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マレビト来たりて 前編  作者: 安積
第5章 異界における学校風景
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 学校へ通い始めてから今日で3日目。とは言っても、今日は受講している講義はない。正しくは、興味を引かれたものはあったけれど週に一度の休みと決めた日だったから受講しなかっただけだ。今期で学校に慣れたら来期は休みの日をずらして取ってみようかなとは思っている。

 だから、学校へ通ったのはたった2日。しかも受講しているのは4科目だけだ。本当は後2科目受講科目があるはずだったのだけれど、それは教授の都合で来週からとのことだった。それにもかかわらず、この疲れ様は何なのだろう?

 流石に昨夜は失敗した。まさか帰ってくる途中で寝てしまうだなんて。もしかしたら二人には相当私が眠そうに見えていたのかも知れず、それ故の申し出だったかと思うとかなり恥ずかしい。学校生活なんてたったの半年振り――大学4年はあまり通っていなかったからそれを除外するとしても1年半ぶりでしかない――なのに、世界が違うからか大分要領が違う感じだ。小学校時代からすれば16年間も学校に通ってたと言うのに、何だか慣れない。もしかしたら、それはただ単に周囲に子どもが多いからなのかもしれない。或いは体が子どもに戻ってしまったせいなのか。どうも疲れが溜まりやすい。小学校に通ってたときは疲れが溜まってしまうなんてことはなかったように思うのだけれど。

 やっていることはと言えば、学校まで徒歩凡そ30分の往復と、あとは講義を聞きながらノートをとるだけ。ギルドへだって似たような距離を歩いているわけだから、そう遠くなったと言うほどではない。体感的には12歳かそこらの頃と同じように感じているわけだけれど、それなら6時間くらいの勉強は問題ないはず……。


 ……?そういえば、小学校の授業って45分授業だったっけ。大学が90分だから忘れていたけど、確かそうだった。しかも6限まであったのは確か週1回だ。それに対して昨日は……日が高く上る前から、日が沈んで月が出る頃まで学校だったな。休憩はしっかり取ったとはいえ。

 あー。なるほど、単なるオーバーワークだ。この世界の子ども達は平気そうな顔して授業を受けていたから気付かなかった。今まで神殿で勉強していた時は、そういえば頻繁に休憩があった。学校で授業を受けるときの倍くらいあったんじゃないだろうか。それも、幾分慣れた環境で、見慣れた人に囲まれて。自覚はなかったけれど、多分精神的にすごく楽だったのだろう。つまり、慣れない場所で知らない人に囲まれて、長時間講義を受けると言うそれなりに緊張を強いられる状況にさらされていた、と。

 ……そりゃ疲れるわ。こんな感じで、更に講義受けて大丈夫かな……?


 とりあえず、今日は一日完全に休養日。疲れる理由が分かったなら、それなりの対処も出来るわけで。一番は、よく寝ること。来週は、早めに寝よう。そう思いながら、押し寄せる睡魔に身を任せた。




 日当たりの良いソファで、本を読みながら睡魔に身を委ねたのはまだ日が上りきる前のこと。目を覚ませば、毛布がかけられ、本はテーブルの上に。部屋の窓からは太陽は見えず、既に日が傾いて大分経つことが分かった。背が低いお陰で二人掛けのソファでも体がはみ出ることはないものの、流石に長時間同じ体勢で寝ていた為かあちこち軋む体を伸ばす。

 確かに疲れを感じてはいたものの、まさか半日寝て過ごすとは思わなかったが、お陰で頭はすっきりしている。明日はギルドに行くのに、疲れを残してたらやっぱりマズい。まさか学校がこんなに疲れるとは予想外だったから、明日以降の仕事が心配になる。あまり疲れなさそうなの有ると良いが……まあ、あんまり楽すぎるような依頼なんて出る分けないのだけれど。


 ソファから起きて色々考えていたら、エメラさんがお茶を持ってやってきた。私が起きたの、いつ気がついたんだろう……? お茶と一緒に軽食が用意されていて、そういえば昼食を食べ損ねていたことを思い出した。本当、エメラさんて気が利くなあ。どうやったらそんな風になれるのだろう。気を配るのが苦手な私としてはとても憧れる。


「昨日は、大分お疲れだったようですね。」


 一緒にお茶を飲みながらエメラさんが言う。私がナイルに運ばれている途中で目を覚ましたときそばにはいなかったけれど、やはり何処かで見られていたらしい。内心で収めたくとも恥ずかしさはすぐに表に漏れ出してしまう。


「……寝るつもりはなかったんですけど。」


「眠れるのであれば心配はいたしません。疲れを自覚しないまままた倒れられるより遥かにマシです。」


 そう言われては、何も言える言葉はない。自分を案じてと分かる言葉に何か言えるような身ではない。自分に非があったことなのだから尚更だ。無茶を自覚してから一度謝罪している以上、ここで謝るのも変だし、かと言って「気をつけます」ではまるで気を付けていなかった様に聞こえるし。まあ、実際早速自分の体力忘れてやらかしたようなものだったのだけれど。


 もしかして、護衛の二人と一緒に帰って来い、というのはああなることを想定してのことだったのだろうか? ふと浮かんだ想像だが、あまりにも有り得そうで聞くのが怖い。実はさっきの言葉も「また無茶しやがって」という言葉をオブラートに包んだものだったのか!? 考えれば考えるほど疑心暗鬼というかドツボに嵌りそうで、なんと答えたものかと迷ってしまう。途方に暮れているとエメラさんが先を続けた。


「どうか無理はなさいませんよう。疲れたと思ったときは、しっかりと休んでくださいね。」


 これならば答えられる、と当然のように肯定の意を返すとエメラさんは安心したように微笑んだ。どうやら、杞憂、だったのだろうか? それ以降その話題が出ることもなく、内心首をかしげながらも、のんびりとおしゃべりを続けていると、この時間にしては珍しくナイルが来、やがて神官長ことツェフじいちゃんもやってきた。誰も明確には口にしなかったけれど、やっぱり半日も眠りこけていたから皆心配してくれたのだと思う。来週は、こうならないように気をつけなくては。


 ……学校で昼寝が出来ればいいのに。思わず浮かんだ考えだったが、案外これは良いかも知れない。今度学校へ行ったときにはブラーシェ先生に相談してみよう、そう心に決めた。

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