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第五章 05

「ルディ姉さまに近づくな!」


 両手を広げてまるで私を庇うかのように立つのは探していたチェスター王子。

 走ってきたのか荒い息でキッとアレンを睨み付けていた。


 突然の乱入者に驚くアレン。

 だが直ぐにハッと気付く。


「黒髪で色白の……もしかしてルディが探してた、男の子って」


「姉さまご無事ですか」

「チェスター!」


 私を心配してくるりと振り返ったチェスター、思わずその小さな肩をギュッと掴んだ。

 少し泣いたのか目尻に涙の跡が光る。


「ごめんなさい、私何かあなたを傷つけるようなことを」

「ち、違うんです! 私が未熟だったのです。もしかして……心配してくださったのですか」

「当たり前じゃない! 怪我とかしてない? 大丈夫?」

「大丈夫です、お姉さま。それに父上とライル兄さまが直ぐに来てくれましたし」


 ほら、と

 チェスター王子の視線の先を辿ると追いかけて来たライルとアートおじ様が姿を現した。


「姉上? と、アレン様?」

「あれ? なに? 今どういう状況かな?」


 二人とも私とアレンがいる事に驚いた顔をする。

 そうだ、アレンだ。

 一瞬意識から外れていた存在を思い出すと同時にさっきの至近距離の顔が頭をよぎり、頬が熱くなる。

 なんだか居たたまれないのはきっと照れくさいからだ。

 思考を振り払おうとぶんぶんと頭をふると訝しげな視線をチェスターが向けていた。


「ルディお姉さま、この人に何かされたりはしていませんか?」

「さ、されてないわ」

「でも」

「コホン、人聞きの悪い事を言わないでくれるかな…」


 じろりと睨むチェスター王子の敵意にさすがのアレンも苦い顔をしていた。

 早く誤解を解かなくてはと身を屈めてチェスター王子に視線を合わせた。


「彼は、髪が木に引っ掛かったのを取ってくれていたんですよ」

「……お姉さまの髪を?」

「はい。それと紹介が遅れました、彼はさっき話していた私の幼馴染みでナターシャ様とセドリックおじ様の息子のアレンです」


「アレン・ブローセンだ、宜しく。もしかして前に会ったことあるかな」

「いいえ」


「……」

「……」


 ニコリと微笑んでアレンを紹介したにもかかわらず何故か二人は微妙な表情でじっと見つめ合っている。

 チェスター王子の誤解が解けてないのだろうか。


「えっと……アレン、こちらはチェスター。マリおばさまの息子よ」

「マリおばさまの?……と言うことは」

「そう、チェスター王子」

「王子はやめてください、あなたの前ではただのチェスターです」

「そうだったわね、ごめんなさい」


 私の片手を両手で包んでチェスター王子は言った。

 大人っぽい仕草に成長を感じて思わず謝ってしまう。

 確かもうすぐ10歳になられるし、お立場もあるからあまり子ども扱いしない方が良いのかしら……。

 でもお忍びの時くらい無邪気でいて欲しいし、まだまだ可愛がりたいけれど……あれ、もしかして私って弟たちを甘やかしすぎ? ……いやでも寂しい思いはさせたくないし……。

 私が悶々と思考の海へと浸っていた時、

 アレンとチェスター王子の不穏な空気は続いていた。


「マリおば様の息子か……昔、遊んであげたことがあったんだけど覚えてないかな」

「さぁ、覚えてないですね」

「昔もルディにやけに懐いていたとは思ったけど。へぇ……そういうこと」

「……あなたには負けない」

「それは……何の勝負かお聞きしても?」

「わからなければいいです。でも余裕でいるのも今のうちですよ」


 なんだか見えない火花が散った後、チェスター王子はパッと私の腕を掴んだ。

 ハッと目が覚めたように我に返る。


「お姉さま! そろそろ戻りましょう。お腹が空いてきました」

「そうね。皆も心配しているでしょうし早く安心させてあげないといけないですね。ところでアートおじさまとライルはどうして遠巻きになさっているのですか」


 さっきから視界の端に立ったままの二人に声をかけた。

 チェスター王子の後から間も無く現れたと言うのに何故か様子を伺うばかりだ。


「いや、なんか面白い事になっているなぁって思って。なぁライル」

「すみません、姉上」


 ニヤニヤと笑うおじ様に少し申し訳なさそうなライル。

 ムスッと怒ったのはチェスター王子だった。


「父上、面白がらないでください」

「父上?」


 アレンは驚いてアートおじ様を見た。

 おじ様はニッコリ微笑みを返す。


「まぁまぁ。さぁ戻ろうか。アレンも一緒にお昼をどうだい?」

「彼はお仕事中ですよ父上、ではアレン様またの機会に。さぁ行きましょう、お姉さま」


 ぐいぐいとチェスターに手を引かれて立ち止まったままのアレンとの距離が開く。

 私は振り返りながら声をかけた。


「アレン、丘の上でピクニックをしているの。もし休憩があるなら良かったら寄って。マリおば様やナターシャ様たちもいらっしゃるから」


 驚いて呆然としたままのアレンにライルが駆け寄るのが見えた。

 気の利く弟だ、きっと上手くフォローしてくれるだろう。

 私はチェスター王子と手を繋いだまま先を歩くアートおじ様を追いかけた。


「ルディお姉さま、先ほどは逃げだしてしまって申し訳ありませんでした」


 改めて謝罪を口にするチェスターに思わず尋ねてしまう。


「気にしないで。でも何が気に障ったか教えて貰える?」

「……上手く言えない、です」


 しょんぼりとうなだれる姿にそれ以上の聞くことはできなかった。

 マリおば様の言う、そういうお年頃というものだろうか。


「ルディが気に止む事はないよ、さっきのはただの子供の癇癪さ」

「父上!」


 ポフポフとチェスターの頭を撫でるアートおじ様。

 チェスターは鬱陶しそうにその手を払った。


「父上の酔っ払い!」

「酔ってなどいるものか、あれしきのワインなんて水と同じだよ。それにしても面白いものを見れたなぁマリにも報告しないと」


 アートおじ様はどうやら酒豪らしい。

 うちのお父さまと良い勝負かもしれない。


「母上に変なこと言わないでくださいよ」

「変なこと言わないさ、見たままを言うだけだよ。ねぇルディ」

「……そんな面白いことありましたかしら」


「……」

「……」


 おじ様の問いに何のことかとキョトンと返せばこの親子は黙り込んでしまった。

 あれ?


「まぁ、ルディはそうだよなぁ」

「気にしないでください、ルディ姉さま」


 ポンポンと両サイドから軽く叩かれる。


 なんだかよくわからないけれど、チェスター王子もアートおじ様も笑っているからまぁいっかと私もつられて笑ってしまった。


 それからすぐにアレンを連れたライルが合流し、賑やか道中となる。

 持たされている携帯食料は味気ないからとお昼を一緒する事にしたアレンは担当する調査が概ね終わっているから時間があるとの事だった。


 三家族揃ったピクニックは賑やかで楽しい事になる予感がした。



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