絶体絶命
「さーてと。悪役が内情を暴露したことだし、定番の台詞言ってみようかな。ごほんっ。全てを知られた上には生かして帰すわけにはいかん! 兵共よ、やっておしまい!」
ドヤ顔に加え、腕をピンと伸ばす動作まで完璧だな。このシーンやってみたかったのが見え見えだ。こんな大虐殺をやっておいて呑気なもんだ。罪悪感はないのか。
それが合図となったようで、兵士たちが一斉に動き始めた。動きは緩慢だがこの数はシャレにならない。
「私はなーんにもしないから、ゾンビ映画並みのアクションを期待しているからね」
ほんっと楽しそうだな楽天。このシーン、ホラー映画で何度か見たことあるぞ。その登場人物に成る日が来るとは夢にも思わなかったが。
「扉はどうせ開かないだろうけど、扉を背にして戦おう」
二人の巫女が黙って頷いたのを見て、扉前に陣取っていたゾンビ兵士二体に撃ち込む。
命中率が上がっているおかげで、狙いから外れているが三発中二発が、一体ずつ兵を捉える。聖属性の弾は下半身に当たり、胸元から下が消滅した。
もう一体は運よく頭を貫いてくれたようで、その場に倒れ伏している。
二体とも体が粟立ち、皮膚や肉、骨すら溶けていく。ゾンビを倒せば体を操っている生物が抜け出てくるかと思えば、そのまま消滅してくれるようだ。
扉の前まで走り抜け、半回転して背を扉に預ける。
視界を埋める死体の群れ。体を激しく損傷しているので、骨や肉が剥きだした。腹から腸が零れている個体もいるな。
(ねえ、ボクも参加しようか?)
(私も……)
「二人とも、リアルゾンビゲームの世界で戦える自信あるか? 試しにテレビちょっとつけて見たらわかるから」
二人の助力はありがたいが、たぶん役に立たない。というか、足手まといになる未来が鮮明に想像できる。
(ひあぅっ。あ、うん、弾丸として頑張るよ!)
(えと、いっぱい撃って……)
だよな。まあ、弾丸として役に立ってくれるだけで充分だ。
操っている者を倒すのが定番中の定番だが、せめてこの銃が正確な射撃が可能で飛距離も充分なら可能性はあるけど、どっちもないからな。
ゾンビを処理しつつ時間を稼いで勇者探索チームの帰還を待つしかない。
命大事に。これを作戦としよう。
「俺が撃ち損ねた敵の処理を頼む!」
「わ、わかりました弐鋲様」
「了解よ。勇者様の為にも頑張らないとね」
キリサもオハイも戦闘力はかなりある。護衛を安心して任せられる。
これだけ敵が密集していれば目を閉じていても当たる。手前の敵から弾丸を撃ち込んでいく。
三発は連続で打てるが、発射された弾が戻ってくるまでロスがあるので、三連発の銃と思った方が良い。
聖属性と水属性の弾丸はゾンビには過剰な威力だな。着弾地点の鎧ごと吹き飛ばしているぞ。
精霊弾は他と違い属性が乗らないのか威力が劣るが、それでも肌が剥き出しの箇所に当たれば一発で倒せる。
これ、完全にガンアクションのあるホラーゲームだな。弾丸が尽きる心配がなく、射程も10メートルまで伸ばしたから、想像以上にやれているぞ。ただ、脳髄や血肉を撒き散らす光景があまりにもグロすぎるが。
何体かは見逃しているが、二人の巫女が連携で処理してくれている。
これだけ撃ち続けているとハーレムヒートのずれ具合もわかってきた。狙った場所から大きく外れるとしても2~3メートルぐらいで上よりも横にずれることが多い。
なので、ゾンビ軍団には殆ど当たっている。威力は聖属性、水属性は今のままでも何ら問題がない。シンリンが入っている精霊の弾丸は、もう少し威力が欲しいところだがそれは贅沢過ぎるか。
強いて言うなら射程がもう少し欲しいところか。残ったポイントとここまでの戦闘でレベルの一つや二つは上がっていそうだから、全てをつぎ込むのもありかもしれない。
「うわー、弐鋲君、生物学的災害ってゲームの主人公みたいでカッコいいよ!」
「声援ありがとうよ! サインならあとにしてくれっ!」
手を振って応援している楽天に軽口を返しておく。絶望的な状況でも、相手が望んでいそうな悲壮な顔をする気は毛頭ない。
謁見の間に繋がる両脇の扉から次々とゾンビが追加されている。っとキリがないな。いい経験値稼ぎだが、もうおかわりは充分だけどなっ!
