表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第3章 電脳戦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

102/379

第4話 家族の在り方

 2日ぶりに自分の家の敷居を跨ぐ。いつもは何も思わずに帰ってきていたが、本当に懐かしいような気持ちになった。


「お帰りなさい~。さぁ、紅茶を淹れておいたからゆっくり飲んでね~」

 家に着くと玲姉の柔らかい声に迎えられて妙にいつも以上の安心感があった。


 僕たちは玲姉に対して今回の3日間で起きたことを話した。

玲姉は恐らくは聞かずとも分かっているだろうが、柔らかい笑みを浮かべて聞いていた。


「ホント、玲姉がいないだけで僕たちはいかに脆弱か分かったよ……」


「だから輝君には頑張ってもらわないと。

私の一番の弱点は物理的な距離があると流石に助けに行けないわ……」

 

「そういや、玲姉に助けてもらおうという発想は浮かばなかったな……何せ距離が遠すぎるから。

 ワープでもできたなら一足飛びなんだろうけど(笑)」

 僕が冗談みたいにして言うと玲姉は何とも言えない表情になった。


「ま、まさか本気を出せばワープが出来るとか?」


「さぁねぇ~。でもホントみんな無事で良かったわ~」

 意味深な発言の前に僕は不気味な気持ちになった。

い、いくら玲姉でも大王ですら開発できていない技術のワープは出来ないだろ……。出来ないよな? 出来ちゃうかもしれないと思わせるだけでもとんでもないが……。


「ホント、無事に帰れて良かったよ。獄門会に囲まれた時はどうなるかと思ったよね~」

僕も喉が渇いたから紅茶を下品だとは思うが一気にゴクゴクと飲み干した。

 玲姉から冷たい目線を向けられたのは言うまでもない。


「あたしももうボロボロ……なんていうか、精神的に疲れたっていうか……」

 まどかがソファーに細い足を投げ出しながらそう言う。

僕も果てしなく疲れていたので同じポーズを取っていた……。


「まどかぁ、お前はお化けが怖かっただけだろぉ?」


「うるさいなぁもぅ! ちゃんと戦ってたもん! 少なくともお兄ちゃんよりは役に立たよっ!」

 まどかはソファーにもたれかかりながらもほっぺたをパンパンに膨らませる。


 まどかは震えながらも間違いなく頑張ってたもんな。

 あそこで逃げ出したりパニックになったりしないだけ立派だよ――そう言うとつけ上がりそうだから結局何回思っても言わないが(笑)。


「私も疲れました。本当に色々ありましたからね」

 島村さんは背筋をしっかり伸ばしてソファーに深く腰掛けていると言った感じだ。

 このソファーは結構沈むので、意外と器用な座り方で僕には出来ない。体幹が強くないとできないだろう。


「お兄ちゃんったらヘンな無理をしたんだよ! 

 あたしが倒れている間だったから詳しくは知らないけど、折角知美ちゃんがお兄ちゃんを救おうと手を伸ばしたのに。引き揚げられなさそうだからって銃で自分の腕を切り離そうとしたんだよ!」


「ゲエッ! 何、告発してるんだよ! まどか!」

 まどかの首元をホールドしてやろうかと思ったが、玲姉の鋭い視線が自重させた。

 というかそもそも、思考を読まれている以上、この対話はほとんど無意味だ。

思考を読んでいることを忘れさせるほど自然な会話の仕方は本当に優れている。


「それはいけないわね~。自分の命を懸けてまで守ろうとした姿勢は良いかもしれないけど。何も事実上の自殺することはないわ。感心できないわね」

 声は比較的柔らかいが、目線がマジ過ぎて、体が自然と縮み上がった。


「は、はい……」


「私も言ったんですけど、少しで助かる可能性があるのなら自分の命を捨てようとしないで欲しかったです。

 実際に伊勢さんが間に合ったのですから」

 

