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忘れられたオフィウクス  作者: 酣睡


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10/23

金色の流星と瓦礫の下の守護

軍事整備後方支援基地の内部では、禍々しい深紅の警報ランプが狂ったように旋回し、耳を聾するサイレンが響き渡る中、無数の地上要員や整備兵たちが慌ただしく右往左往していた。


普段から夜間奇襲に備えて厳格な交代制を敷いていた軍ではあったが、知性機械が仕掛けてきた、常軌を逸した火力と進撃速度を誇る超高強度の電撃戦を前に、防衛システム全体は瞬く間に虚を突かれ、完全な大混乱へと陥っていた。


「一般市民の避難状況はどうなっている!? 増援はまだか!?」


臨時司令部の中、筋骨隆々とした体躯に無数の傷痕を刻んだ大男が、年季の入った無線機を掴んで怒鳴り散らしていた。それは千年前の第二次世界大戦期まで遡るような、無骨で原始的な年代物のアナログ無線機だった。


最新鋭の量子通信ネットワークをあえて捨て去ったのは、軍上層部が指揮系統の深刻な情報漏洩を察知していたからに他ならない。あらゆるデジタル信号がリアルタイムで傍受・改ざんされる恐れのある極限状況において、この閉鎖的で原始的なアナログ信号こそが、唯一信頼に足る防壁となっていたのだ。


『報告します! 一般市民の八割八分は指定シェルターへ収容完了! しかし……大型避難所四カ所が精密爆撃を受け、完全に崩壊しました! 休暇中だった招集部隊も、合流地点への移動中に待ち伏せ攻撃を受け全滅です!』


無線機のノイズ混じりのスピーカーから告げられた戦況に、司令部にいた将校たちは一斉に息を呑み、室内の空気は氷点下にまで凍りついた。


四カ所の避難シェルターがピンポイントで爆撃された――それは、最高機密であるはずの防空壕の座標が、完全に敵へ筒抜けになっていることを意味していた。それだけではない。避難所の超合金防壁は、外側からの力任せの砲撃で短時間に破れるような代物ではない。軍の最高位アクセスコードを持つ何者かが外側から正規手順で隔壁を開放し、内部へ侵入した上で無差別虐殺と自爆テロを敢行したとしか考えられなかった。


「……該当の避難所四カ所と直ちにコンタクトを試みろ! 生存反応が僅かでもあれば全力を挙げて救助せよ! 全軍に通達、各戦闘小隊は直ちに出撃! 目先の被害に囚われず、戦線を死守しろ!」


まだ避難しきれていない市民が残っているとはいえ、避難所のセキュリティコードが漏洩している以上、全員の退避完了を待つような猶予はもはや戦況に残されていなかった。


時を同じくして、焦げたオイルと冷却液の匂いが充満する格納庫の最深部。


エース機『レオー』のコックピットに鎮座するルネは、今にも人を殺めそうなほどに暗く沈んだ表情を浮かべていた。


今、彼女は軍の特権権限を行使し、メインスクリーン上でセリアの手首にある生体反応ブレスレットを違法に逆探知していた。ディスプレイに浮かぶ小さな赤い光点は、混乱を極める市街地の中を緩慢に移動し続けている――セリアはまだ、シェルターへ辿り着いていない。


生体信号を無断で追跡することが軍規違反であることなど百も承知だったが、ルネにとってセリアの動向を監視することは日常茶飯事だった。それはセリアを守るための盾であり、同時に彼女を完全に掌握するための歪んだ首輪でもあった。安全圏へと逃げ込めていないその光点を見つめるルネの胸中では、心臓が破裂しそうなほど激しく波打っていた。


『隊長! 前線から凶報です。「ガーディアン」重装甲小隊六組が全滅! さらに高速機動戦のエキスパートである「ハヤブサ」小隊二組も完全に殲滅されました……これ、マジでヤバい状況っすよ!』


通信要請とともに、メインスクリーンの隅にウィンドウがポップアップした。映し出されたのは顔に傷痕のある軽薄そうな青年隊員だった。おどけたような口調を取り繕ってはいるものの、操縦桿を握り締める彼の手の平が脂汗で濡れているのは明白だった。


