第十一章 02
レンフェウス・ウォード・フローレス様。
ナターシャ様の弟でアレンの叔父様。
整った顔立ちに背が高く、すらりとしていて黙っていればとてもモテそうだ。
アレンがもう少し歳を重ねたらこんな感じになるのかもしれない。
自己紹介を終えた後、アディリシアはしばらく目を覚まさないだろうからと一旦近くの部屋に場所を移して話をすることにした。
もしアディリシアが目を覚ましたら側についてくれているシロが教えてくれるらしいけれど心配そうな私に気付いたリタもシロと一緒に残ってくれることになった。
お茶の準備をしてもらい皆でテーブルを囲む。
「サウジリアスからいらっしゃったのですか」
魔法大国サウジリアス。
ウィルズエルト王国の隣の国とは言っても高原や山岳などを挟んでいるのでそれなりに距離があったはずだ。
子どもの頃は離れて住んでいるということしか知らなかったけれど……異国だったとは。
ナターシャ様がお声をかけてくださり遥々アディリシアの為に来ていただいたと思うと感謝の念に堪えない。
「レンフェウス様、遠いところお越しいただいて本当にありがとうございます」
「いや、姉上にお会い出来る機会が出来たので気にしないでいい」
「レン……」
嬉しそうそう言うレンフェウス様にナターシャ様が珍しく頭を抱えていた。
相当な“姉びいき”のようだ、それだけ慕っているのだろう。
「母上は急用が出来てしまって客人の迎えを僕に任せたんだけど約束の場所には叔父上がいて驚きました」
「俺も姉上が迎えに来てくれると思っていたのに来たのがアレンでガッカリした」
「叔父上、それ結構失礼ですからね」
「久しぶりに会ったと思えば生意気言うようになったもんだな。それに叔父上なんて堅苦しく呼ぶようにもなって……昔みたいに“レン兄さま”って呼んで良いんだぜ、ルディも」
「何言って……」
「はい、レン兄さま」
「ルディ!何素直にいう事聞いているの」
「え?やっぱりレンフェウス様の方が良いかしら。フローレス卿だとよそよそしいし、それともレン様とか?」
「レン様……ってなんかそっちの方が親し気で嫌かも。いや、ごめんルディの好きでいいよ」
なんだかごにょごにょと言葉を濁すアレンに首を傾げているとレン兄さまがニヤニヤと笑った。
そしておもむろにアレンの頭を撫でる。
「そういうとこお前変わらないなぁ」
「叔父上は黙っていてください」
「いやだね」
撫でる手を払いのけようとしてかわされ相手を睨みつけるもレン兄さまのニヤニヤ顔は変わらずアレンがピリピリしている。
珍しい光景に目が離せないでいるとコホンとナターシャ様が小さく咳払いをした。
「レン、ふざけるのはそれくらいにして」
「はい姉上」
くるりとナターシャ様の方を向くとレン兄さまは表情を引き締めた。
アレンが苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「すでにアディリシアを診てくれたのでしょう?どうだったのか教えてちょうだい」
「ええ、先ほどは緊急だった為に応急処置をしただけなのであとでまた診察しますが……あの娘の症状は“女神の口づけ”で間違いないでしょう」
「緊急って何があったの」
「女神の口づけ?」
ナターシャ様と私の声が重なった。
そして二人して顔を見合わせた時、コンコンとノックの音が響く。
返事をしてすぐに扉が開きお父さまとマリおばさま、アートおじさまにセドリックおじさまが入って来た。
アディリシアが倒れた知らせを聞いて駆けつけてくれたのだろう。
「おと……」
「ルディ!会議の時はよく頑張ったね立派だったよ!午後もなんだか大変だったそうじゃないか大丈夫かい」
お父さまへ駆け寄ろうとしたところアートおじ様が目の前に迫っていた。
眉尻を下げて心配してくれる顔はいつものアートおじさまだった。
「ア、アートおじ様ありがとうございます。大丈夫ですよ」
「本当に?無理しているんじゃないか」
「本当に大丈夫です。会議の時は立ち会ってくださってありがとうございました」
改めてお礼を伝えるとアートおじ様がギュッと私の手を握りしめる。