「キリサ、オハイ、大丈夫かっ」
「はぁはぁはぁ……ま、まだいけます」
「ちょーっと疲れちゃっているけどね」
二人は疲労困憊といった感じだな。もうかれこれ10分は戦い続けている。命の危険がある状況で精神をすり減らしながら全力で戦えば、消耗は半端ないだろう。
その割に俺は結構余裕があるな。疲れてはいるが、まだまだやれる自信がある。もしかして、シンリンに武器を授けた、喜びと豊穣の神の恩恵である回復力の効果が俺にも。
引き金を素早く三回引き、胸ポケットから勇者証を取り出し、心で念じてからざっと目を通す。
柱弐鋲 筒の勇者
魂叫 穴
恩恵 集中力 気 回復力
っと恩恵の項目が増えているな。予想は的中か。
それさえわかればいい。これで体力の温存を考えずに全力で動ける。
巫女の二人の体力を考えるなら、俺がもう少し前に出るしかない。俺の身体能力も結構上がってきている実感がある。少々の無理なら何とかなる……よな。
「二人は下がって、少し体を休めて」
反論を口にする元気もないのだろう、申し訳なさそうな顔で頷き扉に体を預けている。
さーて、ここは俺の望む格好を付けられる場面だ。思う存分、やらせてもらうぞ。
やり取りをしている間に接近していたゾンビ兵士の胸に、次が聖属性の弾丸だと理解した上でぶっ放す。鎧を容易く貫通して、背後にいるもう一体も吹き飛ばした。
次は水属性か。背後に視線も向けずに弾丸を放ち、右側面に迫っていた敵には銃の反動を生かした裏拳を叩き込んだ。
次に近い敵へ狙いを定めずに撃ち込む。一歩退き、弾が戻ったのを確認してから、再び引き金を引く。
銃が体に馴染んできているのがわかる。手足というのは大袈裟過ぎるが、動きの一つ一つにロスが少なくなっている気が。撃鉄を上げ、狙いを定め、引き金を引く。この動作が一連の流れとなり効率よく敵を処理できている。
「思ったより弐鋲君って凄い人なのかな。彼氏にしておけば良かったかもー」
「逃がした得物は大きいってね!」
敵の猛攻が少し止んだ瞬間を狙い、楽天に向けて弾丸を放つ。
今までなら届かない距離だが、さっき能力を確認した際に射程を伸ばしておいた。ギリギリ届く距離になっている。
「きゃっ! もう危ないじゃないの! 王様に当たったらどうするのよー」
あの巨体の影に跳び込み、頬を膨らませて抗議をしている。
何言ってんだか。その王様既に死んでいるだろ。戦いが始まってから微動だにしていないのが何よりの証拠だ。
運よく頭を撃ち抜いてくれたら万々歳だったのだが、そうはいかないか。だけど、彼女が避けた際にゾンビの動きが止まった。彼女の集中力が途切れると、一瞬だが制御が途切れるのか。
ならばと、戦闘中に威嚇射撃を混ぜながら戦うことを検討していると、鼓膜を揺るがす激しい音がした。
「無事ですか王!」
叫ぶログナライ爺さんの大声と共に、複数の足音と共に何十人もの兵士が大広間に流れ込んできた。
やっと来たか。待ちかねていたよ。
「皆の者、王様の身柄を確保せい!」
「うおおおおおっ!」
爺さんの指示に従い、完全武装の兵士たちがゾンビ兵を蹴散らしていく。やはり、探索に出ていたメンバーは腕利きだったようで、敵を圧倒している。
「お主ら、無事じゃったか。遅れてすまぬ。よう耐えてくれた」
骨ばった体で見た目はお世辞にも強そうには見えない老人だというのに、この安心感は何なのだろうか。
「ログナライ様! 弩の勇者様は魔王軍の手の者でした。魅了の魂叫を所持しています」
「何とっ。いや、そんなことが、しかし、この状況が何よりの証拠か。ご苦労だった、オハイ、キリサ」
爺さんは跪き報告をする二人の巫女に労りの言葉を掛け、敵である楽天に向き直った。
あの眼光の鋭さは、いつものとぼけた感じからは想像もつかない殺意が溢れているのが、俺でもわかる。
「楽天様。詳しい話は後程伺いますぞ! 大人しく捕まるのであれば、手荒な真似は致しませんが」