警報が鳴り響いてから、精鋭部隊が立て続けに部隊ごと消滅するまで、わずか三十分足らず。


敵の火力が桁外れに高すぎるのか。それとも軍上層部の裏切り者が、友軍の防衛配置をそのまま知性機械の屠殺場へと差し出したのか。


「……私の家族がまだ避難を終えていない。私は、まずあの子を助けに行く」


ルネは冷淡に言い放った。その翡翠の瞳には、揺らぐことのない冷徹な決意が宿っていた。


少なくともこの瞬間に限っては、己の欲望と本能に背くつもりなど毛頭なかった。ましてや、長年負い目を抱え続け、つい先ほどその唇を強引に奪ったばかりの姉を見殺しにするなど、天地がひっくり返ってもあり得ない。


『ハッ! あのめちゃくちゃ可愛いお姉さんのことっすね?』


隊員は口笛を吹き、ニヤリと笑った。


『いやー、あのお姉さんのギャグみたいな操縦技術と悪名さえなければ、俺だってマジで口説き落としたかったくらいなんすけどねぇ――』


瞬間、コックピット内の空気が凍結した。


ルネがゆっくりと伏せていた瞳を持ち上げる。その美貌には見る者を戦慄させるような底知れぬ暗雲が立ち込め、地獄の底から響くような冷え切った声音が紡がれた。


「……貴様まで、私の傍からあの子を奪い取ろうというのか?」


通信越しに伝わる実体化したかのような殺気に、隊員の軽口は一瞬で喉に詰まった。彼は引きつった笑みを浮かべ、両手を振って弁明した。


『じョ、冗談っすよ隊長、勘弁してください……! この別動隊の連中で、隊長があのお姉さんにどれだけ重くて歪んだ感情を抱いてるか、知らない奴なんていませんから……』


青年隊員は軽薄な態度を崩さなかったが、操縦桿を握る指先は白く強張っていた。


エースであるルネがあの可憐な姉の救出に戦力を割けば、残された隊員たちは、数々の精鋭を瞬く間に消滅させた正体不明の化け物どもと、量産機だけで渡り合わなければならないのだ。


「不安になる気持ちは分かる。死にたくないなら、全員私の後ろに張り付いていなさい」


ルネは静かに息を吐き出すと、指揮官権限でシステムを強制オーバーライドし、格納庫深部に備えられた超伝導リニア式電磁カタパルトの拘束を解除した。


重々しい金属の噛み合い音と油圧ロックの作動音が響き、巨大な牽引シャトルが『獅子座』の降着脚をレールへと強固に固定する。密閉された地下格納庫内において、主推進器を直接点火すれば、数千度を超えるプラズマの熱波が整備デッキを一瞬で溶解させてしまう。軌道両脇の超伝導コイルが励起する圧倒的なローレンツ力(磁気推進力)のみが、無点火のまま数十トンの重装甲兵装を数秒で空中へ射出できるのだ。


『冷却サイクル正常。超伝導コイル励磁完了、磁束密度ピーク到達――』


数百メートルに及ぶ発射トンネルの両壁が眩い青白の電離光を放ち、空気中に微かなオゾンの焦げた匂いが立ち込める。その光条は、ルネの碧緑の瞳に冷徹かつ鋭利な輝きを映し出していた。


『牽引リミッター解除。電磁射出シークエンス――オールグリーン!』


ルネは操縦桿を力強く握り込んだ。その眼差しからはいつもの傲慢さが消え失せ、自らの獲物を何人たりとも侵させない野獣のような獰猛さが剥き出しになる。


「――ルネ・エスペル、ゾディアック第五宮『レオー』、出るわよ!」


リニアモーターが数万キロニュートンの暴圧的な推力を叩き出し、巨大な機体は過負荷の加速度の中で夜空を切り裂く一筋の金色の流星と化した。発射口を突き抜け大気圏の夜風を浴びた瞬間、背部の主推進器が爆轟とともに二次点火され、轟くソニックブームを伴って紫煙渦巻く空へと殴り込みをかけた!