「怖かっただろう、後は私たちに任せて心配しなくて良いからね」
「おじさま、ありがとうございます」
「アート離れろ」
「そうよ、私に代わりなさい」
お父さまが割って入ろうとするもマリおば様がアートおじ様を押しのけて私の肩を抱き寄せた。
「本当嫌な思いをさせてしまったわね」
「マリおばさま、私は大丈夫です」
心配してギュッと抱きしめてくれるその肩越しに少し戸惑っているお父さまが見えた。
完全に出遅れている。
「……私の娘なんだが」
小さな呟きはアートおじ様とマリおば様に届いてないようだった。
不器用なお父さまらしくて思わず笑みがこぼれてしまう。
そして何故かレン兄さまが若干引いていた。
こちらの過保護もレン兄さまの姉びいきに負けていない。
ゾーイ様がこの場にいたら苦言を呈していたかもしれない。
「や、やぁレンフェウス。久しぶりだね、君が来てくれたなんて会えて嬉しいよ」
空気を呼んだセドリックおじ様がスッと前に出た。
けれどレン兄さまは不機嫌そうな顔を隠しもせずに視線を逸らしている。
「ふん、俺は嬉しくない。姉上の為に来ただけだからな」
「レン、いい加減仲良くしてくれないかしら私の旦那様なのよ」
「姉上と結婚するという幸運を得た男になぜ俺が優しくしてなどなれません」
「もう何年たっていると思っているのよ」
「何年たとうが許せるものではありません」
「……あなたも早くお嫁さんを見つければわかるわ」
ナターシャ様が諭すもレン兄さまはムッとしたままセドリックおじ様に冷たい視線を送っていた。
どうやらレン兄さまは独身らしい。
私はマリおば様から離れるとそっとアレンに話しかけた。
「なんだか大変そうね」
「うん、昔からこうなんだけど……なんだか父上が未来の自分に思える気がするよ」
「そうなの?ならアレンの結婚相手は一人っ子か女姉妹の相手を探した方がいいかもしれないわね」
「……ハハハ」
アレンが乾いた笑いを浮かべたところで、お父さまが近くへと来てくれた。
固い表情のお父さまににっこりと微笑んで見せる。
「お父さま、お疲れ様です」
私はお父さまの前へと身を寄せた。
会議での事、アディリシアの事など言いたいことが押し寄せて戸惑っているとお父さまが手を伸ばして私の体を包み込んでくれた。
「ルディ、いろいろと大変だったな」
気遣う声音にジンと胸に暖かさがこみ上げて緩く首を振った。
私が退出したあの後の事とかいろいろ聞きたい事もあるけれど、それは今ここで話すことではないだろう。
アディリシアの為に来てくれているレン兄さまには関係ない事だから。
「お父さま、あの」
「ああ、後でゆっくり話そう」
言いたいこと察して、お父さまがゆっくりと身を離してくれた。
最後にそっと頭をひと撫でしてくれた事がなんだか嬉しい。
ふにゃりと顔が緩むのが自分でもわかった。
「くそう、鉄仮面のくせに」
「仕方ないわ、アート。父親らしくなってきて良かったと思いましょう」
「改めて、弟を紹介しても良いかしら。以前会ったことはあると思うのだけど」
ナターシャ様が伺うように話し出した。
主にアートおじ様たちに問いかけている様に思える。
正式な身分で応対するのかどうかという事だろう。
けれど先に動いたのはレン兄さまだった。
「いつも姉上がお世話になっております。弟のレンフェウスです。どうぞレンとお呼びください」
「……こちらこそ、いつもナターシャには助けられていますわ。“ルディアのおば”のマリと申します」
「私は“ルディアのおじ”のアートだ、私たちの事は気軽に呼んでくれ。それと砕けた口調で構わないよ」
「はい、ありがとうございます。宜しくお願い致します」
レン兄さまが礼儀正しい。
そしてアートおじ様とマリおば様は取り敢えず私の親戚という事にするらしい。
お父さま以外みんな不自然なくらい笑顔だ、私も同じ様に笑って場をやり過ごすことにした。
「ちょうど保護者も揃いましたし、改めて話をしましょうか」
レン兄さまが仕切り直すようにパンと手を叩く。
直ぐにお父さまたちの分も席を整えてもらい、私たちはアディリシアの事について改めて話すことにした。