もうこの件で僕が叱られるのは3回目だけどつくづく自分の当時の考えが愚かだったことが痛感させられる。


「いや、ホント崖の状態が危なくて、このままだと2人まとめて落ちると思ったんです」

 警察に事情聴取を受けている人の気分を今味わっている。自然と敬語になった。

 かつての日本の警察の密室での人権侵害は無いがこの玲姉の“圧力”はホントに何度味わっても慣れない……。


「いざという時に身を挺して仲間を救おうとする心意気は良いと思うけどね。

何だかやり方が極端のような気がするのよね……」


「最悪の事態を回避しようとしていまして……」


「誰かを犠牲にして誰かを救う――何というか虻利家の考えそのものを体現しているような気がしますね。

 この人と虻利家本家との違いは犠牲となるのが自分自身と言うところですけど」

 島村さんがそんなことを呟いた。


「そうねぇ~。虻利家の思考は自分自身のためなら他人を犠牲にすることに何のためらいも無いからね。

 これはいわゆる“ウルトラナショナリズム”とも言われるもので、本来はあってはいけないことだけど、

 圧倒的な権力を持つとそういう思考になりがちよね」


「うーん、しかし大王の技術力によって圧倒的に生活が豊かになっているのも事実だからなぁ……。

 これは一概には何とも言えない気も」

 大王の熱意は本当だと思う。だから、彼に任せれば何となく“もっと良くなりそう”という感じがあるのも否定できない。


「お兄ちゃん。そもそも豊かさって何だろね?」


「お前は本当にバカだなぁ。そりゃ、生活水準が上がることに決まってるだろ。

 最近なら、コスモニューロンや飛行自動車だよ」

 と、まどかに答えながらどことなく歯に何かが詰まったような感じはした……。


「しかし、コスモニューロンでは思想は監視され。飛行自動車では位置情報を完全に監視されています。

 それぞれの健康被害や依存症についての問題もあります。

 これで本当に“良くなった”と言えるのでしょうか?」

 僕の発言に対して島村さんがすかさず反論してくる。それも、かなり痛いところを。


「うーん、健康被害についてはこれまでのテクノロジーの時点でもあったわけだし、

 虻利家は土壌を使っただけに過ぎない気も……玲姉はどう思う?」


「私は見た目上の豊かさよりも精神上の豊かさの方が重要だと思うわ。

 具体的には物質社会や仮想現実世界の成功というよりも人と人との繋がりを大事に思える状態のことかしら」


「なるほど、流石は玲子さん。技術が発達すればするほど人間としての繋がりというのは希薄になっていっていますからね」


「そう、仮想世界でのコミュニティは発達しているけど、別にいざという時に助けてくれるわけでは無いからね。輝君も分かるでしょう?」


 確かに、いかに世界王者として君臨し続けて称賛を浴びたとしても、

 彼らに相談することは出来なかった。玲姉やまどかがいなかったら、精神が病んで終わっていたと言って良かった。


「なるほどね。確かにそうかもしれない……匿名性が担保されないと仮想世界は成り立ちにくいし、中々難しいものはあるな……。

 今ある現状のシステムからするとどう言ったモノを推進したほうが良いと思う?」


「そうねぇ、いわゆる拡張現実(AR)と呼ばれるものをコミュニティとして導入するのはどうかしら? これならアバター慣れしている人達も恥ずかしがらずに済むと思うしね」


「なるほど……VRより一つ手前の技術ではあるが推進する方向性としてはアリだな……」

 ちょっとARだと没入感が足りないという面はあるが為継と今後協議する価値はあるように思える。

“目の前にいる安心感”のようなものが大事だというのは分かる。


「後は家族間の絆の復活の必要性はありますよね。価値観の多様化が進み過ぎて家族での分断が起きていますから……」


「それはあたしたちの家族ですらそうだよね……」

 

 島村さんのところは家族が離散。玲姉とまどかは親と断絶。

 そうなると僕は恵まれている。母上は行方不明だが、玲姉やまどかは家族以上の絆と言って良かった。


「うーん、本当の家族でなくても家族以上の絆というのもあるしそこもなんとも言えないよな……。

 ここは色々と協議していく必要がありそうだ……」


 AIのアルゴリズムとしても色々な変数を入れなくてはいけないような気がする。

 相反する人同士だからこそ合致するということもあるだろうし、単純なマッチングシステムではダメのような気もした。

 だから希薄な関係に走っているのかもしれないんだけど……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