全身を襲う過負荷重力と慣性緩和ゲルの圧迫に耐えながら、ルネの胸の奥で心臓は痛いほどに激しく脈打っていた。


大局を鑑みれば私情を挟むべきではなく、軍人として真っ先に主防衛ラインへ急行すべきであることなど分かっている。だが所詮、彼女とて大学に入ったばかりの少女に過ぎない。エスペル家が軍政各界に影響力を誇示するための駒として軍にねじ込まれただけであり、本来ならこんな理不尽な重責を背負う義理などないのだ。


今朝の模擬戦でカレナに屈辱的な敗北を喫した姿は確かに無様極まりないものだったが、その場にいた将校や有識者は誰一人として彼女の実力を疑っていなかった。彼女の操縦技量はすでに神域に達している。


あそこまで乱れ、隙だらけの醜態を晒したのは、観客席に佇んでいたあの無力でか弱いセリアという存在が、彼女の魂の奥深くに突き刺さった、誰もが口に出せない唯一無二の急所(アキレス腱)だったからに他ならない。


『隊長、機体のコンディションは平気なんすか? っていうか……今の弾薬残量でこの激戦を捌ききれるんすか!?』


背後を追従する副機隊員が、通信越しに懸念の声を投げかけてきた。


今朝の模擬戦でカレナの策略に嵌り、レオーの背部にマウントされていた主火力である「集束徹甲子母弾ポッド」は誘爆し大破していた。機体自体はモジュール換装が容易な設計とはいえ、今回のスクランブル発進はあまりにも突発的で整備時間が足りず、予備モジュールを強引に懸架した結果、本来八十発装填されるはずの弾数は、現在わずか二十八発しか装填されていない。火力制圧の面においても継戦能力の面においても、大幅な戦力ダウンは避けられなかった。


「今回の作戦は『高速機動による一撃離脱・陽動』を基本とするわ」


ルネは冷静に息を吐き捨てた。ヘルメット内部のディスプレイ光に金色の前髪が揺れ、その翡翠の双眸には一点の動揺もなかった。


「忘れないで。私たちは軍を支援するために駆り出されたエスペル家の別動隊であって、最前線の正規兵じゃない。命を張るような真似は、防衛ラインが完全に崩壊してからで十分よ」


『了解っす!』


ルネの思惑は至極単純だった。


今回の機械反乱がこれまでの暴動とは比べ物にならないほど危険であることは理解している。だが、彼女の胸の内に残る正義には明確な優先順位が存在した。セリアが無事に地下シェルターへ避難したことさえ確認できれば、自分はシェルターの上空にレオーを滞空させ、あの子の頭上だけを死守する防壁となるつもりだった。


自分があの銀髪の少女に、どれほど執着し、狂おしい情を抱いているか。


今朝、カレナに敗北し、悔しさと怒りに任せて控室へ押し入り、セリアを絨毯の上に押し倒してその唇を強引に奪った――あの瞬間、長年彼女の心を覆っていた迷妄の霧は完全に晴れ渡っていたのだ。


かつてセリアに辛く当たり、事あるごとに感情をぶつけていたのは、セリアが自分をどうでもいい名ばかりの妹だと見なしているのではないかという疑心暗鬼の裏返しだった。だがそれも、幼い頃に一族の大人たちが吹き込んだ悪意ある噂を鵜呑みにしていた自分の未熟さゆえだ。あの頃の自分がもっと素直であったなら、二人の関係がこれほどまでに歪で息苦しいものになることもなかったはずなのだ。


だが……二人の絆は、本当に「歪」なだけなのだろうか?


