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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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白銀の観測者

王都セレスティア上空。


世界中の視線が、一点へと集まっていた。


白き神兵《AE-Ω》。


黒星王シオン・アルヴィス。


記憶保持者ルナリア・セレス。


そして――。


突如として戦場へ姿を現した、一人の男。


白銀の観測者。


巨大な神兵を目前にしながらも、その佇まいは驚くほど静かだった。


まるで戦場ではなく、夜風を楽しみながら散歩でもしているかのような穏やかさ。


白銀の外套が風を受けてゆっくりと揺れる。


仮面の奥に宿る蒼銀色の瞳だけが、真っ直ぐシオンを見つめていた。


その視線には敵意も殺意もない。


あるのは、長い時を越えてようやく再会した者を見るような、静かな懐かしさだけだった。



「……久しぶりだな。」


その一言が夜空へ溶ける。


聞いた瞬間だった。


ドクン――。


シオンの胸が大きく脈打つ。


頭の奥を鋭い痛みが走った。


忘れていた記憶。


封じられていた歴史。


消された世界。


その断片が、激しく揺さぶられる。


視界が霞む。



燃え盛る空。


崩壊していく大地。


世界の終わりを前に、背中合わせで立つ二人の少年。


黒髪の少年。


そして。


白銀の髪を持つ少年。


『また無茶してるな。』


『お前もだろ。』


『……違いない。』


二人は笑っていた。


絶望の中にいるとは思えないほど、自然に。


互いを信じ切った笑顔だった。


戦友。


相棒。


誰よりも背中を預けられる存在。


その記憶は、一瞬だけ鮮明に蘇り――。


すぐに霧のように消えていった。



「……っ!」


シオンは思わず頭を押さえる。


ルナリアが駆け寄る。


「シオン!」


だが。


シオンは彼女の声すら聞こえていなかった。


目の前に立つ白銀の観測者から、どうしても目を離せない。


知らないはずだ。


会った記憶もない。


なのに。


心だけが覚えている。


胸の奥が、懐かしさで満たされていく。


「……お前は。」


震える声で問い掛ける。



白銀の観測者は小さく笑った。


「まだ全部は戻っていないか。」


その笑みは優しかった。


そして、どこか寂しかった。


何千年。


何万年。


気の遠くなるほど長い時間を、一人で待ち続けてきた者だけが浮かべられる笑みだった。



その時。


神兵AE-Ωの黄金の瞳が強く輝く。


『超危険因子確認。』


『白銀の観測者確認。』


『排除対象追加。』


巨大な世界法陣が高速回転を始める。


夜空いっぱいに純白の槍が展開された。


数千。


数万。


星々を埋め尽くすほどの終末の槍。


王都全体へ降り注ごうとしていた。



アリアが顔色を変える。


「また来る!」


レオニクスは即座に聖剣を構える。


ルナリアは月光の結界を展開する。


しかし。


誰も理解していた。


数が多すぎる。


防ぎ切れない。



その瞬間。


白銀の観測者が静かに右手を上げた。


「……騒がしいな。」


小さく呟く。


そして。


パチン――。


指を鳴らした。


たった、それだけだった。



次の瞬間。


空を埋め尽くしていた白い槍が消えた。


砕けたのではない。


防いだのでもない。


最初から存在しなかったかのように。


跡形もなく。


世界から消失した。



沈黙。


王都全体が静まり返る。


誰も理解できなかった。


何が起きたのか。


どうやって消したのか。


その術理すら想像できない。



だが。


管理者だけは理解していた。


『観測改変確認。』


『権限異常。』


『観測領域侵食。』


『危険度 最大。』


初めてだった。


感情を持たない管理者たちが、恐怖にも似た反応を示したのは。



白銀の観測者は静かに神兵を見上げる。


「……まだ、こんなものを使っているのか。」


呆れたような声。


その言葉に反応するように、神兵AE-Ωが巨大な腕を振り上げた。


『異常存在。』


『排除開始。』


空間が軋む。


王都そのものを消し飛ばしかねない一撃。


世界を断罪する拳が振り下ろされる。



だが。


白銀の観測者は動かなかった。


避けない。


構えない。


ただ静かに、その場へ立ち続ける。


まるで結末を知っているかのように。



ドォォォォォォォォォォォォォォォン――!!


世界が激震する。


衝撃波が四方へ吹き荒れる。


しかし。


神兵の腕は途中で止まっていた。


白銀の観測者が。


たった片手で、その一撃を受け止めていたからだ。



誰も言葉を失う。


アリアは息を呑む。


レオニクスは目を見開く。


ルナリアでさえ、驚愕を隠せなかった。


「……嘘。」


誰かが呟く。


管理者最終兵器。


《世界終了命令》の執行者。


その絶対の力を。


一人の男が、片手だけで止めている。


まるで、大人が子どもの腕を受け止めるかのように。


圧倒的だった。



白銀の観測者は静かに微笑む。


「力だけは……相変わらずだな。」


その言葉を残し、ゆっくりとシオンへ視線を向ける。


蒼銀色の瞳が、まっすぐ未来を託すように細められた。


「……見ておけ。」


その一言だけで。


シオンの胸が強く震えた。


なぜなのか分からない。


それでも。


この言葉だけは、絶対に忘れてはいけないと本能が告げていた。


白銀の観測者は静かに続ける。


「お前が、これから超えるべき壁だ。」



その瞬間。


彼の背後へ、巨大な魔法陣が展開された。


誰も見たことがない術式。


第一世界の文字。


失われた観測者だけが扱えた古代言語。


世界そのものが共鳴し、空間が震え始める。



深淵領域。


巨大な蒼い瞳が、その光景を静かに見つめていた。


『白銀の観測者。』


『活動再開確認。』


深淵の観測者の声が響く。


『物語は第二段階へ移行する。』


その宣告と同時に。


シオンの胸の奥で眠り続けていた第一世界の記憶が、再び静かに目を覚まし始める。



黒星王の帰還。


英雄たちの再集結。


白銀の観測者の登場。


そして。


第一世界へと繋がる、封印された真実。


散らばっていたすべての運命が、一本の線となって結ばれていく。


『ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH』最大の戦争。


その戦いは、ここからさらに世界の根幹を揺るがす新たな局面へと突入しようとしていた。

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