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クロノスタシス  作者: 芽寺はじめ
スミレ
29/29

2

「時計屋」と出会ってから、私は人生が変わった。


彼らと出会わなければ、私は未だに両親と不仲だっただろう。そして、彼らとちゃんと向き合うこともしなかった。

話し合おうとすらも、思わなかったはずだ。


恋人ができたのだって、彼らのおかげに違いない。彼らとの出会いがなければ、私は犬飼くんと会おうとも思わなかっただろうから。




私は、「時計屋」と会って人生が変わった人間だけれど。

中には、そうじゃない人間もいるわけで。


結局は、自分次第なのだということに気付かされた。















「あれからどう? ご両親とは」




大晦日、近くの神社で新年を迎えようとしていた私と犬飼くんは、今年起きた他愛ない出来事について語り合っていた。



肌が痛くなる寒さの中、白い息で手を温める。

少し前まで、冬は大嫌いな季節だったけれど。




「私の名前のこと聞いてから、ようやく親子らしい関係になってきたよ。思えば私も、あまり二人とちゃんと話してなかった気がするし」


「話し合いは大切なことだよ。俺の両親も、職業柄言葉の大切さをよく知っているから、俺もそのことばかりは痛感している」




犬飼くんの母親は弁護士で、父親は検事。


六法全書をぶん投げたくなるような家庭環境ではあるけれど、世の中の問題を直に肌で感じることができるから、誰よりも先に大人になれるチャンスがある。



そんな犬飼くんに、私はちょっとだけ憧れていた。




「小学校卒業以来、誕生日もクリスマスもなかったんだけどね。今年は母さんが誕生日ケーキ買ってくれたんだ。クリスマスプレゼントもくれた」


「良かったじゃないか。何くれたの?」


「『新書妖怪辞典』!」


「……ヨカッタネ」




あれ、なんでテンション低くなったん?



新年まで残り一分を切ろうとした時、カウントダウンが始まった。私たちも合わせるべきだろうかと思って息を吸った途端、声が出なくなることが起こった。



犬飼くんがーー私の冷たい手を握ってくれたんだ。




「……澄麗」




純粋に、ドキッとなる。


犬飼くんがくれたマフラーを握り締め、うるさい鼓動をなんとか鎮めようと、鼻と口を覆い隠す。



この時の犬飼くんは、他のどの瞬間の彼よりも、ずっとイケメンだった。




見つめあったまま、カウントダウンは終盤へ。



何かを言うわけでもなく、犬飼くんはそっと微笑んだ。

子供の面影もない。そこには、誰よりも大人の雰囲気のある高校生の彼がいるだけだ。




人生で初めてできた彼氏の微笑みに見惚れているうちにーー新しい年が始まった。













色々あったあの時から「時計屋」に会わなくなった私だけれど、何故かその記憶は消える気配がない。




きっとそれは、「迷子」の中でも稀有な経験をしたからなのだろうけれど。





もしかすると、私は伝える役目を与えられたのかもしれない。

「時計屋」の存在を、この世界に伝える役目を。









ならば、本を書こう。




フィクションとしてでもいい。この話を世に広めていこうじゃないか。




男勝りな女子高生と、

ちょっと頼りない男子中学生と、

とってもかわいい幼女の存在を。

関わった人間の物語を。



語るだけ語って、世に知らしめてやろうじゃないか。




下を向いて歩いてる人が、少しでも前を向いて歩けるように

ーー願いを込めて。











fin

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