レオーは夜気を引き裂き、数千メートルの高高度を恐るべき超音速で巡航していく。コックピットの全方位投影壁には、外の世界を焦がす戦火と冷徹な闇の光が映し出され、ルネの引き締まった横顔を鮮明に照らし出すとともに、その瞳の奥にある名状しがたい柔らかな熱情を微かに浮かび上がらせていた。


理性を失った自分が仕掛けたあの横暴極まりない侵犯に対し、あの澄んだ青い瞳を持つ愚かな姉は、自分を突き飛ばすことすらしなかった。それどころか、ぎこちなく優しい腕で自分をしっかりと抱きとめ、混乱の中にあって……涙と敗北の味が混ざり合ったキスを、恥じらいながら受け入れてくれたのだ。


もっとも、頭の中がピンク色の妄想で詰まったあの鈍感な姉のことだ、何か盛大な勘違いをしているに違いない。普段から怪しげな恋愛小説ばかり読み耽っているような純真無垢な白紙のバカなのだから、放っておけばいつ悪い虫に騙されて心も体も奪われるか分かったものではない。


そこまで思い至ると、ルネの胸には苛立ちと愛しさが綯い交ぜになった独占欲が込み上げてくる。


もし今がこんな非常時でなければ、あのバカな姉の両手足を美しい鎖で自らの傍らに縛り付け、自分の視界の届く鳥籠の中に一生閉じ込めてやりたいくらいだった。


ルネの意識がほんの僅かに思考の海へ逸れた、まさにその瞬間――


ズドォォォォォンッッッ!!!!


夜空を真っ二つに両断する、目も眩むような青白い閃光が無慈悲に大気を薙ぎ払った!


磁場によって光速近くまで超加速された「艦載級荷電粒子ビーム砲」。その弾道周囲の大気は激しく電離し、暴虐な電磁パルス(EMP)の雷光が狂い咲く。


思考を巡らせていたとはいえ、野生の獣のごとく研ぎ澄まされたルネの直感が、コンマ数秒の刹那に肉体を支配した。操縦桿を限界まで倒し込むと同時に姿勢制御スラスターが閃光を放ち、レオーは空中で極限のバレルロールを敢行して直撃を回避した。


だが、直後を追従していた副機にそれほどの神懸かり的な反射神経は備わっていなかった。膨大な高エネルギー粒子流は量産機の力場シールドを紙屑のように食い破り、数千度の高熱によって装甲が瞬時に気化する爆音とともに、機体はパイロットもろとも夜空に咲いた儚い火球となって消滅した。


メインスクリーン上の僚機シグナルが、一瞬にしてロスト(消失)を示す。


ルネの瞳が戦慄に細まった。超大型戦艦、あるいは要塞級の重兵装でしかあり得ない戦略破壊兵器の主砲だ。


しかし、彼女の心臓を何よりも激しく締め上げたのは――今すれ違いざまに掠め去った荷電粒子の奔流が、遥か下方の市街地へと着弾し、天を焦がす巨大な火柱を吹き上げたことだった。


その燃え盛る爆心地の座標こそ、セリアが逃げ惑っているはずのエリアだったのだ!


「セリア……ッ!!」


胸が張り裂けそうな焦燥に駆られ、ルネはもはや編隊維持も隠密行動もかなぐり捨てた。主推進器のスロットルレバーを限界のストッパーまで押し込み、背部のベクターノズルを全開にする。レオーは衝撃波の轟音を撒き散らしながら、急降下する一筋の金色の流星となって、紅蓮の炎渦巻く地獄へと突撃していった!


その頃、地上の廃墟において、セリアは瓦礫の山から必死に上半身を起こしていた。


突如として降り注いだ爆撃の衝撃波は街の防爆壁を粉々に粉砕した。間一髪のところでエルヴィンが飛び込み、セリアの華奢な体を全身で庇い包み込んでいなければ、内臓を破裂させるほどの爆風によって少女の命はとうに消し飛んでいただろう。


二人は十数メートルも吹き飛ばされ、路傍の店舗の強化ガラスとコンクリート壁を背中で突き破っていた。


「お父さん! 怪我はない!? お父さん、しっかりして!」


セリアは埃と冷汗にまみれた顔でエルヴィンの体から這い起きた。エルヴィンの右ふくらはぎが無残に鉄筋で引き裂かれ、鮮血がドクドクと流れ出ているのを見た瞬間、彼女の澄んだ青い瞳は涙で滲み、恐怖に唇を震わせた。


パニックに陥った群衆のせいで、通りは乗り捨てられた民間車両で完全に埋め尽くされ、都市交通網は完全に麻痺していた。足に重傷を負ってしまえば、生身の足だけで次の絨毯爆撃が来る前に地下シェルターへ辿り着くことなど絶望的だった。


