第七章 04
「ルディ嬢!」
「オズ」
アレンを探す中、オズワルドが元気よく手を上げて声をかけてきた。
屋外で会う彼はいつも溌剌としている。
「一瞬誰かと思った!そういった装いも良いじゃん」
「ありがとう、オズも素敵よ」
「どーも、畏まるのは苦手なんだ……ってローグ子爵?」
駆け寄って来てくれたオズワルドが私の隣にいるゾーイ様を見て驚く。
そう言えば魔術の授業を受けているとは話したものの師事しているのがゾーイ様とは伝えていなかったのだった。
「ええと……実はゾーイ様がベルとアディに魔術を教えてくださっているの。ゾーイ様、彼は弟たちに武術を指南してくださっているオズワルド様」
「ゾーイ・ローグだ、君のことはベルグラントからよく聞いている」
「オズワルド・ロペスです。子爵にお目にかかれて光栄です」
キラキラと尊敬の目でゾーイ様を見つめるオズワルドと力強い握手を交わすゾーイ様。
微笑ましい光景にほのぼのしてしまったけれど、そうだ人を探していたのだった。
「ねぇオズ、アレンを見かけなかった?」
「アレンならさっきルディ嬢を探していたぜ」
「本当?」
「どの辺りだ?」
リアラ様たちとのお話は終わっていたのかしら。
軽く見渡すも先程の場所辺りにはアレンの姿は見つからない。
「ああ、あいつならあっちの方に居たけど多分またどこかの令嬢たちに囲まれているんじゃないかな、っておーい」
「ゾーイ様っ」
オズワルドが言い終わるより早くゾーイ様は歩き出した。
慌てて追いかけるとオズワルドも一緒について来る、もちろん早歩きで。
「何かあったのか」
「あったというか、私もよく分からないのだけど……ゾーイ様がアレンに話を聞く必要があるって仰っていて。それよりアレンっていつもそうなの?」
「うん?」
「その……ご令嬢たちに囲まれるの」
「ああ、入れ代わり立ち代わりね。あいつも愛想は良いからなぁ。ご令嬢たちも話しかけ易いんだろうよ」
「そう、人気があるのも大変ね」
「全くな、それで本命逃がしてたら世話ないぜ」
「?」
「いや、こっちのハナシ」
そう言うとオズワルドは前を歩くゾーイ様に向かって足を早めて行く。
二人とも歩くのが早い、追いつこうとして自分がまだ空の皿とグラスを手に持ったままだったのを忘れていた。
ちょうどすれ違おうとしていた侍女に声をかける。
「ごめんなさい、これをお願い出来るかしら」
「はい、お嬢様」
侍女に空の皿とグラスを手渡して身軽になると随分と歩きやすくなったけれどその間もゾーイ様とオズワルドはぐんぐん足を進めていた。
慣れない靴とドレスでいつものように上手く歩けない。
「二人とも早いわ」
控えめ抗議の声を上げつつ精一杯歩くのを早めているとうっかり蹴躓いてしまった。
「あっ」
躓いた瞬間に上がった声にゾーイ様とオズワルドが振り返る。
倒れると思った瞬間、前方からふわりと一陣の風が吹いて倒れる勢いを抑えポスンと膝を着いた。
「あれ?」
今の風……
私は何もしていないけれどあれは明らかに魔力で起きた風だ。
「大丈夫か?」
「ごめんな」
「ええ、大丈夫よ」
ゾーイ様とオズワルドに左右の手を取られて立ち上がるとゾーイ様がドレスの埃を払ってくれた。
初めて会った時に私がやったように魔術を使って。
「すまない、気を急き過ぎた」
「いいえ」
「痛いところは無いか」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
「へぇ……ゾーイ様って意外と気遣い出来るんですね」
「オズワルド、どういう意味だ」
感心したように言うオズワルドをゾーイ様がギロリと睨みつける。
オズワルドは慌てて首を振った。
「いやいや深い意味はなくて、ゾーイ様って言えば孤高の魔導師と異名を持ってるじゃないですか」
「なんだそれは」
「そうなの?」
「あれ?ここだけ知名度低い?まぁいいか」
