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第七章 06

 

「押しの強い方で困っていたらゾーイ様が間に入ってくださったの。結局その花はデニス様が持ち去られたのだけど」

「そんなことが……ルディごめん、一人にして怖い思いさせたね」

「別に怖くは……驚きはしたけれど」


 デニス様は私の周りにはいない変わった人だなという印象だ。

 私の周りにいる男性なんてアレンはともかく表情の乏しいお父さまや穏やかなモーリスに料理長のジャンくらいなのだけど。


「銀の植物が無いわけじゃないけれど稀少なものだし、手にしただけで花が咲くとなると確かに造られた花だと考えて良いと思います。見てみないと確証はありませんが」

「ルディア嬢、他に特徴はなかったか」


 特徴と言われてもほんの一瞬の事だったのでそこまで観察はしていなかった。

 何か特徴はあっただろうかと必死で思い返す。

 蕾だった花を私が手にした瞬間に花開いたことしか印象に残っていない……


「そうだわ、アレンのポップコーンフラワーに似ている気がします!」


 閃いたとばかりに嬉々として伝える。

 見た目や形状が違うけれど先日アレンが持って来てくれたポップコーンフラワーに感じよく似ていたのだ。


「ポップ……?何だそれは」


 聞きなれない言葉にゾーイ様とオズワルドが不思議そうな顔をしている。

 種を持っていれば良かったのにと今持ち歩いていないことが悔やまれる、家にいる時はいつも持っていたのに。


「ポップコーンフラワーです。魔力を与えると……開く花です」

「……ええと、戯れに僕が作ったものなのですが」

「アレンは今日持っていたり……」

「残念ながら」


 ひらひらと両手を晒してからアレンがポップコーンフラワーについて説明する。

 イメージの伝え方が上手いので二人もどんなものか想像ついたらしい。

 そして思い出したことがあるとアレンが話を続けた。


「半年ほど前に魔術院から銀鉱石を大量に依頼された覚えがあります」

「銀鉱石?」

「鉱物の一つだよ。鉱物類も薬になったり独自の効果を持っていたりするから薬術院で採取しているんだ」


 聞きなれない言葉にアレンへ問いかけると分かりやすく教えてくれた。

 鉱物というと宝石が浮かぶけれどそういった物だろうか。


「銀鉱石の効果の一つに魔力を引き寄せる効果があったな」

「はい、ポップコーンフラワーのあの仕組みは古い文献にあったものを僕がアレンジして造り出したものですが薬術院の者はほとんど知っています。それと銀鉱石を掛け合わせたのでしょう」

「ルディア嬢、奴は何か言ってなかったか」


 何か、そう言えばゾーイ様が現れる直前に咲いた花に驚いて何か言っていた。

 上手く聞き取れなかったその言葉を、目を閉じて思い返す。


「確か……色はともかくこの花弁の数は……とか、アスターフォード家のご令嬢、みたいな事を言っていたような」

「それってさ、つまりニコロディがルディ嬢の魔力を使って銀の花を咲かせたってこと?」


 サラリとオズワルドが言った言葉にハッと気付く。


「そうなる、のかしら」

「そうなるだろうね……同じ原理ならだけど」


 デニス様の魔力で花を咲かせたのなら確かにそんな言葉は言わないはずだ。


「ふむ」


 ゾーイ様がしばし考え込む。

 そして私たち三人が見守る中、ゆっくりと口を開いた。


「だとすれば、魔力を測られた可能性があるな」

「はい?」


 魔力を測る?

 意味が分からず首を傾げてしまったが、アレンは何かに気付いたらしい。


「ゾーイ殿が気掛かりだったのはそう言うことですか?」

「ああ。ニコロディは不穏な行動が多く、要注意人物とされていた」

「それって例のアレがらみのやつ?ってことはヤバいんじゃないか」


 今度はオズワルドも話の意図に気付いたらしい。

 相変わらずよくわからない私は困惑して三人の会話を聞いていた。

 置いてけぼりのような気持ちでいると私の様子に気付いたアレンが苦笑しながらも説明してくれた。


「例の団体にルディが目を付けられたかもしれないって話をしているんだよ?」

「どうして私が目を付けられるのかわからないのだけど」


 例の団体と言うのが魔力信仰の“狂信者”たちの事だというのはわかる。

 デニス・ニコロディ様がその一員であるのだろうという事も。

 でも私は魔術院に属しているわけでもないし、大した魔力も持っていない。


「……ルディ嬢は箱入りのお嬢様だからなぁ」

「オズワルド、ルディの事をそんな風に言うのはよせ」

「怒るなよアレン。それとルディ嬢にさっき言ったろ?貴族の中でも魔力持ちは少ないんだって」

「でもいくら魔力が少しあっても私はたいして使えないわ」


 少し呆れた様なオズワルドのセリフに言葉を返すとアレンが詳しく説明してくれた。


「ルディ、おそらくだけどその銀の蕾は魔力によって咲く花が違うんじゃないかな。ニコロディの言葉を推察すると花弁が魔力量を示すとか。実際に使えるかどうかは問題じゃないのかもしれないよ」


