第3話 周りからの支え
まどかと島村さんと別れた後、日光にある特別宝物殿に入れてもらった。
正直、通常の人間では入ることが出来ないVIPルームである。
日焼けしないように薄暗い環境ではあったものの、歴史と伝統を感じさせる書物や鎧などは同じ場所にいるだけで、当時生きていた人たちと同じ空気を吸っているのではないか? と思えるほどの高揚感を得ることが出来た。
また一般で公開されている展示物では、
現物を目の前にしながらそれと違わぬ模造品の刀を抜いたり、当時の装飾の色合いを再現する体験コーナーなどは子供でも人気だろうなと思いながら体験をしていた――なお、僕も楽しんだ側だったのは言うまでもない(笑)。
こうしてあっという間に2時間近くが経過した。あと10分で待ち合わせの時刻だ。
待ち合わせ場所に景親と雑談をしながら待っていると、まどかと島村さんが駆け足で戻ってきた。
「ふぅ~危なかったぁ~」
「ギリギリでしたね」
2人ともどうやらお風呂にでも入ったのか髪からホカホカした湯気が少し漂っている。
「2人とも何してたの?」
「バッティングセンターで打ち込んでました」
「知美ちゃん凄いんだよ~。ほとんど当てるし!」
「まどかちゃんの方が飛んで行ってたじゃないですか! 網を突き破りそうな打球は驚きました……」
「あたしは、全然当たらないからサッパリだよ~!」
とても楽しそうな2人の会話が続いている。まどかは恐らくは全部ホームラン狙いなんだろうな……。
「へぇ~、そりゃ面白いですな。俺も次は混ぜてもらいたい!」
景親は元野球部なだけあってやる気十分と言った感じだった。木刀を振り回し始めた。
さっきまで博物館で退屈そうに欠伸してたもんな……。唯一まともに見ていたのは刀剣の場所だけだった。
「か、景親……人のいないところでやろうか……」
一振は僕の鼻の頭を掠めたので流石に冷や汗が出た……。
「す、すんません……」
景親が平謝りなのをなだめた。
何だかアウトドア派はとても楽しそうだ。僕だけ1人浮いている感が漂っている……。
「皆、揃っているようだな」
こんな風に騒いでいるうちに父上たちが現れた。――素晴らしいほど時刻ピッタリだ。
「父上、ご無事で何よりです。具体的に何をされていたのですか?」
僕は父上に近づきながら小声で聞いた。
「今後の戦線警備についてのシステム確認をまず行った。
そして、新担当者に今後の方針について直に注意しておいた。しくじれば藤田のようになるとな。
ちなみに副責任者が昇格したので文字通り震え上がっていたな」
コスモニューロンで返信してきた。あまり他の人には知られたくないのだろう。
「なるほど、身近な例がいると身も引き締まりますね」
僕も空気を読んでコスモニューロンで返信する。僕も“存在抹消刑”がチラついたときは身が引き締まった。
「お前も本当に注意しろよ。虻利家の中で一番軽率に動きそうなのはお前なんだからな」
「は、はい」
再び背筋を伸ばし直し、皆の元に戻った。
陰鬱な話を聞かされたが、車に乗ると景親とまどかと島村さんが野球談議に花を咲かせている。
特に打撃については盛り上がりが凄い。
い、良いもん……ぼ、僕にはゲームがあるから……。
こうしてようやく帰路につく。車のこの何ともいえない硬い感触がこんなにも体の力を休ませてくれるとは……。
「ちょっと、虻輝様! 3日間大変だったみたいじゃないですか! 獄門会に襲われたって……」
車に乗ってからしばらくすると美甘が僕に連絡を寄こしてきた。
「まぁ、今日は何も起きて無いから昨日だけだね。大変だったのは。正直な話、危うく死にそうになったよ」
「え!? 大丈夫だったんですか!」
「まぁ、多少は負傷したけど、別に命に別状は無いよ。医療班の治療でどうにかなる程度だったし、
今は完全に治癒している」
崖から落ちかけた時はホントに死を覚悟したが、幸い怪我はかすり傷程度でほとんど無傷だったよな……。
「そ、そうだったんですね……ご無事で何よりです」
「そちらでは何か変わったことは無かったか」
「そういえば、出発前にお買い求められていたお守りがほとんど割れちゃったんです……。
お守りが虻輝様達を守ってくださったんですかね……? 今は供養してもらっていますけど……」
供養という名の高額処分代請求だろ? と言いたくなったが、美甘は結構神様とかいると思っているタイプだからなぁ。
「あ、そうなんだ……あれも色んな宗派宗教問わずに注文したから、大丈夫かな? と思ったけど、
上手いこと役だったんだな……」
「そうなんですよね。『片っ端から買って来い!』とかおっしゃったときは私も正気を疑いました……」
「今言うな今(笑)。まぁ、僕も神様を信じていないって言いながらお守り買いまくるのは流石にヤバいと思った(笑)」
でもそれぐらい不安だったんだから仕方ない。
しかし、それにしても島村さんは思った以上に折り合いをつけているんだなって正直、驚いた。
「知美ちゃんについては大丈夫だったんですよね?」
「ああ。無事に島村さんの住民票まで発行されたよ。彼女は思ったよりもずっと強いのかもしれない。
もう既に、過去との清算はほとんどついているような気がする。僕の方が偏見に満ちた弱い人間だった……」
「そんなこともないと思いますけどね。本当に弱い人間でしたら過ちに気づかずに、若しくは何もできずに破滅しているんだと思いますよ」
「そ、そうか……まぁ、色々とありがとう。またな」
まぁ、僕には虻利家や玲姉という絶対的な盾があるからまだマシだとは思うんだけどね。
普通の人には何の盾も無いから敢え無く世間の流れに屈してしまって流されてしまうか、見て見ぬふりをしてしまうのだ。
次に為継に連絡をすることにした。為継にはデータ系統の時には役立つが今回は役立ちそうな場面すらなかった……。
「これは虻輝様。景親から話は聞きました。今回も色々とあったようですな」
「ああ、たまには平穏に1日を終えたいよ……今日は休暇みたいに夜まで過ごしたいね」
「確かに最近の虻輝様の動きは私でも信じられないものがあります」
「ホント、インドア派なのに玲姉とかが僕を酷使するから……」
まぁ、その分時間の使い方が少し上手くなったがな……もう絞り出すように時間を捻出してゲームの時間を作り出している。
「流石にお気の毒ですので、どうにかして間接的にでも柊玲子を説得しておきましょう」
「おぉ、助かる。最近ゲームをできる時間がまとまって取れなくて困ってるんだ。
知ってると思うけど僕はプロゲーマーなんで……つまり仕事をできない状態なんだ」
まぁ、実を言うとプロという感覚は無いがな……。
「ええ、承知しております。私の中ではできることをやります。
レーダーを見るともうすぐご自宅に到着されるようですので、ここで連絡は終わりにさせて頂きます」
「ああ、頼む。色々ありがとう」
気が付けば東京のビル群の景色に戻ってきた。こんな無味乾燥としたビルが懐かしく思えるんだからこの2日ちょっとの重さを感じた。
為継は僕がプロゲーマーやっていることに関してはあまり良い印象を持っているとは思えないが、
それでも善処してくれるって言うんだから本当に助かるよ……。




