第五章 03
さっきまで言い合っていたお父さまとアートおじ様は何かわかり合う事があったのか無言の後、2人は頷きあっていた。
そしてワインを手に取って飲み始めてしまう。
「あの2人は放っておいてお茶にしましょう」
「ではご準備を」
マリおば様のその言葉を合図に侍女の方々からお茶を手渡され、色とりどりのお茶菓子が敷布に並ぶ中、持って来ていたバスケットに入ったジャン特性のお菓子も広げた。
最近のアディリシアの好物であるお花の形の焼き菓子も入っている。
アディリシアを膝の上からすぐ隣に座らせて近くの焼き菓子を取って渡したらすぐにパクリと頬ばって微笑んだ。
「美味しい?」
「おいしー」
満面の笑みはまるで天使のようで我が妹ながら愛らしい。
それを見ていたアートおじ様もデレデレと微笑み、お父さまも微か目元が笑っていた。
二人ともグビグビとワインが進んでちょっと心配だ。
「そこの少年たちもお菓子はいかが?」
ナターシャ様が声をかけると遊んでいた男の子たちは一斉にこちらへ駆け戻ってくる。
「さぁみんな先ずは手を拭いてからだよ」
セドリックおじ様が手拭きを配る侍女の方へ行くように促すとみんな素直にそれに従った。
まともな男の人はセドリックおじ様だけかもしれない。
そして手を拭き終わった男の子たちが次々にこちらに駆け寄ってくる。
「ルディお姉さま! お久しぶりです」
「おひさしぶりです」
マリおば様譲りのサラリとした短い黒髪に利発そうな目をした兄弟が元気よく挨拶をしてくれた。
第一王子のチェスター様と第二王子のセオドール様。
様付けは本人たちが嫌がるので外では呼ばないけれど大切な王子殿下だ。
私も姿勢を正して挨拶を返す。
「二人ともお久しぶりです。チェスターはまた背が伸びたようですね」
「はい! お姉さまに追いつくのももうすぐですよ」
嬉しそうに目を輝かせるチェスター王子が可愛くて思わずその頭を撫でれば照れくさそうに目を細めていた。
羨ましそうに見ているセオドール様も手招きして同じ様に撫でてあげる。
「二人とも見ない間に大きくなりましたね」
「でもまだ俺に追い付かないけどな」
「カイト」
茶化すようにカイトが水を差す。
困った事にこの子はどうも年下をからかうのが好きなようだ。
「カイト兄さまは年上ではないですか!年の差は仕方ないのです順番だから。でも大人になったらすぐに追い越しますから」
「どうだかなぁ」
「こら、カイトだって私よりはまだまだ小さいだろう。年上が意地悪を言うものじゃない」
ライルがコンと軽くカイトの頭を小突いて間に入る。
カイトはペロッと舌をだして「悪かったよ」と全然悪びれない様に言った。
私がベルグラントやアディリシアに構い過ぎて手がかからなくなったカイトの相手をあまり出来なかったせいだろうか。
まだ時々こっそり厨房に遊びに行っているみたいだからジャンに相談してみようかしら。
「んっ」
一人考えに耽っているとグイっと口元にお菓子が差し込まれた。
ぐいぐいと押し込んでくる小さな手はアディリシア。
「あ、ありがとアディ」
「おいし?」
「ええ、美味しいわ」
「えへー」
もしかして考え事をしていたのを心配してくれたのかもしれない。
ポンと手に触れたのは可愛くラッピングされた包み紙。
マリおば様たちが用意してくれたお菓子の包みだ。
「ルディお姉さま、このケーキも美味しいんですよ」
「くだものがたくさん入ってます」
チェスター王子とセオドール王子のオススメらしい。
包みをめくり一口齧るとふんわりと優しいスポンジの中にシロップに漬けたドライフルーツが沢山練り込まれていて程よい甘さと歯ごたえがあってとても美味しかった。
「ルディお姉さま、さっき森の中で面白い動物を見かけたんですよ。あとで一緒に見に行きませんか」
「まぁ本当に?どんな動物かしら、でもお邪魔にならないかしら」
のんびりと森の中を散策するのも楽しいだろう。
でも今日はこの丘周辺で薬術院の調査を行っていると言っていたから作業を邪魔してしまわないだろうか。
「セドリックおじ様」
「なんだい?」
