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マレビト来たりて 前編  作者: 安積
第5章 異界における学校風景
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「この世界は神々が様々な世界から選びぬいた数多くの種によって成る。多くの種がこの世界に定着して久しいが、言葉こそ共通語があるものの、今尚、お互いの生活習慣、成長過程、特有言語などといった種族的、或いは文化的差異による衝突が小規模ながら起こっている。故に、この講義ではそういった無知故に引き起こされた、知ってさえれば避けられた事件を、実例を参照しながら学んでいく。この世界に生きる者は、誰も他種族と関わることなく生存は出来ない。それはこの街で生きる者も、この街を離れるつもりの者も変わりは無い。世の中にはそれを忘れて己が種の優位性のみ高らかに叫ぶ者たちがいるが、それが如何に愚かであるかこの講義では学んで貰いたい。」


 グレイズ先生の講義はそんな言葉で始まった。


「では、この世界にいる主な種族の説明から始める。とりあえず、一方的に説明していくが、何か質問があればいつでも言ってくれて構わない。

 まずは、神族だ。皆も知っての通り、この世界を作られた神々が遣わされた御子の血族だ。神族、或いは神王と呼ばれている。最も数が少ないとされているが、最もこの世界では重要な種族だ。現在、六系統の血脈が確認されている。隣国ザウルディカのみ神族の血統が絶えたとされているが、研究者間ではどちらかと言うと否定気味だ。

 まあその辺はいずれ上級で教えよう。とりあえず、初級では神族については詳しく話さない。知りたい奴は来期以降に上級の講義を受講してくれ。」


 黒板には神族、獣族、鱗族、人族、羽族、その他少数種族、精霊族とそれぞれ間を開けて書いてある。精霊族を除外した5種族を一括りにした大括弧は人型種となっている。神族のところに「神々の御子、神王」とだけ書くと、次の獣族を指して先生は説明を再開した。


「次に、最もこの世界で多い種族が所謂獣人、と呼ばれている獣族だ。アウトラーシェンやザウルディカでは獣族よりも人族が多いが、世界全体で見れば獣族が最も数が多い。だが、種族として一纏めにされてはいるが、獣族には様々な氏族が存在する。

 氏族ごとに身体的特徴が異なる為、それぞれを別種としてはどうかと言う話が出たこともあったが、そうなるとあまりに種の数が増えてしまうと言うことで見送られたという経緯がある。基本的な獣族の特徴としては、全身が濃い体毛に覆われ、氏族の名となっている獣の特徴を多く持つと言う事だ。人族などとの混血になるとそれが耳や尾、爪などといった末端にのみ獣化が起こるか、或いは人族の身体的特徴に獣族の身体能力を持つ子供となる。何故一部にのみ獣化が起きるのかは明らかとなっていない。」


 意外だ。どうやら町で見かける獣耳の人たちは獣族ではなかったらしい。こういう細かいことまでは神殿では習わなかったから、てっきり今まであの人たちも獣人なのだとばかり思っていた。っていうか、この世界の遺伝子はどうなってる。まさかあれだけ半獣人の人たちがいるのだから彼らが皆生殖能力が無い、ということはありえないだろうし。そんな私の疑問に答えるかのようにグレイズ先生が続ける。


「言い忘れていたがこの世界に生きる人型種の全ての交配が可能だ。異なる種族の両親から生まれた子供は双方の特徴を受けつぐが、神族に関してのみは神族ではない他種族の親の特徴のみを子供は引き継ぐことになる。故に、この世界に降り立った際の神の御子がどのような姿をしていたのかは不明だ。当時の資料が有ればよかったんだが、どうやら意図的に残されなかったらしい。」


 神族に関して先生が愚痴っているがそんなことはある意味どうでも良い。重要なのは、この世界の人型種全てが交配可能というこの点だ。ということは、地球の考え方で行くなら、あんなに姿形が違うのに皆同一種ってことになるのだろうか……?




 質問したいけれど、恐らく、正常な交配可能=同一種という考え方自体が地球特有のものである可能性が高い。後で先生に直接聞くか、神殿で誰か詳しそうな人に聞いてみればいいだろう。

 一方的に説明だけをしていく、との宣言どおり、途中で問題を出したり、意見を聞いたりすること無くひたすらに説明を重ねていく。板書は多い方ではなく、ほとんどが口頭のみで進められていく中、私含め生徒達に質問をする余裕はあまり無い。質問が浮かんでも、次から次へと書かねばならないことが出てきて頭を整理する暇が無い。ノートをとらなければその限りではないのだろうけれど、書かなければ書かないで覚えていられそうも無いため、浮かんだ質問も一緒にノートに書き込んでいく。

 因みに、ノートはほとんど日本語で書いている。特に意識しなくても、読み書きは全てアウトラーシェンの言葉で書くことが可能だし、慣れるためにも神殿での講義の際には常にこちらの言葉で書いていた。でも、こうも早く書かなければいけなくなると、いくら知識がほぼ完全に関連付けされているとは言っても、やはり脳は使い慣れたほうを使いたがるらしい。脳というか、もしかしたらこれは手が記憶している通りに動いているのかもしれない。ノートを見返せば、所々、こちらの世界の固有名詞のところだけがこの世界の言葉で書かれている。もともと字がきれいな方だとはいいがたかったが、二ヶ国語が混じった、しかも急いで書いた為に蚯蚓が這った様な有様のそのノートは読みやすい、とはどうあっても言えそうには無かった。これは、忘れないうちにノートをまとめなおした方が良さそうだ。

 獣族の説明が終わり、そのまま止まることなく、鱗族へと進んでいく。鱗族とは、簡単にまとめれば読んで字の如く、鱗の生えた人々だ。地球の生物に当てはめるならば、魚類から爬虫類までの人型の進化系の総称とでも言えばいいのだろうか。所謂“人魚”は純血種としては存在しないが魚人は存在するらしい。魚人との混血には人魚に似た姿をするものもいるようだが、滅多に存在しないという事だ。何故ならば、魚人は完全な水棲人類であり、陸生人類と交配する機会というものが滅多にないからだそうだ。かつて記録にはあるが、残念ながら現在においては生息は確認はされていないという。

 鰓呼吸と肺呼吸、そんな大きな壁を乗り越えてカップルとなった人々がかつて存在したということ自体が私にとっては大きな驚きだ。他に鱗族には幼生は水中で育ち、大人になると陸生に変わる両棲の種族や、所謂リザードマンや恐竜人間によく似た姿をした種族がいるのだという。

 だが、鱗族は今では余り数は多くない。その理由が、“竜”に似ていたことから他種族によって迫害を受けた、と聞けば私に責任のあることではないとはいえ、申し訳なく思ってしまう。

ただ“鱗”がある、たったそれだけの理由で竜の同族に扱われたことがあった、そんなことが起きるほどに竜はこの世界に恐慌を齎したのだと思うと、哀しくなる。

 鱗族にとっても、竜にとっても、その外の人型種にとっても。なんで、そんなことになってしまったのだろう。そんな暗い気持ちのまま、授業は一端休憩となった。

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