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クロノスタシス  作者: 芽寺はじめ
ハナコ
11/29

4

帰り道。



冬の気配が近づいてきたこの時期は、気温の変化が激しい。体調管理だけはしっかりしなければ。




「うぁあぁ……寒ぅぅ……」




つまり寒いのである。



途中までは犬飼くんと一緒だったから全く気にならなかったけれど、お互い家が離れているからずっとそうしているわけにはいかない。結果現在の状況である。



木枯らしが肌に当たってすごく冷たい。コートは着てるしストッキングも履いてる。首にはマフラー巻いてきたというのに何故か寒い。いや、何故かじゃない。冬が近いからそのせいだ。



冷え性の私。冬なんか嫌いだ。




「早く家帰ってこたつに入りたい……ココア飲みたい……」



「悪いけど、それはお預けね」




不穏な台詞に思わず振り返る。



大きな目と長い睫毛。さらさらした腰まであるその髪は、白い肌を際立たせるカラスの濡れ羽色。長い前髪は真っ白な百合のヘアピンで留められていた。



私と同じ制服を着た彼女だったが、浮世離れした雰囲気とその美貌に、本当にこの世のものかと疑ってしまう存在感があった。




「……あなたは?」



小野寺(おのでら)花子(はなこ)。『時計屋』について知りたいんでしょ? 椎名澄麗さん」




浮世離れした彼女の雰囲気に呑まれたせいか、危うく聞き流すところだった。

彼女は間違いなく、今まさに、ほぼ初対面であるはずの私の名を口にしたのだ。



「どうして私の名前……」



「だってあなた有名人だもの」




それだけではない、と目が語っている。目は口ほどに物を言うものだ。それが更に彼女の不気味さに拍車をかける。




「ねぇあなた。もう一度、『時計屋』に会ってみない?」




そんな彼女の口から、「時計屋」の名が出たものだから、自分は既に異世界へと足を踏み入れてしまったのではないかという錯覚に陥ってしまった。


それでもなんとか平静を保ち、無理矢理おどけてみせる。




「え? いやいや、無理でしょ?」



「無理じゃないわ。ほら、私の手をとって」




小野寺花子は手を差し出し、掴めと目で命令する。



なんだろうこの子。すごく不気味だ。でも、この雰囲気。逆らったらそれはそれで怖そうだ。



躊躇したものの、指先だけ触ってみる。冷たそうな肌だが、案外温もりがあった。その意外性に呆気にとられている間に、彼女のすらりとした細いその手は獲物を見つけた提灯アンコウのごとく私の手をとらえ、力強く引いた。




「ええっ? ちょ、待って!」




何も言わず、彼女は走り出す。ふわりと浮いた彼女の髪の香りが、風に乗って鼻に届く。



周りを見たら、いつの間にやらあの時と同じモノクロームの世界へと変わっていた。




「私はね、必要のない『もの』を手放すことのできない人間なの。だから、自在にこの世界へ行き来することができる」



「はぁ? 何それ」



「言いたいことは何となくわかるわ。でもそれが事実だもの、仕方ないでしょう?」




事実って……仕方ないって……。

この様子だと、不気味なのは雰囲気だけではなさそうだ。




「いや、ちょっと待ってよ。それってつまりさ、いつでも時間を止められるってわけだよね? しかも個人的な理由で、世界じゅうの人を巻き込んで!」



「誤解よ。誰も巻き込んでなんかいないわ。あなたが勝手にそう思っているだけ」




急に足を止めたので、勢い余って肩にぶつかる。痛い。




「ねぇ椎名さん。どうしてあなたは『時計屋』に会えたのかしら?」




唐突な質問にきょとんとする。




「え? そりゃああれでしょ? 必要のない『もの』に『価値』を……」



「そんな人間、世界中にごまんといるわ。必要のない『もの』に『価値』を見出す人間ばかりだから、未だ戦争や犯罪が絶えないのでしょう?」




確かに、言われてみれば。ただそれだけの理由で『時計屋』に会えるのなら、世界はとっくに平和になっているはずだ。




「じゃあ、他にも条件があったってこと? それを満していたから、だから私は『時計屋』に会えたの?」



「ええ、そうよ。全く運のいいことにね」




なんか偉そうだな、こいつ。友達になれそうにないや。成績トップで周りを見下していた私が言えたことじゃないけど。




「ちなみに、その条件って何?」



「……知りたい?」




クスッと笑う、華の女子高生。ていうかこいつ本当に女子高生か? 女子高生って確か、箸が転がってもおかしいお年頃のはずだろ? 何、この無駄に大人びたオーラ。マジこえー。



これで人間じゃなかったら即お友達になるんですがね。




「じゃあ、大人しくついてきて。案内するから」



「どこへ?」




余った方の手の人差し指を立て、自分の唇にそっと当てる。子供っぽいその動作すら、色っぽく見えるから不思議だ。




「秘密の館、よ」

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