希望の共鳴
終焉世界へ咲いた一輪の花。
その小さな花は静かに揺れ、やがて淡い光を放ち始めた。
一輪。
また一輪。
少女の足元から無数の花が咲き広がり、灰色だけだった世界へ少しずつ色彩が戻っていく。
終焉意思は信じられないものを見るように立ち尽くしていた。
『あり得ない。』
『終焉世界に命は存在できない。』
『ここは希望すら消える世界だ。』
シオンは少女の頭を優しく撫でる。
「希望は消えない。」
「誰かが願い続ける限り。」
少女は花を胸へ抱きしめ、小さく微笑んだ。
その笑顔を見た瞬間、終焉世界の空へ一筋の光が差し込む。
暗闇しか存在しなかった空に、初めて朝焼けのような光が生まれた。
「空が……。」
ルナリアは思わず見上げる。
その頬には涙が伝っていた。
「綺麗……。」
終焉意思は一歩後退する。
『違う。』
『これは終焉世界だ。』
『色は存在しない。』
『命も存在しない。』
『何故だ。』
『何故、変わる。』
始祖契約者は穏やかに微笑んだ。
「答えは簡単だ。」
「終焉は命を消せても。」
「願いだけは消せない。」
その言葉と共に、灰色の大地に立ち尽くしていた人々が少しずつ顔を上げ始めた。
母親が子どもの手を握る。
老人が空を見上げる。
戦士が折れた剣を拾い上げる。
誰一人として言葉は発しない。
それでも、その瞳には確かな光が戻り始めていた。
「みんな……。」
イヴは胸へ手を当てる。
「生きたいって願ってる。」
ノルンも静かに頷いた。
「終焉世界は絶望から生まれた。」
「だから希望が増えるほど、この世界は崩れていく。」
終焉意思の身体へ、小さな亀裂が走る。
パキッ。
黒い結晶が一片だけ砕け落ちた。
その奥から蒼い光が漏れ出す。
「ノクティス!」
シオンが呼び掛ける。
終焉意思は頭を押さえ、苦しそうに唸った。
『黙れ……。』
『その名を呼ぶな。』
『我は終焉だ。』
『終わりだけが存在理由だ。』
「違う。」
シオンは一歩ずつ近付いていく。
「お前は終焉なんかじゃない。」
「ノクティスを苦しめてるだけだ。」
『違う!』
終焉意思が咆哮すると、終焉世界の空が再び黒く染まり始める。
咲いた花が枯れ、差し込んでいた光も消えようとしていた。
しかし、その時だった。
ルナリアが静かに両手を重ねる。
「月よ。」
「この願いを照らして。」
銀色の月光が終焉世界へ降り注ぐ。
その光は花々を優しく包み込み、再び色を取り戻していく。
続いてイヴが生命の力を解き放つ。
「命ある者の願いよ。」
「未来へ繋がって。」
緑色の光が世界中へ広がった。
レオニクスは剣を掲げる。
「信念は折れない。」
ヴォルグは拳を握る。
「仲間は見捨てねぇ。」
アリアは静かに笑う。
「最後まで付き合うわ。」
ノアとルクスは創世術式を重ね合わせる。
「世界接続率、回復開始!」
「希望の波長と共鳴しています!」
七人の力が一つになった瞬間、シオンの胸に刻まれた七色の紋章が、これまでにない輝きを放った。
ドクン――。
その鼓動に呼応するように、終焉世界中へ七色の光が駆け巡る。
花が咲く。
風が吹く。
鳥のさえずりが響く。
終わったはずの世界へ、命の音が戻っていく。
終焉意思は震えていた。
『何故だ……。』
『終焉は絶対だ。』
『希望は必ず絶望へ変わる。』
『それが世界の法則だ。』
シオンは静かに首を横へ振る。
「違う。」
「希望は一人じゃ弱い。」
「でも。」
「誰かと繋がれば。」
「絶望にも負けない。」
その瞬間、終焉意思の胸を覆う黒い結晶が大きく砕け散った。
バリンッ!!
結晶の奥から、一人の青年の姿が浮かび上がる。
黒髪。
優しい蒼い瞳。
何億年も孤独を背負い続けた男。
「ノクティス!」
シオンは迷わず右手を伸ばした。
今度こそ届く。
あと少し。
指先が触れようとした、その瞬間だった。
終焉意思の最深部から、これまでとは比べものにならないほど禍々しい声が響く。
『器を返すものか。』
『我は終焉。』
『我は絶望。』
『我は命が生まれた瞬間から存在する最後の結末。』
黒い闇が再びノクティスを飲み込み始める。
始祖契約者はその光景を見つめ、静かに呟いた。
「来る……。」
「終焉の本当の姿が。」
終焉世界全体が大きく震え始めた。
ここから先は、神々すら知らない最後の領域。
希望と絶望、そのすべての答えが明かされようとしていた。




