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三話 なにこれ気持ちい!

 栽培部屋、一時保管部屋の確認を終えた育莉は、”奇跡の卵”と称される祭壇へと向けて足を進めていた。

 祭壇への道のりは思ったよりも長く、薄暗く狭い通路の階段をかれこれ数分は上り続けている。


 すると、ようやく目的地へと辿り着いたのか、視界の先に階段の終わりが映り込む。


「無駄に長かったんですけど……」


 前職では敷地の広い農場内を徒歩で移動していた経験から、多少は足腰に自信があった。しかし、階段をただ黙々と上り続けるというのは、さすがにアスリートでさえ苦痛を伴うであろう。よく頑張った、自分。――と、階段を上り終えた育莉は膝に手を付き、ぜえぜえと吐息を漏らしては所業を成し遂げた己を褒め称える。


 

 息を整え、顔を上げると、そこに広がる摩訶不思議な光景におもわず目を丸くしてしまう。

 なんとも珍妙であるのだ。足場となるべき床が数歩先から途絶えており、どこまで続くとも分からぬ巨大な穴が漆黒の大口を開けている。又、途絶える床の先端には胸より少し低いくらいの石柱が一本伸びており、その天面には何かをめ込める事が出来るのか、小さなくぼみがある。


 だが、育莉が驚た理由はそれとは別にあった。

 先には進めず、下方には何があるとも見えない大穴。しかし、その”上部”にそれがあったのだ。


 一言で言うなれば、宙に浮く巨大な卵。卵と言っても縦に長い楕円形ではなく、球体に近い。その謎の物体は黄金に輝いており、眩い光が辺りを明るく照らしている。それはまるで、宇宙空間に存在する巨大な恒星のように。


『あれは奇跡の卵。ここではスライム属における特殊配合を行えます。得られる効果は大きく分けて”品種改良”、”突然変異”、そして”限界突破”の三つです』


 特異な雰囲気を醸し出すこの部屋では、宙に浮く金色の卵を用いてスライムの配合を行えるようだ。

 育莉は握った拳を下唇に当てがい、真剣な面持ちを浮かべる。摩訶不思議なとんでも機能に、内心興味をそそられたのである。


「詳しく話してちょうだい」

『了解。順を追って説明しましょう――』



 ナビ子の説明によると、こうだ。

 

 まず一つ目、品種改良は二体のスライム属同士による掛け合わせが出来る――、との事。と言っても二体を融合するようなもので、結果的には新たな一体になるそうだ。そして生まれたスライムは親のアビリティやスキルを受け継ぐ事があるようで、基本的には有能な能力を遺伝させる為に活用するのが主になりそうだ。

 しかし、デメリットもある。アビリティやスキルは確実に受け継がれるとも限らず、又、新たなスライム属として誕生するが為に、個としては別の生物になるらしい。性格はある程度親から遺伝はするものの、当然の事ながら記憶は失われるようだ。


 そして二つ目、突然変異について。スライム属同士を配合させる品種改良とは異なり、なんとスライム属と生物以外を掛け合わせる事が出来るのだとか。

 例えばスライム属と、石や木などを配合させる事により、突然変異体として全く異なる種のスライム属が誕生する。独自のアビリティやスキルを保持しやすく、個としての希少価値が高い傾向に出やすいそうだ。

 しかし、こちらも確実に成功するとは限らないらしい。もとより異なる二つが組み合わさる事自体が奇跡であり、相性というものが存在するようだ。失敗した際は、選択したスライム属には特に影響は無いらしいが、配合素材は消失するそうだ。


 ラスト三つ目、限界突破。これについては、ナビ子も詳細は不明なのだとか。ただ分かる範囲としては、”個のスライム属がある特定の精神条件下において、尚且つ特定の要求アイテムを得た時に起こる進化”――との事らしい。個によって様々な事から条件の推測は出来ないが、限界突破した際は爆発的な潜在能力を宿した個体が誕生するそうだ。



「ふーん、なかなか面白そうじゃない。色々と試してみる価値はありそうね」


 ナビ子の解説をある程度は理解した所で、今後における可能性も同時に広がったのを育莉は捉えていた。

 そして、我が家とも言える拠点の探索も無事終了を迎えた事になる。


「さて、新居の確認も終えた事だし、次は近くのホロニガ村に行ってみたいところではあるけど――」


 そこで言葉が詰まる。踵を返し、振り返った先には例の地獄階段が待ち構えていたからである。下る方が楽な事は分かってはいるのだが、如何せんここまでの経験から「またこれかぁ……」――と、口から自然に愚痴が零れ出てしまう。


 すると、心境を察したのかナビ子から粋な提案が持ち出された。


『お疲れでしたら、スラに騎乗してはいかがでしょう』


確かに、スラに乗る事が可能なのであれば移動は楽だ。しかし、大丈夫なのだろうか。スライムは貧弱だと説明を受けたばかりであり、そもそも私の体重に耐えれるのかと――。育莉はハニカミながらポリポリと頬をかき、視線を右往左往させる。


「いやぁ、私こう見えて結構重かったりするよー?」

『ご安心下さい。マスター権限【安全騎乗スタビリティライド】の効果により、安全かつ安定した騎乗を行えます。マスターの体重でも問題はありません』


 冷静沈着に答えるナビ子に対し、育莉は「否定はしないのね」――と、引き攣る微笑を放つ。


「まぁいいわ。乗れるならそれに越したことは無いしね」


 まるでクッションに座るかの様に、スラの上へと腰を降ろした育莉。


「え、なにこれ気持ちい……」


 スライム独特のその柔らかな弾力が優しく育莉を受け止め、体にフィットするようソファにも似た形へと自然に変化する。


「柔らかーい。少し温かくて気持ちー」



 余程スライムクッションの座り心地をお気に召したのか、足を投げ出すともたれかかる様に深く座り、膝の上にナビ子を乗せては瞳を閉じて極楽気分を堪能しているご様子。

 衝撃を吸収しているのか、段差の連続である階段を下っても振動による不快感を感じない。これは便利だ――と、もはやそのまま眠ってしまいそうだ。



 特大のスライムクッションにその身を任せ、次の目的地――ホロニガ村へと向けて、スラの足を進ませて行くのだった。

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