第17話 帽子の男
三香が元男性だと知りショックを受け、ホテルから失踪する裕二。一方その頃、愛知県名古屋市の小さなライブハウスから、新たな事件が起きようとしていた。
愛知県名古屋市『名古屋地下ライブハウス』PM19:23
「うおおー!!」
「超絶かわいい聖奈!!」
「あずあずーロリかわすぎ!」
小さいライブハウス内に、男たちの野太い声援が、響き渡る。
「もっこり股関がコンプな女の子」
「オカマじゃないのにー疑いの目ー」
ウオウオー
「モリマン!モリマン!わたしのマンマンーデカ・モリ・マン〇!!」
「胸の高鳴り股関の疼きもう止まらないよ」
「あなたが大好きモリマンガール」
少し薄暗いステージで、アイドルの格好をした2人の少女が、なんとも言えない気分になる歌を熱唱していた。少女たちの下品と過激が混ざりあう、アグレッシブなダンスに乗せられ、ハウス内の盛り上がりは最高潮に達していた。
「みんな今日は、ありがとうー」
赤いカチューシャをつけた、黒髪ロングの少女が、ファンの前で叫んだ。
「せいなー」
「愛してるー」
ファンたちの声援を受けて、客席から聖奈と呼ばれる少女が、ニコニコしながらステージの上から、客席のファンに向けて笑顔で手を振る。
「今日は、満足したビラメ?」
聖奈よりも小柄な少女が、手に持ったマイクを客席に向けて声を張る。
「満足したビラメー!!」
「ビラビラマン○!」
野太い声が、やまびこのように返ってきた。中には放送ギリギリのワードも混じっていたが、なんとなくスルーされていた。
「あずあずも、超満足したよんりんバイク!」
「ブルン、ブルン!」
あずあずの意味不明な語尾に反応して、よく訓練されたファン達が、バイクの効果音を一斉に叫ぶ。
「次は、東京だよーみんな来てね!」
「約束だからねりま区は埼玉」
2人のアイドルがそれぞれ叫び、手を振って舞台裏に引っ込んで行く。ハウス内には、ライブ終了のアナウンスが流れ、続々とファンたちが帰る準備を始めた。
「お疲れ、2人とも。あずきちゃん、今日もいたね…例の危ない追っかけ君」
「あれは、れっきとしたストーカーなのでスフィンクス取り締まり希望だわさ」
マネージャーは舞台裏からそっと、客席の左奥に佇む、地味な見た目の黒いメガネをかけた青年に目をやる。あずあずも、マネージャーの視線を追っかけ、客席に目を向ける。
「次は東京か…どうやって、資金を捻出して行こうか…」
中○ドラゴ◯ズの帽子をかぶった、黒いメガネの青年がボソッと呟やき、顔を上げた。そしてカバンを持ち上げ出口の方向に足を向けた。
マネージャーやあずあずとは別に、もう1人、奥の方に立ったまま、中◯帽子をかぶる青年がとぼとぼと歩きながら、ライブハウスを出て行く様子をそっと見つめる、怪しげな男がいた。
「目標、ライブハウスを出ます。オペレーションドラゴンを実行します」
怪しげな男は誰かと電話しながら、懐にそっと手を入れ、ウォンツドライバーを取り出した。そしてゆっくりと、○日帽子の青年を後を追いかけ始めた。