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第二章 07

 

 朝早くから王宮へ出向いて夜遅くに帰ってくるお父さま。


 次にお会い出来たのはアディリシアの熱が下がって2日後の事だった。

 アディリシアを寝かしつける為に部屋へ向かって廊下を歩いていた時、ちょうど戻られたお父さまとばったり出会ったのだ。


「お帰りなさいませ、お父さま」

「今戻った」


「お、おかえりなさい。おとうさま」

「……ああ」


 私はともかく一生懸命ご挨拶したアディリシアにお父さまは素っ気なく返すと直ぐに立ち去ってしまった。

 アディリシアは私のスカートを握りしめたまま俯いている。


「アディ、上手に挨拶出来たわね」

「……」


 ぶんぶんと頭を振って答えるアディリシア。


「お父さまは今日はお疲れだったのよ。さぁ寝ましょう」


 手を引いても動かないアディリシアを抱き上げると小さな手がぎゅっと抱きついてくる。

 涙で潤む瞳に胸が傷んだ。







「お父さま、お話があります。少しお時間をいただけますでしょうか」


 アディリシアを寝かしつけてから直ぐにモーリスにお父さまが執務室にいることを聞いてそのお部屋を尋ねた。

 お父さまは疲れたように執務机に向かい、手元の資料に目を落としていた。

 少ししてからやっと顔を上げてくれたがその顔は青白く目の下に濃い隈が見えた。


「どうした?」


 無機質な声だった。

 それに以前より随分とやつれたように思う。


「……お父さま、きちんとご飯は召し上がられていらっしゃいますか?顔色が悪いですわ」

「問題ない。用件は?手短に頼む」


 疲れを色濃く残すその姿を心配するも一言で突き放されてしまった。

 淡々とした声に短い言葉。

 本当にお父さまは変わってしまわれたんだと実感する。

 元々表情が読めないタイプではあったけれど、話し方や仕草で柔らかい空気を出していたのに今はまったくそれが感じられなかった。


 空気がどこか張り詰めた様に感じる。

 だが、ここで怯んではいられない。


「お父さま、どうかもう少し弟妹たちとの時間をとっていただけないでしょうか」

「悪いが今は忙しい。ルディア、お前には申し訳ないと思うがあの子たちの事はお前に任せる。何かあればモーリスやハンナに……」

「お忙しいのはわかりますがお顔を見せて一言お声をかけるだけでも良いんです」

「……すまない」


 こちらを見ずに返される感情の無い言葉。


 その心はどこにあるのだろうか。


 以前、同じように問いかけた時はここで言葉を失ってしまった。

 でも今はあの時とは違う。


「……お父さまはどうして私たちを避けますの」

「避けてなど、いない」


「でしたらお顔を合わせるくらい……」

「仕事が忙しいからやむを得ないだけだ、もうこの話は終わりだ。わたしは仕事がある、お前ももう寝なさい」

「お父さま!」


 静かに、だが強く拒絶を含む言葉を受けて私の中の何かが音を立てて崩れた。

 お母さまが亡くなられて、みんな同じ様に痛いほど悲しんだのだ。

 それでもライルもカイトもベルグラントも小さなアディリシアだって寂しい思いをしながらも健気に振る舞っているというのに…。


「仕事、仕事、仕事……そんなにお仕事が大事ですか」

「何を……」


「お母さまが見たらどうお思いでしょうね」

「……っ」


 マリおば様が言っていた通りだった。

 お父さまは悲しみから目を逸らす為に仕事に逃げていると、でもまさか目の前にある大事なものすら見失ってしまうなんて。


 心の中はすでにグルグルと荒れ狂っていた。

 呼応するように私の魔力がふわりと髪をなびかせる。

 強い感情に魔力は刺激されて増幅するというが今ならベルグラントのようにぬいぐるみを躍らせる事だって出来そうな気さえした。


 それくらい、私の感情はお父さまに対する怒りのようなもので溢れていた。


「いいですわ、情けないお父さまに代わって私が面倒見ます」


「ルディア?」


 思いの外、低く出た声にお父さまは僅かに眉をひそめる。

 その顔をキッと睨んで思わず叫んだ。


「私があの子たちの父親と母親代わりになりますからご心配なさらずに!どうぞお仕事に専念してらしてくださいな。ライルは頼りになりますし、日々すくすく育つカイトやベルグラント、可愛い盛りのアディリシアを見ることなく年を重ねたら良いんですわ!」


 言うだけ言って踵を返すと勢い良く扉を閉めて足早にお父さまの部屋を後にした。

 淑女にあるまじき行為だ、でも今は知った事ではない。


 お父さまはお母さまが亡くなられてから本当に情けなくなってしまったようだ。

 あの子たちに寂しい思いをさせない為に私がお母さまやお父さまの分まで愛してあげればいい、そう結論付ける。

 仕事に励むのは結構だけど家の事を疎かにするなんてお母さまは望んで無いのがお父さまはわからないのかしら。


 怒りのあまり足並みもダンダンと力強くなっていた。



 ああ、明日は教会のバザーの日だと言うのに今夜は怒りで眠れそうもない。


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