「先ほど、この丘で今日は薬術院の方が調査をなさっているとお聞きしたんですけれど……そう言えばおじ様はこちらに参加されてよろしかったのですか」
セドリックおじ様は薬術院に勤める宮廷薬術師の中でも一番上の筆頭薬術師という立場だったはず。
今この場でのんびりお茶をしていて大丈夫なのだろうか。
「うん、調査は新米たちの仕事だから僕は今日お休みなんだ。あと森に行っても大丈夫だよ。さっき僕たちも少し散策したけれどここの近くで調査している人は少なそうだし、もし遭遇しても採取を邪魔しなければ問題ないから」
「そうですか……ではチェスター、あとで行きましょうか」
「はい!」
薬術院の新米たち、つまり見習いさんたちということで……その中に彼もいるのだろうか。
「ライル兄さま、薬術院ってアレン様の働いているところ?」
カイトも同じ事を思ったのかライルに尋ねていた。
「確かそうだったはずだけど、セドリックおじ様。今日はアレン様も来られているんですか?」
もしいるのならお仕事の邪魔をするつもりはないけれど偶然逢えたらいいなと思う。
忙しいようでしばらく会えていなかったから。
「そうだね、来ているはずだよ」
「アレンさま僕も会いたいな」
「な、ベル。後で探しに行こう」
セドリックおじ様の言葉にベルグラントが呟くとポンとカイトがベルグラントの肩を叩いて名案とばかりに言ったがまたしてもライルにコンと頭を叩かれる。
「ダメだよ二人とも、お仕事の邪魔をしてしまうだろう」
「「えー……」」
残念そうな弟たちの声が重なった。
そんなにもアレンと仲良しだったとは。
「アレン様って誰?」
チェスター王子が尋ねた。
「ええと……」
カイトがなんと説明しようか迷っていると答えてくれたのはナターシャ様だった。
「私たちの息子ですわ。ずいぶんと前にご挨拶したきりですから覚えてないかもしれませんね。今は薬術師見習いとして薬術院で働いているのですよ」
「カイト兄さまたちは親しいのですか……ルディお姉さまも?」
「ええ、私はアレンと幼馴染なのですよ」
「それは特別親しいと言う事ですか」
「?そうですね、仲の良い友人です」
「男の人ですよね」
「そうだけれど……」
なんだか険しい表情になるチェスター王子にどうしたのかと首を傾げるもわからない。
視線を動かせば大人たちはなんだか困ったような顔をしていた。
マリおば様はコホンと咳ばらいをして空気を変えるように明るい声を出した。
「もう少ししたらお昼の時間ね」
「そうね、みんなお菓子はほどほどにしておいてね。お昼はとてもすごいのよ」
「楽しみだなぁ」
「エマ、あと30分くらいしたら準備を始めて貰える?」
「畏まりました奥様」
どこかぎこちない大人たちの会話。
黙り込む子供たち。
下を向いているチェスター王子が心配だ。
セオドール王子も気になったのか兄をそっと覗き込む
「兄さま?」
「……しばらく一人にしてください!」
言うがはやいかチェスター王子は急に立ち上がると走り出してしまった。
何事かと呆然とする私たち。
「追いかけます」
「あー……私も追いかけてくるよ」
ライルとアートおじ様が立ち上がりチェスター王子を追って行った。
三人が足早に森へと消えていく。
「どうしたんでしょう……私何か言ってしまったでしょうか」
「ルディじゃないわ。マリ、ごめんなさい」
「気にしないで、そういうお年頃なのよ」
ナターシャ様とマリおば様は何かわかったのかため息をついた。
そして背後に控えるエマ様に小さく声をかける。
「エマ」
「はい。既に二人向かっております」
「そう、悪いわね」
ライルとアートおじ様だけでなく護衛の方が向かったのなら大丈夫だと思うけれど心配だ。
きっと何かがチェスター王子にショックを与えてしまったのだ。
一緒に森に行こうと誘ってくれていたのに……。
走り去る間際、なんだか悲しい顔をしていた。
「……お父さま、アディリシアをお願いします。私も追いかけてきます」
側にくっついていたアディリシアをお父さまに預けて
遅ればせながらチェスター王子が向かった方向へ私も走り出した。




