死
生死人『イ』の見た目は十四歳の子供だ。
実際にも子供だが、二十年以上は生きている。
一般常識的な没年は十四歳。
が、その後も生き続ける。
山月由香が死ぬ直前に生死人の姿を見る。
その頃にはもう、スティミアテリコースをこの世界に送り込む予定の者たちが、過去に地球を訪れていたことが判明する。
由香が見た図形と同じ形のものが地球上で発見されたからだ。
年代推定すると約一億年程昔のこと。
地球全体が温暖化し、恐竜が全盛期を謳歌した時代の少し後。
類人猿の祖先となる狭鼻猿が歴史に登場する少し前。
これまで異邦文明の痕跡が地球上の何処からも発見されなかったのは出土された場所が南極だったからだ。
それでも発掘する機会はあったはずだが、南極の厚い氷が阻む。
地球温暖化の影響で氷が薄くなり、漸く可能性が浮かび上がる。
驚いたことに発掘された異邦文明の『図形』の中に、まだ動くものがある。
それらが発信する微弱な非次元時空波が高性能の探知器に受信される。
非次元時空波の概念は由香が見た文字のような図形の解析結果より明らかとなる。
簡単に説明すれば、非時間及び非空間から構成される非次元内を飛ぶ電波だが、ゴースト波検出と同じ、すなわち実在する時空に歪みがあることにより検出できる。
そう理論付けられた時点で探知機の開発に着手する。
当然、山月の指揮の下でだ。
現在から十五年以上昔にそんな手を打った山月だが、生死人が生きている理由がわからない。
おそらく理解しているものは地球上にいない。
生物が死ねば、バクテリアの作用で腐敗する。
バクテリアがいない環境に死者を保存すれば腐敗しないが、やがてミイラか死蝋になる。
どちらにしても命はない。
死がヒトの形として見えるだけだ。
けれども生死人は生きている。
まるで夢を見る人のように……。
簡単に言えば、生死人はエンテレケイアの操縦機だ。
現在、それ以外の使い道はない。
また、そのためだけに生かされている。
嘗て地球を訪れた異邦文明のモノたちが生死人発生を仕掛けたようだ。
遠い将来、スティミアテリコースを地球に送り、大部分の人類を滅亡させる予定の異邦文明人が何故、自分たちの邪魔になるかもしれない生死人を地球に残したのか、まるで不明だ。
まるで地球人の知恵を試すかのようではないか。
生死人はエンテレケイアの操縦機だが、死んですぐ操縦機となるわけではない。
その前に転換が起きる。
地球人の細胞が徐々に異邦文明人の細胞に置き換わる。
それがある程度まで進行し、八割以上となって初めてエンテレケイアの操縦機となれる。
生死人が模倣スティミアテリコースであるところのエンテレケイアの操縦機として使えると最初に気づいたのは山月だ。
が、山月は生死人の本来の使い方は違うのではなかろうか、と疑っている。
死より先、細胞すべてが異邦文明人のモノに置き代わるはずの生死人だが、見た目は地球人の子供のまま。
よって地球人と異邦文明人とは出自が近いのかもしれないと考えられる。
遺伝子的にはまるで異なり、スティミアテリコース同様、骨の形で情報を伝えるタイプであるというのに……。
生死人『イ』の生前の姓名は日向葵。
性別、女性だ。
アルファ‐オメガ内では比喩的に眠り姫と呼ばれている。
生死人『イ』は目覚めない。
目覚めないが他者に役割を振られることが可能だ。
そうでなければ、エンテレケイアの操縦機として役立たない。
スティミアテリコースを模倣し、エンテレケイアが作られたが、元々すべての細胞は生死人『イ』由来だ。
そのことも生死人『イ』をエンテレケイアの操縦機にできる理由の一つ。
また生死人『イ』とエンテレケイアは非時空的に繋がっている。
だから生死人『イ』の意思でエンテレケイアを動かせる。
が、それも生死人『イ』に地球人、日向葵の痕跡が僅かでも残るまでだ。
やがて完全に異邦文明人の細胞に入れ代われば、日向葵の痕跡が消える。
そのときにもエンテレケイア操縦者の意思が生死人『イ』に伝わるとは限らない。
日向葵がそうだったのだから、地球人の中に生死人となる可能性を持つ人間が何人もいるだろうとは考えられる。
が、次の人間が見つからない。
異邦文明人の図形を見ることができた地球人が、これまでのところ山月(鳳)由香一人しかいなかったように、他の生死人はいないのかもしれない。
山月や海城に限らず、アルファ‐オメガ構成員の中には、そのことに気を揉む者がある。
けれども見つからないものは見つからない。
「山月司令、これ以上のデッドライファーの活動は危険です」
「わかった。探査班は直ちに探査を切り上げ、緊急避難せよ。エンテレケイアα、ファーリィサクトースのデュナミスを破壊しろ」
「了解」
そのときまでファーリィサクトースとエンテレケイアαは丁々発止の闘いを繰り広げている。
が、山月の一言でエンテレケイアαの動きが変わる。
エンテレケイアαの胸が装甲ごと僅かに隆起し、キラキラと赤い光が耀き溢れる。
次の瞬間、真っ赤な破壊熱線が放射される。
大量の耀赤光がファーリィサクトースを直撃する。
次の瞬間、ファーリィサクトースであるところのスティミアテリコースあるいはファラレッギーの姿が消えている。
この世界から完全抹消されたのだ。(了)




