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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第3章 電脳戦

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第2話 デジタルとリアルの体

 父上と話し終わった後、すぐにまどかと島村さんの元へ戻る。

 これから昨日のように一緒の車で次の目的地へ行くからだ。父上に次の予定がある上に回り道をするのでなるべく早くいかなくてはいけない。


「荷物は大丈夫かな? まぁ、何か忘れてもこの旅館なら届けてくれると思うけど……」

 僕は小さなポーチ一つで来たので何も問題は無かった。


「ええ、私はあまり物を持って来ていませんから」

 そもそも島村さんはウチに来た時から物を持っていない。今も部屋には弓道具ぐらいしか無さそう……。


「ふぅ~。お待たせ~」

 まどかの体と同じぐらいのキャリーバックを引いている……。デカすぎんだろ……。


「……まどかはそんなに持ち物があったのか。一体何をそんなに持っているんだ……」

 行きがけは恐らくはトランクにでも入っていたのだろう。


「うーんと、お守りとか着替えとか……。防災用具とか、可愛い物とか……」

 まどかがトランクに押し込みながら答えた。

 ほとんど旅に必要ねぇ……。僕もお守りだけは大量に買ったが、全部美甘に保管させた(笑)。


「あるだけで精神的に安定するのでしたらたくさん持っていても良いのではないでしょうか?

 まどかちゃんのパワーでしたら自分で持てますし、周りに迷惑をかけないかと」

 島村さんはほとんど物を持っていないのにまどかに対しては毒舌は全くない……。


「3日間ありがとうございました!」

 僕たち3人は元気に挨拶をした。父上たちも静かにお礼を言っているシーンがあった。

 色々あったけどこの旅館の施設や待遇にはとても満足だ。露天風呂や昨日の料理は格別だった。


 車が出て行くときに、女将さんが笑顔で見送ってくれた。また泊まる機会があれば何か持って行ってあげよう。

 ただ、次泊まる時も戦線に関することだから大変な状況だろうけど……


「ふぅ~、ここから安全圏だから安心だね~」

 誰が戦線に向かうか、戻ってくるかどうかの検問を通過した。

 見た目としてはあの壁のような基地が圧巻だが、事実上はここが誰が通過するかどうかを判断する戦線の境と言える。行きの時はほとんど寝ていたかゲームをしていたから何も覚えていない(笑)。


「ここで確か父上と別れるんだっけか。具体的な場所は僕も知らない(笑)」

 正直、このまま帰りたいところだが、車の攪乱のためにも一緒に帰らなくてはいけない。


「虻輝様、時間潰しはいかがしましょうか?」

 黒服が僕に尋ねてきた。

 今いる辺りは衛星のデータによると福島県と栃木県の県境ぐらいだ。


「そうだねぇ、日光東照宮の宝物庫でも見たいかな」

 栃木と聞いて真っ先に思い付いたのはそこだった。


「そんなの見てどうするんだよ……」

 流石まどか、何も分かっていない。

 

「徳川時代こそ僕の理想なんだよ。勿論マイナス面については考慮していかなくてはいけない点も多いが、

 平和でありながら文化も興隆している。

 そして、資本主義的な要素も出てきていた。日本だけで完結していた持続可能社会でもあったわけだ。

 それらを感じることが出来る資料というのはとても興味深いものなんだよ」


「ふーん、それならVRで見れば良いんじゃないの? ほとんど同じものが見れるんでしょ?」


「お前は何も分かってないなぁ。リアルだからこその味わいというか風格みたいなものがあるんだよ。

 まぁ、文化や芸術についてお前が理解できるとは思えんがなぁ」


「いや、お兄ちゃんよりは分かってるつもりだけど……」


「私たちみたいにVRを拒絶している人ならその考えは分かりますけど、VRでゲームをしていることも多いでしょうに。それでその感覚というのは何だか不思議なものがありますけどね……」

