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第三章 09

 

 廊下の扉を閉めて側にあったチェストをなんとか動かして扉の前に移動する。

 少しは時間が稼げると良いけれど……。


 シスター・ナディアは具合悪そうにしゃがみ込みノーラがその体を支えている。

 アディリシアは静かに私の側に立っていた。察しのいい子だから邪魔しないようにと大人しくしていてくれているのだろう。

 今は私がしっかりしないとと唇を噛み締めた。


「シスター・ナディア、もう少し頑張れますか」

「ええ、でも足手まといになってしまうわ。ルディ様、先に子供たちを連れて行ってください」

「置いていくなんて出来ません。ノーラそっちを支えて」

「はい」

「シスター・ナディアゆっくり立ち上がりましょう」


 両側から体を支えて歩みを促すけれどシスター・ナディアは少し進んだだけでも息を切らせて一歩一歩が辛そうだった。

 ノーラも一生懸命頑張って支えてくれているがこれ以上早く進むのは難しいかもしれない。


 ドンッ


 直ぐ背後の先ほど閉めた扉に音が鳴る。

 ビクリと体が震えた。

 もうそこまで来ているらしい。


「本当に私を置いていってちょうだい」


 シスター・ナディアがかすれた声で言う。


「あと少しで出口ですよ、シスター・ナディア。気をしっかり持って」

「ルディ様の言う通りですよ。頑張りましょう」


 足元の床がギシリと鳴った。

 目指す入り口の扉はもう見えている。

 外に出てしまえば目の前でバザーが開かれているし、カイトが人を呼んでいるのだから直ぐに助けが来るだろう。


 すると見つめていた入り口の扉がゆっくりと開いた。

 外の陽射しが廊下へと広がる。


「まぁ、これはいったいどういう状況かしら」

 

 入ってきたのは私たちを見て驚くナターシャ様だった。


「ナターシャ様!来てくださったのですね!他の方はすぐ来られますの?」

「他の方ってどなたの事?」


 小さく首を傾げて微笑み、こちらへ歩みを進めるナターシャ様。


 その反応に思わず息を呑んだ。


「……ナターシャ様、カイトに、弟にお会いになられましたか?」

「カイトくん?お会いしていないわ」


 すれ違いになってしまったのだろうか。


「そうでしたか……では急がないと」

「シスター・ナディアはお怪我さなれたの?ベッドへお運びした方が良いかしら、ノーラ代わるわ」


 ナターシャ様がノーラと入れ代わって手を貸して下さりシスター・ナディアを支え、奥の部屋の方へと視線を向ける。

 そこには不自然にチェストが置かれた扉。


「ナターシャ様、ダメです外へ……」


 ドガンッ


 私の言葉半ばで再びその扉が叩かれた。

 ビクリと体が震える。


「向こうに誰か居るの?」

「ナターシャ様、お金取ろうとする悪い人がいるんです。シスターもその人に」


 半泣きで説明するノーラの言葉に驚くナターシャ様と目が合い、私は静かに頷いた。


「なんですって」

「奥の部屋からやっとここまで逃げて来たんです。とにかく早く外に出ましょう。今弟が人を呼びに行ってますから」




「その弟ってのかコイツかい?」




 ナターシャ様が開けたままにしていた入り口の扉から当たらな人影とともに声がかかる。

 みんなの視線がそちらへ向くとそこには痩せた帽子の男と太った髭の男がいた。

 そして帽子の男に小脇に抱えられてもがいているのは先ほど送り出した弟だった。


「カイト!」

「んんー!」


 口を布で覆われて声が出せずもがいている。

 仲間が……居たのだ。


「うるぁ!どこだガキども!」


 バキッ ドガッ


 背後で扉が破壊される音が響く。

 きっとあのチェストも直ぐにどかされてしまうだろう。

 外への扉には2人組……挟まれてしまった。


「その子を離しなさい!子供に手を出さないで!」


 ナターシャ様が2人組の男に向かって叫んだ。

 男たちは笑みを浮かべてヘラヘラと笑っている。


「なんか面倒くさい事になってんなぁ、親分も詰めが甘いな」

「孤児院だからって油断してたんだろうよ」


「あなた達、こんな事をして女神様はお許しになりませんよ。もうおやめなさい、事情があるのでしたらお話を聞きましょう」


 シスター・ナディアが諭すように語りかけた。

 だがその言葉に男たちは更に笑い声を上げる。


「女神なんざの許しなんかいらねぇよ。語る話もありゃしねぇって」

「そうそう俺たちは金が欲しいだけなんでね」

「善意の金はかなり集まったんだろうなぁ。俺たちが大事に使ってやるさ」


 不敬な発言にシスター・ナディアが悲し気に首を振る。

 この不届き者たちにまともな言葉など届きはしないのだ。


「あの、ルディ様も先程の妹さんのような事が出来るのですか?」


 ノーラがそっと囁く。


「残念だけど無理ね。しかもさっきは上手く行ったけどアディの魔力も不安定なのよ。だから迎え打つのは厳しいわ」


 現状を打開するには女子供の私たちには難しい状況だ。

 今日はバザーが盛大に行われているから他のシスターも教会から離れているし、訪ねて来る人など皆無だろう。


 まず捕まっているカイトを助けないと。

 少し前に立つアディリシアが心配そうに私を振り返った。


「おねーさま。アディ、ドンする?」

「今は大丈夫よ。……今度はお姉さまの番」


 とは言っても私に出来る事は少ない。

 必死に思考を巡らせているとナターシャ様がそっと私の手を掴んだ。

 そして何か丸いモノを握らせてこっそりと囁く。


「ルディ、それを強く握った後に外に放つことは出来そうかしら」


 外とは今2人の男がいる扉の向こう。

 距離はそう遠くないけれど投げるだけでは届きそうもない。


 ちらりと手の中を見れば渡されたのは緑色の種の様な実だった。

 ナターシャ様は植物の扱いに長けたブローセン家の奥様だ。


 何かはわからないけれどこの実が状況を打開する一手になるかもしれない。

 私は男たちに悟られない様にポケットからハンカチを取り出して構えた。

 ゆっくりと魔力を手繰り寄せハンカチを持つ手と実を持つ手に集める。

 大きな魔力を使うことは出来ないけれどアディリシアが産まれる前に鍛えた魔力は健在だ。


 ふわりとハンカチを風に乗せて背後に飛ばしてから勢い良く扉の前の男たちの顔をめがけて上空を走らせた。


「うぉっ」

「なんだこれ」


 バサバサと顔にかかり飛び回るハンカチに男たちが気を取られている隙に実掴んだ手をギュッと強く握り込み男たちの足元をすり抜けるように投げた。

 届かない距離を魔力で風を送り外へと弾き飛ばす。

 トン……と軽い音を立てて外の芝生へと転がるのが見えた。


 だがその先を見届けるより前に髭の男にハンカチが掴まれてしまった。

 そのまま握りつぶして床に叩きつける。

 こちらを睨んでじわじわと近付いて来る男たち。


「クソッ小賢しい事をしてんなよ、嬢ちゃん」


 苛立たし気に呟かれた声にじわりと汗が滲んだ



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