表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マレビト来たりて 前編  作者: 安積
第3章 同胞の足跡と、初めての魔法
PR
28/64

 神殿に帰り、食事も入浴も済ませ――よく噛め、ちゃんと温まれとエメラさんに怒られたが――、応接室の座ると足がつかなくなるソファに腰掛けて内心そわそわしつつ、表面上はゆったりと待っていた。魔法が出来る、と言われた途端これなのだから、私はやはり精神的にはまだまだ子供の部分が多いのだろう。成長してくるにしたがって、それなりに取り繕う事を覚えはしたけれど、地球で社会人生活を送ったことの無かった私のそれは、まだまだ児戯の範疇だ。やって来たナイルと神官長は私のそんな様子を見ると、顔を見合わせて苦笑した。

 隠そうとしたって隠しきれないのならいっそ堂々と、とばかりに挨拶もそこそこにナイルを呼び立てる。その様に神官ちょ……そういえば名前で呼んで欲しいと言われていたんだったか、神官長もといツェフじいちゃん――この呼び方もどうかと思ったのだが、本人が気にいっているようなので何も言うまい――が笑みを深めるがそんなことは気にしない。部屋の入り口で立ち止まられたら時間の無駄なのだ。例え月が歩みを止めたって、エメラさんは就寝時間を遅らせてはくれないのだから。自分でも子どもっぽ過ぎる態度だとは思ったが、もしかしたら自分で魔法が使えるかもというこの興奮を、地球の、それも二十一世紀初頭の日本に生きたオタク諸氏ならば理解してくれると信じてる。

 部屋の中に入ってきた二人は、せかす私に促されて向かいのソファに並んで座った。


「お待たせしてしまったようで申し訳ありません。」


「前置きは良いから早く!」


 子供――実年齢は違うが便宜上――の夜は短いのだ。


「それでは、まず簡単に魔法について説明します。一通りの概論は読まれた様ですので、さわり程度ですが。」


 そう言って、ナイルは本当に簡単な説明を始めた。とりあえず、重要なことは魔法とは意思の力でなす世界の改変行為だと。そう在るんだと強く認識すればするほど、はっきりと魔法として現れる。魔力保持量によっても多少は異なるが、基本にあるのは意志の力だ。

 例えば同じくらいの魔力保持量の人が火を出そうと思った時、その思いの強さによってマッチの火程度しか出せない人から、火炎放射器並みの火を出す人まで随分と幅があるようだ。そういった魔法そのものの解説から、例えるならば花火の注意書きに書いてあるような、「花火を人に向けてはいけません」的な「魔法を人に向けて放ってはいけません」というある意味で一般常識的な話まで、話は1時間弱ほど続いた。その間、ツェフじいちゃんは時々口を挟む他は、隣でエメラさんと一緒にお茶を飲んでいた。


 一通りの話が終わった後で、ようやくナイルはこういった。


「少し話が長くなりましたが、それでは実践にいってみましょうか。」


「はい!」


「では、まずはやってみてください。」


「は?」


「言ったでしょう? 魔法は意志の力でやるものだ、と。」


「はい、聞いたし読みました。でも、こういうのってまずその魔力の感知とか、そういうのから入るんじゃないんですか?」


 でもってやり方とか何とか教えてくれるものなんじゃないだろうか。トリップもののセオリーではそういうものだった。で、主人公は大抵一発で理解したりする。……うん、私にそれだけの主人公補正があるはずなかったよね。


「まずはやりたいことをはっきりと思い描いてみてください。あなたは水霊の加護がありますから、水に関連したものの方がやりやすいかもしれませんね。ですが、加護と魔法はそれほど強い関係性があるわけでもありませんから、どんなことでもかまいませんよ。」


「じゃあ、とりあえず水を出す?」


 と、空になったカップに目を向ける。なみなみと注がれた、ではなく、喉を潤すのに丁度良いくらいの1杯の水。そこにそれがあることを強く思う。いっそのこと何処かの魔王様のように巨大な竜でも出来ればいいのだけれど、そこまでいくとしっかりとイメージできる自信はない。

 しかし、自分ではかなり明確にイメージできたと思うのだけれど、カップの中身は空のままだ。


「あれ?」


 せめてカップ1杯の水くらいなら…と思ったのだが、どうやらそれすら無理らしい。地味に落ち込んでいると声が聞こえた。


「やはり出ませんね。」


「……やはり?」


 なにやら聞き捨てならない言葉が聞こえてきたような?


「他意は有りません。ただ、確認をしたかったのです。貴方と同郷である始源の魔法使いは誰から教えられることなく魔法の力を発揮したとのことでしたから、もしかしたら貴方もそうなるのか、とも思ったのですが。」


 どうせ私はチート仕様じゃ有りませんよ。


「では、私たちが実践して見せますので、よく見ていてください。」


 言うが早いがナイルの掌の上に、小さな竜巻のようなものが発生していた。


「分かりましたか? では、次はエメラやってみてくれ。」


 分かるって何がだ。って、エメラさんも魔法使えたの!!?


「はい。それでは。」


 エメラさんも当たり前のことのように、100円ライターの火力を最大にしたときくらいの炎をピンと立てた人差し指の先に灯していた。人間ライター、これで貴方も火種要らず……? なんかよく分からん言葉が頭に浮かんだ。疲れてるのかもしれない。


「では、神官長もお願いします。」


 ツェフじいちゃんは一つうなずくと、軽く上げた手で直径30センチくらいの円を描いた、と思った瞬間にはその手の動きに合わせどこからともなく水が現れ、手がそこを離れると同時に空中に水で出来た円盤が浮いていた。


 魔法だ。

 どれもこれも、初めて見るけど確かに魔法だ。誰も気負ったところもなく、どう見たって不思議で仕方がないそれを簡単にやってのけて、それを当たり間のことのように平然としている。その様子を見ていてなんとなく気づいた。

 彼らにとってはこれは当たり前のことなのだと。魔法がない世界から来た私だから不思議に思うのであって、彼らにとってはこれは日常の一部でしかないのだ。

 宙に浮いた水盤に触れると表面に波紋が広がった。これは、よくできた3Dホログラムでも幻覚でもなければ手品でもない、現実にそこにある物質だ。

 意志の力で魔法を使う。そのために必要なのは、具体的に思う浮かべることだけでなく、それが確かに現実として起こるのだ、という明確な意思なのだろう。出来るはずがないという否定は当然のこと、出来るのかといった疑問もあってはいけないのだ。望んだ事象そのものが現実であると強く認識しなくてはならないのだろう。

 そういえば、これがこの世界に来て初めて見る魔法なんだな、と妙な感動を抱いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