 実際に使えなくても魔力さえ持ってたら良いという事だろうか。

 確かに魔力持ちを探すなら貴族を当たればみつかるだろうけど。


「魔力持ちの頭数が欲しいのかしら」

「確かにやつらは徐々に信者を増やしている。だが今まで社交界に顔を出していなかった歴史ある貴族の令嬢が現れ魔力持ちとわかったらどうする?」

「ど、どうするんですか?」

「祀り上げるに決まってるだろ、古の魔力持ちの貴族様だぜ」


 オズワルドが言うとどうも茶化されている気がしてしまう。

 思わず苦笑が漏れてしまった。


「それは大袈裟よ」

「君はもう少し自分の家系を重く考えた方がいい」

「ゾーイ殿の言う通りだよ」


 アレンもゾーイ様も真面目な表情で大袈裟だと思っていないようだった。

 狂信者たちの事をあまり知らない私よりこの三人の方が状況をわかっているのだろう。

 だとすればゾーイ様が何をそんなに警戒していたのか、やっと気付いた。


「ゾーイ様はそれで心配なさってくだったのですね」

「すまない……事情も説明せず少し焦り過ぎたかもしれない」

「いいえ、ありがとうございます」


「ルディア嬢になにかあれば兄弟が悲しむ、ニコロディや怪しい男に近づかないよう気を付けて欲しい」

「わかりましたわ」


「何かあったら僕たちに直ぐ言うんだよ」

「ええ、そうするわアレン」


「知らない奴から物を貰わないようにな」

「…オズ、子供じゃないんだから」


 三人とも社会に不慣れな私を心配してくれているのだろう。

 きっともうデニス様から声がかかることもないだろうけど気を付ける事にしよう。

 それにしても銀の花とは手の込んだことをする。


 ポップコーンフラワーと銀の花。

 魔力を与えて開く花と魔力を吸い取って開く花。

 同じ様な効果を伴っていてもその印象はだいぶ違う。

 相手の意思を無視して魔力の有無を測るなんて本来許されることではない。


「そう言えば、俺その銀の花を見たことあるかもしれない」

「オズ、どういう事だ?」

「デニス・ニコロディってあの気障な魔導師だろ?夜会とかでもどこかの令嬢たちに声かけて渡していた気がする。ナンパの小道具かと思ってたんだけどさ」

「令嬢たちを取り入れようとしているのか、または別の思惑があるのか」


 私が思うよりも狂信者たちの行動は深刻なのだろう。

 信者を増やしていったいどうするのだろうか。

 王宮の方でも動向を観察し対応を検討しているらしい。

 アートおじ様やお父さまにとって頭の痛い問題なのかもしれない。

 これ以上考えても仕方ないと、一先ず話を打ち切る事にした。


 重い空気になってしまった事に気を利かせてゾーイ様とオズワルドは散歩を促してくれた。

 二人は用事があると言うのでアレンと二人広い庭園をのんびりと歩く。


 その際にすれ違う人の中にアレンの知り合いがいると彼が声をかけて丁寧に紹介してくれた。

 本来の目的であった人との交流に気持ちを切り替えて挨拶を返す。

 気掛かりはあれど、何人かと挨拶を交わして歩いているうちにゆっくり周りを見る余裕が出来た。

 新しく人と知り合いになると言うのは思いのほか大変だけれど楽しくもある。

 様々な年齢の様々な人がいて面白い。


 中には心無い言葉をかけてくる人もいるけれど…


「あら、あなたが引きこもりのご令嬢?」

「随分と出遅れてしまいましたわね」

「わたくしだったらお母さまが亡くなっても貴族の令嬢として毅然と社交の場に参加致しますわ」


 そんなご意見をくださるご令嬢方はだいたいアレンの友人のパートナーでご友人たちが気まずそうにしていることに気付いていない。

 おそらく悪気はないのだろうけど失礼だ。

 だけども事前にナターシャ様や虎の巻でこういった場合の心構えをしている分、備えてある。


「ご意見ありがとうございます」


 笑顔でニッコリとそう言えば話はそれで終わるのだから。

 その後はアレンが「ではこれで」とさよならを告げて移動するのがだんだんパターンと化していた。


 しかし心構えをしていても備えていても胸のウチにモヤモヤは溜まっていく。


「なんかごめん」

「アレンが謝ること無いわ。あなたのご友人方はとても気を遣ってくれていたもの。それに私は出遅れてしまったことを後悔なんかしないわ」

「ルディ」

「あの時はお母さまが最優先だったしその後も弟妹が最優先だったもの」


 その時の最善を選んで行動したのだ。

 私は家族が一番大事だから。

 消化しきれず残る悔しさを収めようと深く深呼吸するとアレンの暖かい手が私の右手を取る。


「気晴らしにこの先にあるバラ園を覗いて行こう」


 手を引かれ迷路のような生垣を抜けて向かうバラ園。


 既視感を覚えるその道のりは幼い時にアレンと出会った頃を思い出させた。

 

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