第七章 05
「魔道具、ですか?」
長閑なガーデンパーティーに似つかわしくない言葉に暫く呆然とする。
魔道具と言えば日常で使用する生活魔道具が浮かぶがあのような植物の魔道具があるのだろうか。
「ご歓談中失礼致します。ブローセン公子、王妃殿下がお呼びでございます」
「「!」」
いつの間にか近くに来ていた侍従が静かに声をかけたがビクリとアレンだけでなく私まで肩を震わせてしまった。
呼んでいると言うマリおば様の方を見れば広げた扇で口元を隠し、じっとこちらを見ている。
「あの、お呼びなのは私ではなくて?」
「いえご令嬢ではなくブローセン公子をお呼びです」
「……早く行った方が良い、あれはお怒りだ」
「はい……行ってきます」
様子を察したゾーイ様に促されてアレンはどことなく緊張をはらんだ様子で侍従と共にマリおば様の所へと向かった。
「何やらかしたんだアレンは」
「大方想像つく、今日は君についているはずだったのではないか」
「そ、そうですけど」
もしかして私と一緒に居なかったことを怒られてしまうのだろうか。
「君に対しての過保護者の代表格だからな王妃殿下は」
「わ、私も行って弁明してきます」
「待て待て待ちなって!ルディ嬢が行ったって変わらないよ」
「大人しく待っている方が話が早い」
「……そうでしょうか」
でもアレンに申し訳ない。
気を利かせたつもりとはいえアレンが令嬢たちとおしゃべりに興じていても側にいるべきだったんだわ。
「そう言えば子爵はベルとアディに魔術を教えられているんでしたっけ」
反省してシュンとしているとオズワルドが話を変えるようにゾーイ様に声をかけた。
弟妹の話に私も顔を上げる。
「ああ、君はベルグラントとその兄に武術を教えているんだったな」
「はい。兄の方がカイトと言ってベルの三つ上なんですけど貴族の子息とは思えないくらいやんちゃなんですよ。おっとルディ嬢の前では失言だったかな」
「もう、あなただって貴族の子息とは思えない振る舞いがあるじゃない」
オズワルドはわざと茶化して言っているのがわかったので怒る気もしないが軽口に乗って返す。
こう見えてオズワルドだって立派な男爵家の一員だ。
「俺も子爵を見習わないとな。これからよろしくお願いしますよ、同じ弟子を持つ者として」
「……ああ」
改めて思えばうちの弟妹たちはすごいのかもしれない。
魔術院でも一目置かれている魔術師のゾーイ様に見習いとはいえ騎士団のオズワルドに師事しているなんて。
「お二人に感謝します。どうぞこれからも弟と妹をよろしくお願いしますね」
「ああ」
「任せとけって」
誇らしい気持ちで感謝の意を示すと二人とも笑みを返してくれた。
和やかな空気を堪能しているとふと先ほど気になった事を思い出した。
「あの、ゾーイ様も私たちと同じく大気を操れるのですか?」
「どういう意味だ」
「先ほど私が転んだ時に風の魔力を使ってくださいましたでしょう?魔力は家系で属性があると聞いています。アスターフォード家は大気を、アレンは植物を操るのに長けておりますし……」
オズワルドも何か魔力があるのかなとチラリと視線を送るとオズワルドは両手を上げて苦笑いを浮かべた。
「俺はほぼ魔力無しだから。…って今の時代、俺が普通だからな。魔力持ちが多いアスターフォード家が異常なんだからな」
「何も言ってないじゃない。あなたは武術があるんだから、それも凄いことよ」
「……ルディ嬢は調子が狂うな」
オズワルドはポリポリと頭をかいた。
「ごめん、お待たせ」
やっと戻ってきたアレンはどこかくたびれた様子だった。
オズワルドが労わるようにその肩を叩く。
「お疲れさん。何を言われたんだ」
「……いろいろと至らぬ点を……ご指導いただきました」
「やっぱり私のせいで何かをお叱りを受けてしまったのではなくて?」