「やだー、拷問とか苦手だし。そっちこそ、老後を穏やかに過ごしたかったら逃げた方が良いと思うよ?」
あの視線を軽く受け流し、おどけて見せる楽天の姿に底知れない恐怖を感じる。このままでは近いうちに王国側の兵士が圧倒して、捕縛されるのも時間の問題だと思うが。
もしや、魅了で王国の兵士を味方に引き込むつもりじゃ。
「魅了とはちと厄介じゃが、魔眼系というのはそれ程珍しい能力ではなくてのう。眼膜光!」
ゴクダ信者の証である杖を掲げると、杖の先端から光が放たれ、弧を描き王国兵に注がれる。名前からして目を保護する魔法のようだ。
「あーっ、対策もばっちりなんだ。困ったなぁ」
と言う割には頬が嬉しそうに緩んでいるぞ、楽天。
ゾンビ兵は打ち止めのようで、一方的な蹂躙が行われている。余裕を見せている場合じゃないと思うのだが。
敵兵は残り一桁、こっちは軽い怪我を負った人が数人いる程度で、戦力としては問題が無い。これは勝ち確定としか思えないのだが、楽天はニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべている。
見るからに何か企んでそうだが……となると。周辺の気を探るが範囲がそれ程広くないので反応は無い。ここから探索範囲を広げるには集中して見るか。
気と集中力。哀しみと慈愛の神ニムヂと趣味と住居の神イクチ。二神の恩恵をこの世界で唯一使用できることが可能な俺だけが出来る組み合わせだ。
気を探ることだけを考え、周囲の雑音も景色も全て遮断する。辺りが沁み一つない白の世界となり、ぽつんぽつんと淡い光を放つ人型の何かが蠢いている。これが人間か。
どす黒い炎が揺らめいているような気はゾンビ兵士か。
更に探索範囲を広げられるか模索する。周囲の気はくっきりと繊細に見えているが、それを朧げな光まで精度を落とす代わりに、範囲を伸ばすイメージをする。
気はない、更に範囲を広げ……あっ、1、2……10、20……禍々しい無数の気が押し寄せてきている!
「キリサ、オハイ! そこの兵士も大扉を閉めるのを手伝ってくれ! 魔物の群れがここに迫っている!」
「は、はい!」
「わかったわ!」
二人は俺の言葉を疑うことなく巨大な大扉に肩を当て力いっぱい押している。俺ももう片方の扉を押しているのだが、この扉異様に重いぞ。
「はっ、筒の勇者が何を言っている」
「我らに命令するとは片腹痛い」
このクソ共が。今はそんなことを言っている場合じゃないだろ。後で死ぬほど罵倒していいから、今は動きやがれ。
「皆さん、扉を閉めるのを手伝ってください」
「お願い……」
シンリンと涙が見かねて飛び出て来てくれたようだ。
涙は珍しく前髪を上げて、シンリンは潤んだ瞳をしている。頭を下げて懇願する二人には屈強な兵士でも一発ダウンのようだ。あれだ、勇者の権力というより二人の見た目で従っているだろ。にやけ面の奴が数人いるし。
昔に捨てた感情の筈なのだが、見た目の良さって強みだよな……。
大扉が閉じると兵士たちが巨大な閂を扉に差し込んだ。と同時に激しい衝撃と共に扉に何かがぶつかる音が謁見の間に響き渡る。
ギリギリだったか。とはいえ、扉の表面が歪んできている。長時間は耐えられそうにないな。
「弩の勇者の身柄を確保するのじゃ!」
ログナライの爺さんも理解しているようで慌てて指示を出している。
ゾンビを殲滅した兵士たちが楽天と王を取り囲み、ジリジリと間合いを詰めていく。
「あっちゃー大ピンチ。なーんてね。これだけ魂があれば贄としては充分よね。さあ、我が呼び声に応えよ、暗き憎悪の王……ドグルゲズグィフル」
楽天が王の肩に手を当てると足元に黒い亀裂が放射線状に広がる。
兵士たちが慌ててその光から避けるようにして下がっている。亀裂は王を中心と円を描き、幾何学模様と英語の筆記体を更に乱雑に書いたような絵柄が描かれていく。
あ、これやばい奴だ。




