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突然だが、うちの学校はとにかく変な部活が多い。
写真部に対抗した心霊写真部、クイズ王決定部、笑ってはいけない部、宇宙同好会、河童探索部、ツチノコ探検同好会、猫の肉球をひたすら愛でる部エトセトラ。
私服登校が許された自由な校風と生徒会が基本的に緩いことが原因ではないかと推察される。てか笑ってはいけない部って何だ。
まぁそんなわけなので、ここで私が部活動を設立させたところで大して目立つわけでもない。部員は私と犬飼くんと、犬飼くんが誘ってくれた髪の長い眼帯男子の三人だけである。
「……ねぇ犬飼くん。こいつ誰?」
「こないだ言ってた、従妹が『時計屋』に会ったっていうクラスメート。l五反田っていうんだ」
左目が眼帯で隠れている彼は、無駄に長い黒髪をかっこつけるように耳にかけた。
「l五反田l竜斗だ……フッ、よろしく」
「ちなみに重度の厨二病患者だから、会話する時はちょっとめんどくさいかも」
いやちょっとじゃねぇだろ。タキシードの上に黒いマントつけてる時点で色々とおかしいから。
「ねえ犬飼くん、こいつの従妹が『時計屋』に会ったって話、本当はただの設定なんじゃ……」
「実は俺もそう思ってるんだけど、こいつが本当だって聞かないから……」
ちなみに私たちの部活は設立したてで未だ部室がないので、図書室の端っこを借りて活動することにした。図書室なら関連書籍があると踏んでのことである。
五反田くんは図書室に来て早々黒魔術の本を大量に掻き集めてテーブルにどんと山積みに乗せた。行動が早いが、多分活動内容と関係ない。
「五反田くんって、黒魔術マニアなの?」
「あぁ……俺が聞いた話、こいつは西洋魔術や悪魔学に詳しいらしい。おかげで英語のテストは常に100点だ」
「厨二病が功を奏したか……」
人間、興味あることから入ると色んな知識を吸収できるからなぁ。本当に恐ろしい。
「うっ……ぐわぁぁぁっ!!」
突然、読んでた本を落として左目を押さえて苦しみだした。ついでのように椅子も倒れる。何事かと顔を上げる人もいれば、また始まったと呆れる人もいる。
犬飼くんは面倒臭げに五反田くんを死んだ魚のような目で見下ろしていた。
「俺のっ……俺の左目に封印されし邪竜がぁっ……!!」
「あーはいはい邪竜な邪竜。自分の名前が『竜斗』だからって変な設定作らないの」
「黙れ! き、さまに……俺の何がわかる!?」
「……とりあえず図書室では静かにしろ」
「あ、はいすみません」
切り替え早過ぎだろ。お前ら親友か。
「犬飼くん……五反田くんと仲良いね?」
「こいついっつも図書室で騒いでるから。俺図書委員だし」
「図書委員だったの!?」
彼女なのに知らなかった。不覚。
なるほど、だから今注意した時ちょっとドスがきいてたんだ。図書委員怖い。
「でさぁ五反田くん。早速本題に入るけど、従妹さんが『時計屋』に会ったって話は本当なの?」
「や、やめろ! 来易く俺の真名を呼ぶな!! 魔王の部下に聞かれたらどうするんーー」
六法全書が額に直撃した。しかも角。
振り返ると、何かを投げた直後みたいな体制の犬飼くんがこちらを(笑顔で)睨んでいた。え、いつの間に?
「ごめん、手が滑った」
「すみませんでした」
私は今、彼氏のもうひとつの顔を知った気がする。というか魔王の部下ってこいつじゃね? むしろ魔王じゃね?
「話戻すけど……従妹さんの話は本当なの?」
「ああはい、それは本当です。詳しくは本人も忘れてる箇所が多かったので教えられませんが、会ったことに間違いはないそうです」
こいつ本当は滅茶苦茶真面目だろ。どんだけキャラ作りに必死なんだ。
「ちなみに、どういったシチュエーションだったとかはわかる?」
「さぁ。ただ、その日を境に色々スッキリしたと言っていました」
スッキリ、か。あの台本もそうだったけれど、「時計屋」に会うと胸のつっかえが取れるようになるみたいだ。それは私も身を持って経験している。
「……僕も、僕なりに『時計屋』について調べてはいるんです。噂を聞いた時から、なんというか……“知らなきゃいけない”みたいな使命感に駆られて。で、人ならざるものを色々調べているうちに、黒魔術や悪魔に詳しくなってしまって」
「結構脱線してない? それ」
「僕もそう思ったのですが……気が付くと沼地のように嵌ってしまって……ぐっ……鎮まれ、俺の邪気眼……!」
「設定無茶苦茶だろ」
しかし彼の動機には共感できるものがある。
知らなければならない使命感。私もそのようなものを感じた。ユキちゃんに会ってからは、特にそれが顕著になった気がする。
うまく言葉にできないけれど。もっと根本的で、全てに通ずるようなものがあるような、そんな真実があるような気がするんだ。
「もう少し、情報が欲しいな……」
その呟きも、五反田くんの奇声と犬飼くんの叱責に掻き消され、誰の耳にも届かなかった。
……ただ一人を除いて。