「ゴホッ……慌てるな、セリア。大丈夫だ」


エルヴィンは激痛に顔を歪めながらも立ち上がった。脚からはおびただしい血が流れていたが、上半身は奇跡的に骨の一本すら折れていなかった。


彼はパンパンに膨れ上がった背中の大型バックパックを軽く叩き、死線を越えた者特有の穏やかな笑みを浮かべた。


「ほら見ろ、あの『相棒』を連れてきて正解だったろう? この大ネズミが後ろでエアバッグ代わりになって、衝撃を全部受け止めてくれたんだ!」


バックパックのファスナーの隙間から覗く、埃まみれで少しひしゃげた巨大なネズミのぬいぐるみ。それを見たセリアの胸の奥に、張り詰めた恐怖を溶かすような、泣きたくなるほど温かく不条理な安心感が込み上げてきた。


「おい! 貴様ら! 無事かッ!?」


その時、もうもうと立ち込める粉塵を突き破って、聞き覚えのある野太い怒号が響き渡った。


瓦礫の散乱する路肩に、フェンダーまでピカピカに磨き上げられた新車の大型高級クロスカントリーSUVが急停車した――汗だくになったデイン教官だった。


前方の道路が崩落したビルの残骸で完全に塞がれていたため、デインは慌てて運転席のドアを蹴開け、二人のもとへと駆け寄ってきた。


「そんな脚で歩けるわけがあるか! 早く車に乗れ! 軍から専用の緊急脱出ルートが割り振られている、道はまだ生きているぞ!」


デインはエルヴィンの返答を待つことなく、巨躯の中年男を迷わず背中に担ぎ上げた。


一刻を争う非常事態の中、教官であるデインは本来なら臨時基地へと急行し前線指揮に合流する任務を帯びていた。だが四箇所のシェルターが陥落したという凶報を受け、軍上層部から「民間人の救出を最優先とし、軍備損害は二の次とする」という緊急令が発令されたため、車を走らせながら孤立した生存者を捜索していたのだ。


「セリア、ぐずぐずするな、後ろのドアを開けて乗れ――」


デインが振り返り、セリアへ視線で合図を送った、まさにその刹那。


ドゴォォォォォォォォンッッッ!!!!


夜空が割れるような凄絶な轟音とともに、黄金の輝きを纏った鋼鉄の巨神が、まるで天空から墜落した隕石のごとき質量と狂暴な運動エネルギーを伴って、道路のど真ん中へと叩きつけられた!


凄まじい着地風圧が、周囲の瓦礫と粉煙を一瞬にして吹き飛ばす。


直後、レオーの頭部装甲に備えられた外部スピーカーから、息を切らし、焦燥と傲岸不遜さに満ちた少女の甲高い声が響き渡った。


『知性機械の地上部隊が包囲網を形成しつつあるわ! 早く乗りなさい、セリアッ!!』


レオーはその巨大な金属の巨躯を片膝つかせ、敵機を八つ裂きにするための鋭利な合金クローを丁寧に揃え、優しく地面へと差し伸べた。その意図は明白だった――至高の宝物を包み込むように、自らの掌の上に乗せてシェルターまで直接送り届けるつもりなのだ。


しかし……。


あまりにもドラマチックな救世主の登場に度肝を抜かれていたデイン教官の視線は、吸い寄せられるように下へと移動し、レオーの太く重厚な右足の直下で完全に釘付けになった。


そこには――。


納車されてからまだ二十四時間も経っておらず、車内のシートビニールすら剥がしていなかったはずの、彼のピカピカの愛車が……。


レオーの容赦のない数十トンの装甲フットによって、蝉の羽のごとくペラペラに踏み潰され、シュウシュウと虚しく黒煙を噴き上げる見事な「金属の鉄板焼き」へと変無残に姿を変えていた。


「…………」


エルヴィンを背負ったまま、デイン教官の顔面はピキピキと引きつり、瓦礫の吹き荒れる夜風の中で完全に石化していた。

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