孤高の魔術師、確かにピッタリな二つ名である。
きっとアレンにもあるだろうから後で教えてもらおう。
「居たぞ」
増えてきた招待客たちの中アレンを探しているとゾーイ様がやっとその姿を捉えた。
足を止めたゾーイ様の視線の先には予想通り沢山のご令嬢たちに囲まれるアレン。
あそこだけ空気がキラキラしている。
「眩しいわね」
ひっきりなしに飛び交う声にアレンは笑顔を崩さず答えていく。
余所行きのアレンはあんな感じなのかと少し新鮮だった。
「ありゃ自力で抜けられそうもないな、呼んで来るよ」
オズワルドがアレンを連れ出しに令嬢たちの群れに近づいて行く。
少し離れたところでそれを見守っていると、近寄って行くオズワルドに気付いた令嬢たちが賑やかになりみるみるオズワルドも囲まれて行く。
「あら?」
「木乃伊取りが木乃伊になるとはこの事だな」
「どうしましょう、私が行ってきましょうか」
あの大人数の令嬢たちの中に割って入るのはちょっと勇気がいるけれど。
「いや、大丈夫だろう」
アレンの所まで到達したオズワルドが何かを耳打ちしてこちらに視線を投げるとアレンの視線もそれを追い、目が合った。
ただ、二人ともしきりに令嬢たちから声をかけられて賑やかその輪から抜けるのは大変そうだ。
「……ルディア嬢」
「はい?」
「先ほど転ばせてしまったせいだな、リボンがずれてしまっている」
「えっ本当ですか」
「すぐ直りそうだ、じっとしてろ」
向かい合ったままゾーイ様が腕を伸ばしてリボンに触れる。
後ろを向いた方が良かったかなと思いつつ少し下を向いて終わるのを待った。
すると急に令嬢たちのざわつきが増す。
「ご令嬢方、申し訳ありません。お話したいのは山々ですがこの場を辞す事をお許しください」
令嬢たちの声に負けないようにか少し大きなアレンの声が聞こえ、顔を上げるとアレンが令嬢たちの群れを割ってこちらに向かって来ていた。
その後をついてオズワルドも戻ってくる。
「さっきよりはマシになっただろう」
「あ、ありがとうございます」
ゾーイ様の手が離れた途端、やってきたアレンが頭を下げた。
「ルディ離れてごめん。一緒にいるっていったのに」
「そんな、大丈夫よ」
「でも」
なんだか珍しく怒ったような顔のアレン。
責任感の強い人だからマリおば様から頼まれたのもあって気にしているのかもしれない。
「私も離れたりして悪かったわ、だからそんなに怖い顔しないで」
「怒っているのは自分にだよな。決断するのが遅いんだよ」
「オズ、意地悪言わないで」
「いや、オズの言う通りだ。当たり障りなくやり過ごそうとした自分に腹が立つよ」
「もう腹くくったんだろ」
「ああ、いい顔をするのは止めだ」
「ちょっと待って、社交界ではお愛想も大事だって虎の巻に書いてあったわ」
「いいんだ、これからは優先順位を間違えない」
「優先順位?」
何かを決意したような言葉に首を傾げると様子を見ていたゾーイ様が口を開いた。
「そろそろ本題に入って良いか」
「ゾーイ殿」
側にいたのがゾーイ様だと、今気付いたのかアレンが驚く。
ゾーイ様は呆れたようにため息をついた。
「君はルディア嬢しか目に入らないのか」
「申し訳ありません」
「もう少し余裕を持つんだな」
「はい」
「違うんですゾーイ様、アレンは王妃殿下から私の事を頼まれていたので」
「いいんだルディ」
「まぁまぁ三人とも落ち着いて。話が進まないだろ」
微妙な空気を変えようとオズワルドが明るく割って入った。
こんな時のオズワルドは頼もしい。
「そうだわ、アレンあなたに聞きたい事があったの」
「僕に?」
「君は銀色の蕾の花を知っているか」
私に代わってゾーイ様が尋ねる。
「銀色の蕾の花ですか?」
いまいちピンときていないアレンにゾーイ様は言葉を続けた。
「おそらく、魔導具だと思う」
その言葉にアレンだけでなく私とオズワルドの表情も驚きに変わった。