「違うよ、ルディのせいじゃない。だから気にしないで」
「でも……」
「それよりゾーイ殿、話の途中でしたよね」
「ああ、その前に少し場所を移そう」
思いの外、周りの視線を集めていたらしく場所を移動する事になり探しているとちょうど木陰になった部分が空いていたのでそこへ向かうことにした。
「ついでに何か飲み物頼んでくるよ」
オズワルドが給仕の侍従に声をかけると素早く侍従・侍女たちがミニテーブルを運んできてくれて飲み物と軽食を並べてくれた。
さすが王宮勤めは動きが早い。
飲み物をいただいて一息ついたところでゾーイ様が話し出した。
「先程の話の前にルディア嬢の質問に答えよう」
アレンが席を外していた時の話だったのでかいつまんで内容を伝えてからゾーイ様が続きを話してくれた。
「家系に基づく考えがあるのは理解しているがそれは相性が良いというだけだ。魔力が有る者は使いこなすのに得て不得手があるにしろ意志が明確であれば大抵の属性は扱える」
ゾーイ様は人差し指を立てると指先にポッと小さな炎を灯した。
「「「!」」」
驚きと突然の魔術に焦るが周りに人気が無かったのとほんの一瞬だったので幸いにも気付いた人はいないようだった。
ゾーイ様は何事もなかったような顔で話を続ける。
「この時代、魔力を多く持つ者は少ない。それゆえに扱える属性が相性の良いものに限られてしまう」
「相性の良い属性が家系に結びついてきたから一族で一属性と思われているのですね」
不得手なものよりも得意なものを使いこなす方が良いに決まっている。
その魔力が、その血となって繋がれるなら家系に繋がったのも分かる気がした。
「そう言うことだ、理解が早いな。まぁこういった事は魔術師にでもならない限り必要の無い事だからな」
「魔力を多く持つ弟たちは色んな可能性があるのですね」
お父さまはベルグラントとアディリシアを先祖返りかもしれないと言っていた。
大魔法時代から続くアスターフォード家の血がこの時代に現れたのには意味があるのだろうか。
「だからこそ、末恐ろしいとも言う。魔術師になる道は有望だがそうでないなら、諸刃の剣とも言える」
「でも、騎士や文官の方でも魔力をお使いの方はいらっしゃいますでしょう?」
「だとしてもそう魔力は多くない。あの子たちの様な魔力はある意味“異常”だ。ともすれば脅威ともなる」
脅威という言葉に背筋がヒヤリとした。
「……ちなみにゾーイ様と比べてあの子たちの力は」
「断然上だ、測定してみなければ明確にどれほどかはわからないが」
ゾーイ様がそこまで言う力があの子たちに?
信じられない思いで私たち三人は言葉を失っていた。
「魔力は女神の賜り物だ、それを忘れては魔力に溺れてはならない。魔力で支配する時代など過去の戦争の時だけで充分だろう」
大魔法時代に起きた魔力戦争。
いまやおとぎ話とすら思われている歴史が本当にあったことを貴族の者ならみんな知っている。
あの子たちが持って生まれた魔力で苦しむことのないように守りたい。
「ゾーイ様、改めてあの子たちを引き受けてくださってありがとうございます。どうか正しく導く為にお力を貸してください。アレンもオズもお願いします」
「及ばずながら努めたいと思う」
「もちろんそのつもりだよ」
「任せておきなって」
心強い言葉に彼らに出会えて良かったと心から思った。
「そこで本題に戻るが」
「銀の花の事ですね、それについて伺っても良いですか」
話を戻したゾーイ様に察し良くアレンが答えた。
そうだ、その話をするためにアレンを探していたのだと弟妹の事でいっぱいだった頭が切り替わる。
ゾーイ様が魔道具と言った銀の花。
「ルディア嬢、どんな花だったか説明してくれ」
「は、はい」
私はデニス・ニコロディ様と遭遇した所から話し始めた。




