな」

「今更でしょうに」


 確かに今更ではあるのだが。見た目は神聖っぽいのにその口で語るのはちょっと一般人には聞かせてはいけないような内容というのはどうなんだろうか。

 いやまぁ、そこは置いておき。話を戻して先程の内容の「若い男」という部分に注目しよう。

 先程シオンが言った通り、人攫いであれば若い男は普通狙わない。

 何せ攫いづらい。普通に抵抗されて逃げられる可能性が高いどころか返り討ちにあう可能性もある。迂闊には狙えないのだ。リスクが高い。

 にも関わらず神隠しとやらにあっているのは若い男だという。

 確かに少し変わっている。変わっているからこそ今ここで話題に出たのだろうが。


「西の国境付近だ。あっちはバルディッタが近い。国境を越えて問題が起こっているようなら我が国レインニジアだけの問題ではなくなる。なにせ武力国家バルディッタだ。出来れば問題を起こさせたくはない」

「あー国同士の問題ですか」

「いや、国同士というよりも何かあった場合の関わった者の安否だな」

「というと?」

「だってなーあのバルディッタだからなー怪しい奴ら見つけたらまず問答無用で襲い掛かってくるぞ。殺しはしないと思うが取りあえず捕獲しました! と見せかけてサウンドバックにはするだろう。相手を見つけるとウキウキして戦い挑んでくるような奴らの集まりだからなー」

「敵対心とか……」

「むしろ好奇心」

「う、うわー……」

「国王が代わってからレインニジアとバルディッタの関係はとてもいいそうですから、友好関係に関しては問題ないようですね。つまり国を越えて何かあった場合は面倒ごとが増えるだけと思えばいいということですか」

「お互い協力は惜しまない。実際国境付近のやり取りは実に友好的だ。ただ面倒事が起こると何故か倍になって返ってくる。以前は問題を起こしたバルディッタ兵が大量の反省文書かされて国境付近で一列に正座させられたらしいぞ」

「それはある意味こっちの国にとっても迷惑!」

「まぁ脳筋の方々にとっては反省文とかは苦痛以外のなにものでもないでしょうね」


 だがそんな奴らが国境で一列に並んで正座してる姿とか普通の人が見たら怖い風景にしかならないだろう。

 ただそれだけで済んでるということはそこまで問題が大きくなかったともいえる。その光景が問題といえば問題でもあるのだがそれは別の話なので今は関係ない。

 つまり国境を跨いでの何かが起こったとしてもお互いの国の連携が取れているということになる。ただバルディッタ側が少しやりすぎるというだけなのだろう。それも容認している節はあるが。


「そういうわけで、少し変わった神隠しの噂の真相を調べて来い。問題がなければそれでいい。だが国を跨いでの話だったら色々やらねばならぬことが増える。早急に処理をしろ。国境付近の町はラータといったか。連れて行く人選は任せるがあまり目立つな」

「ラータって田舎町ですね。確か馬でも五日前後は掛かる場所」

「では早めに準備をしないとですね」

「おっと、悪いが今回はシオンはついていくな」

「え? 珍しいですね。シオンに何か用ですか?」


 そんなところだ、と国王は笑う。ただし口の端を上げて笑うので少し含みを感じる。

 あ、これは追及しないほうがいいやつだ。とレイナは即座に判断し、じゃ、コレは置いていくので失礼します。といってさっさと謁見の間を出て行った。

 シオンはまだ何も言葉を発しない。ただいつもの笑顔があるだけだ。

 この場に残った国王も先程とまったく変わらない態度のまま扇を煽ぐ。


「何か言いたそうだな」


 少しだけ目を細めて国王は笑う。ニヤリと。

 そこでシオンは小さく溜息をついた。


「私が誰かの命令をきくようなタイプに見えますか?」


 妖精や精霊は気まぐれであり、誰かに命令されるようなことは嫌う。自分の思ったことしかやらない。

 それはもちろんシオンもその傾向がある。


「だがお前、獣精だろう」


 久々に聞いた気がする自分の種族の名前。

 ピクリとシオンの片眉が少しだけ動いた。

 国王がさらに目を細くする。


「まさか獣精がどういった者なのか、()()の者がまったく知らないとでも思ったのか」

「…………」

「とはいえ隠す気もなかったようだがな。そうでなければレイナに自分の種族なんぞいわんだろう」

「ほう」

「ここは大国レインニジアだぞ。魔女伝説の地なれば知っていて当然だと、お前ならばわかるだろう」

「さて、それはどうでしょう」

「舐めるな。我が国の王が何たるかを知らぬとは言わせん。貴様に拒否権はない」


 笑った顔のままだが目には鋭さが宿っている。発した声は先程の軽さはない。

 最後には「お前」から「貴様」に変わっている事から牽制をかけられているようだ。

 そもそも今の状態の国王に逆らえる者はそうそういないだろう。


(「王の威厳」と「威圧」ですか。いや「畏怖の境地」にまでいってる可能性がありますね。私の「観察眼」も迂闊に使うと何かにひっかかりそうですし、読めない方ですね)


 国王を見てシオンはそんな分析をする。

 先程は許可なく観察眼は使わないとレイ達に言っていたが、所詮そんなものは建前だ。情報収集に観察眼を使わなくてどうする。

 だがそんなことが出来るのも、もちろんスペルティである「王の威厳」などの影響を受けていないからだ。

 とはいえ今ここで拒否するのは得策とは言えないだろう。

 たとえどんな立場であっても王を敵にするというのはよろしくはない。


「わかりました。今回はお話をお聞きしましょう」

「話が早くて助かるな。無駄な労力は使わないに越したことはない。まぁお前相手では言葉遊びにすらならんだろうがな」


 そういって先程の威圧などまるでなかったかのようにツォリヨは笑う。

 先程のレイナとの対応とまるで変わらないし、切り替わりの速さ……この場合は思い切りのよさだろうか。使い分けが実に上手い。

 この国王の噂は色んなものを聞く。シオン自体も実に興味深いとは思っていた。

 だが直接関わりを持つというと、これは厄介かもしれない。

 シオンは再び溜息をつく。


「私は貴方と接点を持ったことは時期尚早だと思ってますよ」

「はっはっは! 俺はそうは思わんがな。むしろ遅いくらいだ!」

「はぁ、そうですか……」

「さて、シオン。お前には行って貰いたい所がある」

「どうぞ。お好きな場所を指定してください」


 実に楽しそうにして話すツォリヨに対して、シオンはどこか諦めたような顔で話す。

 そしてツォリヨから出てきた地名に若干眉根を寄せた。

 だが深く内容を聞きたくはない為、シオンはその場所に行くことを了承する。

 そうしてシオンもまた話は終わったとばかりに謁見の間を後にしたのだった。

 ただレイナと違い、シオンは窓からの退出である。


「しかし、人間というのは実に面倒くさい生き物ですね」


 誰に聞かれるわけでもなく、そんな呟きを残しシオンはレインニジアから飛び立っていった。

 その面倒くさい生き物に付き合っている精霊も大概だろうけど、と心で付け足しながら。


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