 島村さんは何というか複雑な表情をしている。


「お兄ちゃんは分かってるフリをしてマウント取ってるだけのような気もするけどね……」

「なるほど、それなら分かります。学校の勉強も出来ない人が、文化や芸術を理解できるとは思えないです」


「酷い言われようだな(笑) VRなら確かに触ることも出来るし、壊れることもない

 でも、だからこそ価値が無いんだよ。壊れて儚い存在だからこそ価値があるんだよ。

 

 これはリアルな人間でも同じことだと思うけどね。整形やアバターでの自己改造による自己肯定感のプラスにしていくことも非常に大事なことだと思うけど、先祖代々から受け継いでいる遺伝子というのも大事だと思うけどね」


「そう思えるのは今の人では中々いないような気もしますけどね。

 私の聞いた話では近年、リアルでの保管場所や管理方法に困っている団体や自治体が多い事からデジタル化やVRデータ化して実物は無くしているということも聞きましたけど……」


 ちなみに僕は江戸時代の資料や遺跡の保存に関しては寄付もしている。他の時代に関しては残念ながら手が回らないけど……。


「お兄ちゃんは素のままでもモテモテだからそう思えるんじゃないの~?

 外見込みで成功している人は正直、そう言う風に考えてもおかしくは無いように思えるけどね」


「へぇ、その口ぶりだとまどかはそうは思っていなさそうだな」


「あたしは身長は低いし、ムネは無いし……コンプレックスの塊みたいなもんだよ!」

僕にはヒットしないが、小さいフォルムが好みという人というのは一定層存在していそうではあるけど……。

 調子に乗るから言わないけど顔立ちはとても綺麗だし。


「私はまどかちゃんが言っているような2つの要素は持ってはいますが、玲子さんのようなプロポーションには憧れます……」


「ふぅん、島村さんもそうなんだね。でも玲姉と比べたら誰しも見劣りして当たり前だと思うから、

 正直言って比べても仕方ないように思えるけどね……。

 他人と比べても仕方ないと思うから“自分らしさ”っていうのを伸ばしていくしかないように思えるけどね」


「えー、そうは思っても比べちゃうよー」

「そうです。皆あなたみたいに無神経な人間じゃないんです――あ、人間じゃないのかもしれませんけど」


 うーん、そうなのか普通は僕のようには思えないか……。


「誰でも理想の自分になれると思うから色々なアバターが売れたりするわけなんだな。

 確かに、玲姉に似たタイプのアバターって言うのは結構売れていたりするし、僕のプレミアアバターも売れていたりするからな。

 目標に思っている人のアバターは売れるんだろうね」


 まどかや島村さんのように何かしらの特徴を持っている人はまだマシと言える。

 世間では特徴も特技もない人間が多く、リアル世界に入り込めない人間が多いのだ。

 

「とにかく、あたしは江戸時代のモノなんかに興味が無いから……体でも動かしてようかな~!

知美ちゃんはどうする?」


「はい。私はこんな人よりかは文化や芸術は分かっているつもりですが、

まどかちゃんと一緒に体を動かしたいです」


 その会話を聞いていて右足が真っ赤に染まっていたのを思い出したのだ。


「そういや、島村さんは怪我の方は大丈夫なの? 昨日は傷口が開いたようだけど……」

 

「ええ……。昨日応急措置をしてもらったので、すぐに神経がまた切れるということは無いと思います。

ですので、筋トレぐらいでしたら問題ないと思います。

 激しく動くとまだ危ないと思うのですが……」

 

 確かにあまりにも自然な動きをしていたので、僕も気づけなかったほどだ。


「三浦さん。今大丈夫? もし大丈夫ならどれぐらいの時間自由にして良いかな?」

 僕は父上の所にいる三浦さんに連絡をした。


「2時間までなら大丈夫です。それ以降はお車にお戻りください」


「分かった。ということで2人とも2時間なら自由に過ごして良いらしいから」

 

「分かりました」

「分かった!」

 多少は島村さんのことはまだ不安はあるとは思っている。

 でもまどかもいるし、ある程度は信じてあげないとあまりにも可哀想だ。

 僕は右手首を見た。島村さんが握ってくれた手の跡がまだ少し残っていた。


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